柴田 愛子                

 前回「今のところ、泣き叫ぶ子が少なくて、順調な滑り出しです。年々、『親と離れてパニック状態』の子は少なくなってきたように思えます」と書きましたが、これは撤回します。
 先週は、それは、にぎやかな朝でした。泣いています! 
 お母さんを求めて叫ぶように泣く子、怒ったように泣く子、「おはよう」代わりに大泣きしてケロッとする子。
 穏やかなのは始めだけでした。
親と別れるということがピンときていなかったのか、なんとか緊張で保っていたのが限界に来たのか、一日二日のことと思っていたのに、続けて来ることがわかったのか。
 いずれにしても、てんやわんやの朝です。
 でも、泣くことから、始めの一歩が始まります。「泣ける」自分を出せてよかったです。
 4歳から入ってきた子も同じようです。ある日は泣き叫び、次は泣かず、でも又泣きと、心が不安に揺れているのがわかります。

 さすがに5歳児は、環境の変化に惑わされずに、あそんでいます。
 5歳児二人と4歳児が一人、混ざってあそんでいました。私が近づくと早々に「なかまにはいる?」と、リーダーらしいゆいこちゃんに誘われました。
「なにやってるの?」と聞くと「かぞくごっこ」というので、入ることにしました。
 子どもはみんな「おねえちゃん」。2年生、3年生、5年生といます。
 私はお母さん役をあてがわれました。
 そこへ「いれて」と一人やってくると「4ねんせいならあいてるよ」との返事。
「じゃあ、4ねんせいのおねえちゃんになる」
 おもしろいですね。ほんとだったら、年子で4人! おかあさんはさぞや大変!! 
 そうそう、クマの人形が赤ちゃん役です。

 私は名目上お母さんなのですが、実際はゆいこちゃんが仕切っています。
「おかあさん、おかいものにいってきて!」と、葉っぱを数枚渡されました。
 これがお金かと思ったら「あかちゃんのミルクにも、おかずにもなるから」と言います。どうやらお金ではなく、葉っぱは物に化けるらしい。タヌキ?
 お姉ちゃんが、赤ちゃんを抱いてあやしています。
「あら、びょうきだわ。おいしゃさんにつれていきましょう」と医者に行きました。
 しばらくして「インフルエンザだったわ」と帰ってきました。
「このこ、アレルギーがあるから、たいへんなのよね。びょういんに、にゅういんしたりして」とつぶやいています。これはゆいこちゃんちの実話。弟が赤ちゃんのときに、そんなことがあったのです。
 やがて、なんとしたことか「あかちゃんがいるとたいへんだから、うまれるまえにするのね」と時間は逆にながれ、私の洋服の中にクマのぬいぐるみが突っ込まれました。私は大きなお腹を抱えてお買い物。部屋の中でやっている粘土のピザ屋さんに、夕飯を注文しました。ピザ屋さんはあふれるほどのピザを次々持ってきてくれました。
 あそんでいると時の流れを忘れてしまいます。「もう、帰る時間よー」と保育者の声に戻されて、「また、あしたやろう!」でお終いになりました。
 不思議です。私は普段はおとな扱いされています。でも、あそびに入ったとたんに、子どもと同等になるのです。
 おとなである姿は見えていないのではないかと思うほど、ちゃんと子ども扱いされます。
 だからこそ、ありがたく、恥ずかしくもなく楽しめるのですけどね。
 なんだか、あそんだ日は一日が充実していた気がします。
 子どもたちありがとう! (4月25日 記) 

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