柴田 愛子                

 爽やかないい天気。歩いて15分くらいの所に、ザリガニ釣りに行きました。4、5歳児数人と、小学4年生のしんぺいくんも一緒(代休で来ていた)です。
 木の枝に糸を結び、その先にスルメをつけて小川にたらします。
 ものの5分もしないうちに、しんぺいくんの糸にザリガニが食いつき、釣れました。
 余裕でつかみ、バケツに入れました。
 5年前、同じ場所で、4歳だった彼はザリガニを見つけました。けれど、そのときはつかめなくて、グズグズしていたので5歳児のひろきくんが手で取ってしまいました。そのザリガニはしんぺいくんのものか、ひろきくんのものかで騒動になったものです。
 昨日のことのように脳裏に浮かびます。
 そのしんぺいくんが、なんということなくつかんでバケツに入れる姿は、大きくなった証拠を突き付けられたようにうれしかったです。そして、他の小さい子どもたちは「かっこいい」「さすが」と、憧れの眼差しです。

 やがて、5歳児のたかちゃんのスルメにザリガニが食いつきました。糸を引いても離しません。徐々に糸を引いて、ゲットしました!
 すると、近くにいた4歳の子が「ちょうだい?」と言いました。
 たかちゃんは「いいよ」と、すんなりあげました。
「どうしてあげちゃうの?」と私が聞くと、「うちにはたくさんいるんだ。きのうもとりにいったし」との返事。
 その姿は誇らしげです。

 小川には、たいてい二人ぐらいが肩を寄せ合って、糸をたらしています。
 さくちゃんは「ここにザリガニがいる」と、じっと糸をたらして真剣な表情です。
 ところが、隣にいたまさきくんが「ザリガニがいるよ! ここにいるよ!」と、大きな声で叫びました。
 ザリガニはスルメを離して引っ込んでしまいました。
 怒った、怒った、さくちゃん!
「まさきがおおきなこえをだすから、ザリガニがにげちゃったじゃないか」
 そうかどうかわかりませんが、さくちゃんはそう思ったのです。
 それから、場所を移して、糸をたらしますが、なかなかつれません。
 怒っていた彼の顔は泣き顔に変わり「だから、さっき、とれそうだったのに、まさきが‥」。帰る前に釣れて、めでたしの笑顔になり、ホッとしましたけど。
 怒られたまさきくんはザリガニに興味はなくなり、スルメを全部食べてしまいました。それから、裸になって水がたまった場所でバチャバチャと遊び始めました。水は泥色でしたが、まあ、いいか。
 やはり、ザリガニはどうでもいいあやとくんは、石をせっせと運んでいます。小川を石で堰き止めていたのです。まるで作業員のような姿でした。

 うみちゃんは、大きなしんぺいくんに寄り添うようにして、座っています。ザリガニを捕ろうという意欲は感じられませんでしたが、幸せそうです。
 緑の木々に囲まれた遊歩道。小川に添って子どもたちがあそんだり、糸をたらしている光景はなんだかゆったりして、気持ちがいいです。
 通りがかる大人たちも懐かしいのでしょう「ぼくも、昔やったなぁ」と、バケツをのぞいていきます。「あっちのほうにもいたわよ」と教えてくれる人もいます。
 木登りしたり、木を振り回したり、走り回っているときより、ずっと好感をもってくれるようです。
 ザリガニは数匹釣れました。
 あげたり、もらったりするやりとりを見ていますと、「もらううれしさ」より、はるかに「あげる喜び」の方が勝っていると思いました。
 あげる側の子どもの顔は、得意げというか、兄貴面というか‥‥。優者のゆとりで輝いていると言えるかも知れません。
 みんながどんどん釣れてきたのを見て、やっぱり「やろう!」と私も糸をたらしました。やっぱり、だめでした。
 私、いまだに釣れたことがありません‥‥。
(6月13日 記) 

 来週は前半札幌、後半富山に伺います。1回お休みします。

●柴田愛子講演会のご案内
6月19日(土) 13:00受付開始 13:30開始
場所 鎌倉芸術館大ホール(JR大船駅下車 南口 徒歩10分)
タイトル「大人と子どものいい関係 〜大人のつもり、子どものつもり〜」
主催 財団法人湘南教育会館
共催 湘南教育文化研究所
   湘南地区母と女性教職員の会をすすめる会
☆当日参加可能 無料

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