柴田 愛子                

 黄色い厚い封筒の郵便が届きました。開けると、DVDが入っていました。
 それには、今年20歳になる卒業生のしゅんちゃんと、16歳になる弟のようちゃんのピアノの発表会のシーンが映っていました。
 それぞれが2曲ずつ弾いていました。
 大きくなった手でピアノを弾く姿はたくましく、音もリズムもなかなかです。
 題名は忘れましたが、若者らしいアレンジ曲で、グランドピアノが釣り合っていました。
 最後には、なんと、二人の連弾。お互いに気遣いながら、手を交差して弾いていました。
 大学生と高校生の兄と弟が肩を並べてピアノを弾いている。素敵ですよね。
 よくぞ続けてきましたよね。
 二人にとって生涯の趣味になるのだろうと思いながら、聞き惚れていました。

 そして、続きに、その兄弟の小学校6年と2年のときの連弾している姿が映し出されました。
 まだ、幼い頃の面影が残っている二人の姿です。
 兄は弟を心配そうにチラチラと見ながら、弟はまだふっくらしたほっぺで幸せそうに弾いています。

 DVDを見ながら、心が震えていました。感動? ではなく、感慨でしょうか。
 この二人が舞台の上でピアノを弾いているとき、たぶんお母さんの目には幸せの涙が溢れていただろうと思います。
 泣き虫のお母さんでしたから。そのことも含めて、胸が熱くなりました。

 実は、このしゅんちゃんは、私の絵本「ぜっこう」の登場人物です。
 ちょっとお調子者で、人がよくて、みんなの気持ちを和らげる人柄です。
 でも、取っ組み合いのけんかもしました。けんかの後のすさまじい形相は、今でも目に浮かびます。
 私にとっては、昨日のことのように思い出されます。
 そのままの性格で大きくなったかどうかはわかりませんが、ピアノの音は温かくやさしげでした。

 今年も卒業生のキャンプに20日から25日まで行きます。
 小学校1年生から24歳まで、132人の参加です。
 ずっと来続けている子もいますし、突然やって来る子もいます。
 「部活で行けない」「受験勉強で行けない」という手紙ももらいます。
 何も言ってこない子だってたくさんいます。
 まあ「便りのないのは元気な証拠」くらいに思っています。
 来たい子がくればいい、困ったときに思い出してくれたらいい、そんなゆるゆるした気持ちです。

 保育園や幼稚園時代は、子ども自身の大半は記憶に残っていないかも知れません。
 でもきっと、あの無力で、親と離れて泣いた子を引き受けた保育者は、そして、素晴らしい勢いで成長する幼児期の姿を見せてもらった保育者は、いまでも、当時の子どもの顔がすぐに浮かぶでしょう。
 子どもの幸せを遠くから願っている他人がいることを信じてくださいね。
 そして、こんなふうにお便りをいただいたら、飛び上がって喜ぶことをお伝えしたいと思います。

 というわけで、次回はお休みです。(8月16日 記) 

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