柴田 愛子                

 先週はいい天気が続きました。
 りんごの木の周辺は、木々がいっきに色づき、紅葉を迎えました。
 穏やかで暖かな日、4、5歳児が過ごしている通称「畑」に行きました。
 畑といっても、実際の畑はほんのわずかで、あとは泥や草の空き地です。
 わずかな畑には、サツマ芋ができていました。
 数人の子どもが、小さなシャベルで、お芋を掘っています。
 掘ったお芋を洗うと、それはそれはきれいな紫色になりました。
 もっと、もっと、ゴシゴシ洗った子の芋は、なんと、皮がむけて赤裸、白くなってしまいました。
 芋を濡れた新聞紙で包み、アルミホイルでくるんで、たき火の中に入れています。そう、焼き芋です。

 大きなシャベルで、大きな穴掘りに夢中になっている子どもたち。
 大木になった杏の木に登って降りれなくなり「たすけてー」と叫んでいる子。
 二人でハンモックに乗って揺れている子。
 木からぶらさがったブランコに乗っている子。
 本物の鍋釜でままごとをしている子どもたち。

 木の切り株に、6人くらいが並んで座っています。
 その向かい方の切り株には一人。その子がオニ役のようです。
 オニの子が「クレヨンちょうだい」と声をかけると、並んで座っている側が「なにいろですか?」と聞きます。
 オニが「あかです!」と言うと、あかの子が逃げる。オニにタッチされると交代というオニごっこでした。
 どうやら、あらかじめ自分が何色かを決めておくようです。私は初めてみたあそびでした。かつて愛知県の幼稚園で体験したあそびを、保育者が伝えたようです。
 やがて、横になった長い枝が向かい合い、そこに数人の子どもが座っています。そのまん中でレスリングが始まりました。
 一対一で戦いますが、疲れたり負けそうになったりすると、タッチができます。
 土の上で組んずほぐれつ、かなり激しいです。木の端に座り「みてるだけでいい」と半分身を退いている子もいます。
 タッチできるので、一対一の戦いより気持ちが楽なようで、女の子も参加しています。
 これは、子どもたちが考え出した新しいあそびのようです。
 ワーワーやっている連中の横で、全く無関係に一人あそびに熱中している子もいます。

 こんな子どもたちを眺めていると、ほんとに幸せな気分になります。
 いえ、私だけではなく、子どもたちもたっぷりとした気持ちになっているでしょう。
 そして、思うのです。どうして、おとなたちはこんなふうに子どもたちが快適に過ごすことを怖れるのだろうかと。
「行事に追われていて、子どもがあそぶ時間がないのです」「とことん、あそばせてだいじょうぶですか? その後には何が残るのでしょう」と言う保育者たち。
「自分の好きなことばかりしていて、だいじょうぶですか? 子どもだって、イヤなことを我慢してやるという経験も必要じゃないですか?」
「みんなで同じ事をやる経験をさせなくて、だいじょうぶですか?」
「英語や字や数字を教えなくて、小学校行って困りませんか?」

 すべての心配は、子どものあそぶ姿を見れば消えてしまいます。
 子どもたちは、ちゃんと、一人前の自分を持っています。自分であそびや友だちを選択しています。その表情は堂々としています。
「子どもは、子ども時代に、子どもの時間をたっぷり過ごすのがいい」とつくづく思わせられた日でした。(11月14日 記)

●2010年のバックナンバーはここをクリックしてください。
●「つれづれAiko」連載の05年1月〜07年12月から53編を選んで一冊にまとめました。詳しくはここをクリックしてください。