柴田 愛子                 

 新年あけましておめでとうございます。
 皆様はどんな新年をお迎えでしたでしょう。

 私は小さい頃の慣わしで、12月31日にはNHK紅白歌合戦をみて、年越しそばをいただき、除夜の鐘を聞いて寝ました。
 芸能界に疎い私は、紅白で初めて知る人やグループも多く「いま、こういうのが流行っているのね」と時代を知るための番組となっています。
 元旦。いちおう、お雑煮とおせちをいただきます。
 かつて、母が用意した頃のおせちとは比べものにならないほど質素で手抜きですが、いちおう…。
 そして、待ち受けていた年賀状がきます。
 ありがたいことにどっさりきます。
 その、一枚一枚をしみじみと見させていただきます。

 懐かしい友だちは、孫のことや親の介護のことが書かれています。
 卒業していった子どもたちの親からは写真が多く、感慨深く眺めます。
 おこがましくも、かつての幼い頃を共に過ごし育てていた同士のような気持ちでいます。中学生以上になると面影さえありません。
 小学生はかろうじて、それほど変わっていない顔をしています。
 成長する姿を知ることは、とってもうれしいです。
 その他にも、仕事を通して出会った方々からも頂戴します。
 拝見しながら、たくさんの方と関わり、たくさんの方々に支えられながら今を迎えていることを感謝します。

 さて、そこからが大変です。だって、私、年末までに年賀状を1枚も書いていません。いつもです。読ませていただいてから書くのですから。
 というわけで、すでに10日を迎えようとしているのに、まだ、書き終えていません。頂戴した方には失礼をお許し下さい。
 でも、いただくのは嬉しいのですから、これからもよろしく!

 りんごの木は、祝日の10日から保育が始まります。
 やっぱり、元気は子どもからもらえます。楽しみにしています。

 ところで、昨年の終わりになりますが、ちょっといい光景を見たので、お話しさせてください。
 りんごの木の2、3歳児の小さな家は二階屋です。階段の下から三段目くらいに、だいちゃんとあっくんが向かい合うように並んで座っていました。
 下に降りたかった私が「ちょっとごめんなさい」と通ると、二人がほっぺを膨らまして、怒って向き合っていたのです。
 この場はけんかになると危ないと思ったので、彼らの下に留まって見ていました。
 どうやら、四角く組み合わせたブロックを取り合っているようです。
 だいちゃんがしっかり手に持っているのを、あっくんがときどき取ろうとしてはうまくいきません。二人は無言です。
「このブロック、ふたりがほしいの?」と聞くと「これ、ぼくの」とあっくんが言います。すると「おかねはだいちゃんの」と言います。
 ブロックの中に、丸いブロックが入っていて、カタカタと音がします。それが、お金のつもりのようです。
「じゃあ、中のお金出してあげようか?」と聞くと「だめ! だいちゃんの」。
 無言の取り合いが始まりますが、なぜか、物静かです。
「あら、困ったわね。あっくんもほしいし、だいちゃんもほしいのね」
「うん」
「じゃあ、同じのをもうひとつ、つくるのはどお?」
「いや」「いや」
「私がつくってあげようか? つくれるよ」
「いや」「いや、これがいい」
「じゃあ、どっちかががまんするのはどお?」
「いや」「いや」
「じゃあ、ジャンケンできめるのは?」
「いや」「いや」
「じゃあ、けんかするのは?」と聞くと、
「いや」「いや」
 私のアイディアは、もう出つくしてしまったので、黙ってしまいました。
 二人も黙っています。
「じゃあ、もう、どうすればいいかわかんないわ」と言うと、あっくんが立ち上がりました。そして、二階に上がっていきました。
 だいちゃんはブロックを手にしてにんまり。下に降りてあそび始めました。
 しばらくすると、なんと、あっくんがブロックを四角に組み合わせた同じ物を手に持って降りてきました。
 あっくんは、どうにも自分の手に入らないので、やりとりをしながら「しょうがない。つくろう」という結論をだしていたのでしょう。
 だいちゃんは、もちろん、これに気づきました。なんとも、複雑な心境だったに違いありません。
 言葉を使わない心のやりとり、言葉で終止符を打たない子どものやり方。
 一見どうにもならないときにも、子どもの気持ちはちゃんと流れ、自分なりの処理の仕方を見いだせること、うっとりしませんか?
 「もっと、子どもを信じて待とう」と思う、印象的なエピソードでした。

 というわけで、今年も「ちょっと待って、子どもの魅力を堪能しよう」と思っています。
 みなさんも、ちょっとこらえて、子どもに任せる年にしませんか?(1月9日 記)

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