柴田 愛子                 

 幼い子どもを育てている母親たちにお話しにうかがって、あれ? ちょっと変わってきたかしら、と思うことがあります。
「公園に行って、子どもが水飲み場で水あそびを始めたらどうしますか?」という質問を私がしたときの答えです。
 まあ、ほとんど八割以上の方が「止める」といいます。

 これは変わっていませんが、その理由をお聞きすると、以前は「水は大事と教えたいから」というのが大半、次に「公共の水だからあそびに使ってはいけない」という意見。そして「周りの人に迷惑だから」という答えでした。
 この頃は、「濡れるから」「周りの子が濡れて、迷惑をかけるから」というのが圧倒的になってきました。
「濡れるから」という方には「乾きますけど?」と返すと「風邪をひきます」とおっしゃいます。そこで、しつこく「そのくらいでは風邪はひきません。長時間放置して身体が冷えると風邪を引きます」と食い下がったりしています。
「周囲の人が濡れるから」という方には「水は無色透明ですから、乾けば跡が残ることもありませんけど」と言ったりして、みなさんを困らせています。

 先日、期せずしてお二人の方が同じ事をおっしゃいました。
 ひとりは世田谷の羽根木プレーパークのプレーリーダーで、子どものあそびに関して納得できるお話しをしてくれる天野秀昭さん。
 もうひとりは慶應義塾大学病院小児科の渡辺久子さんで、医療関係ではめずらしい人間性ある回答をなさる方です。
 おふたりがおっしゃったのは「子どもはAKU」である。つまり、あぶない、きたない、うるさい、の頭文字をアルファベットにするとAKUなのです。
 このどれもがあってこそ子どもであって、そのどれかが欠けていたら子どもではないという話でした。
 いま、小さい子を育てている人たちは、こんなこと思ってもみないのではないでしょうか。
 先の水いたずらの答えもそうですが、周囲の人間関係に最大の注意が払われている子育てのような気がします。

 先日も、「叱る」というテーマでお話しに行きました。叱る中には必ず「しつけ」が出てきます。
「何をしつけたいですか」とお聞きすると「挨拶」「食事のマナー」「迷惑をかけない」と返ってきました。
 2歳ということだったので、どの方にも「無理です!」と話しました。
 ある企業が調査したデータでも、この三つがほとんどの母親がしつけたいことでした。
 あるべき子どもの姿と、親が育てたい子どもの姿は、こんなにギャップがあるのです。そのギャップは、おとなの人間関係過敏症がつくっているのではないでしょうか。
 人間関係を意識的にスムーズにしようと思うと、常にアンテナを張っていなければなりません。それは疲れます。まして、子どもを巻きこんではうまくいくはずがありません。
 みんなで、思うようにならないAKUたちをあきらめて見守ることができたら、気が楽になるのではないでしょうかね。(1月30日 記)

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