日常

はな

柴田愛子

 年長児5歳のまゆちんと、ほなみちゃんが外のベンチで遊んでいます。
「ジュースやさんしてるけど、おきゃくさんになる?」と聞かれました。
「うん」と答えると、「じゃあ、おかねもってきてね」と言います。
 驚いていると「はっぱでいいのよ」と言われました。
 葉っぱを一枚ちぎって、ジュースやさんに行きました。
 ベンチの上には色とりどり、美しい色水が入ったペットボトルが並んでいます。赤、青、緑、ピンク、紫、水色……8本くらい並んでいます。
「ください」「はい、どれにしますか?」と聞かれ、迷った末「オレンジのにしてください」と言うと、それぞれのペットポトルの蓋には穴が空いていてコップに何色かをシューと入れてくれます。
 目の前で色が混ざって変わっていくのは、ワクワクします。
「ここでめしあがりますか?」と言うので「はい」と答えると、テーブルと椅子を用意してくれました。
 そこからは、調理している二人の手元がよく見えます。
 青い色水の入ったお皿の中に、色とりどりの花が浮いています。とってもきれい。
「あのー、それなんですか? すてきですね」と言うと、「サラダジュースです。いりますか?」と言うので、「はい」と言うと、よそってくれました。
 もうひとりがフライパンを持ち出しました。
「ティッシュ、いちまいくれない。あぶらひくから」と言うので、とってあげました。
「さっきは、あぶらひかないから、こげちゃったの」と言いながら。、ほなみちゃんはフライパンに油(水)を敷き、ティッシュを丸めてくるくるとこすりました。
 そこへ、石けんを泡立てたクリーム状のものをボールから移して、フライパンに乗せます。もう、私の目は釘付け。
 泡をフライパンの上で平らにします。ホットケーキみたいです。
「あの、それ、ホットケーキですか?」
「そうです」
「それください」と身を乗り出して言いました。
 すると、まゆちんがいいました。
「あのー、そんなにいっぱいたべるんなら、もっと、おかねもってきてください」。
 
 5歳児の子どもたちは、みごとに本物のあそびをしています。つまりあそびに没頭しているのです。
 あきることもなく、あーやったり、こーやったりしながら、どんどんおもしろさを増していきます。
 ほかでは、空き箱で工作している子、シートを大胆に敷き詰めて家族ごっこをしている子、部屋のドアーを「おのりのかたは、おいそぎください」と開けたり閉めたり電車のドアーに見立てて繰り返している子、公園にボールをもって出かけた子もいます。
 地震の回数も減ってきたせいでしょうか、おとなが落ち着いてきたせいでしょうか、子どもたちも大分日常を取り戻してきたように思える日でした。

 私は、こちらに避難してきた家族にお目にかかったり、土曜日「子ども環境学会」に参加して、被災地に足を踏み入れて来た人、こちらに避難してきた人、原発のことなど、確かな生の声を聞かせてもらいました。やっと落ち着けました。自分を取り戻せたような気がしています。(4月24日 記)

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