時間

花

柴田愛子

 もう5月になってしまいました。日々、木々の緑が濃くなっています。
 でも、まだ新学期。2、3歳児は母親と別れるときは泣きます。
 子どもはまだ声帯がきれいなせいでしょうか、それは立派に響く声です。
 まだ人生数年しか生きていないのに、親と離される大事件にでくわしたのですもの、泣いていいです。
 いっきに幼稚園や保育園に慣れるわけではありません。保育者を信用できるわけでもありません。
 日々の積み重ねで、だんだん大丈夫になっていくのですから。
 いろんな出来事を考えてみても、人間「時間が必要」ということをつくづく感じます。

 29日に「新一年生の会」をしました。
 親子で集まって、子どもは保育者と以前のように遊び、親たちは持ち寄った料理をつまみながらお喋りに興じました。
 案外スムーズに学校生活をスタートしている子、意外に苦戦している子、様々でした。
 でも、多かれ少なかれ、家では大暴れしたり、泣き叫んだり、下の子に当たったりと、緊張をほぐしているようです。
 子どもがシュンと元気をなくしていたり、部屋の隅でしみじみと泣いたりすると、親としては切なく、何とかしてあげたくなってしまうでしょう。でも、どんなに愛していても魔法はつかえません。これも、親子ともに時間が必要ということでしょうか。

 まだ慣れない状態の子どもに、避けてほしいことがあります。「言い聞かさないこと」です。
 気持ちが通じる友だちもいないし、先生という人の言うことを聞かなければいけないと思っているし、意地の悪い子はいるしと、子どもはいろんな事に神経を使っています。
 家で親に言いつけたり、八つ当たりしたり、泣いたりすることで吐き出すのです。
 ですから「イヤなことをされたらイヤと言いなさい」とか「先生の話をよーく聞いていればわかるでしょ!」とか「あそぼって言えば、友だちになってくれるよ」とか、言い聞かすことはほとんど役に立ちません。
 共感して、落ち着かせてあげましょう。しみじみと泣いていたら、背中をさすってあげましょう。
 気心が知れた友だちと思いっきり遊ぶことは有効です。子どもはやっぱり遊ぶこと、笑うことで元気を取り戻します。元気を取り戻すと、前に進む元気も出てくるというわけです。
 子ども自身に、ちゃんと力があると信じてください。
 親の心配が、家のムードを暗くしないようにしてくださいね。

 ところで、この日、子どもの様子を話すと同時に、多くの方が震災の事に触れていました。50日近く経って、気持ちが言葉にできるようになったのだと思います。
 被災者の方たちも、やっと泣けるようになったと聞きました。
 私の気持ちも落ち着きを取り戻してきました。
 こちらに単独で避難してきている人の声を聞きました。
「放射能がうつる」といじめにあったり、福島ナンバーの車は駐車できなかったりと、驚くばかりです。
 悪気ではないかも知れませんが「いつまでいるの?」という質問や「百万円もらえるんだって?」という声は心の傷をより一層深めています

 被災地には行けないけれど、身近に避難して来ている人を心から迎えたいと思います。
 私が自分を取り戻し、前を向けるようになったのは、生の声を聞いたことからでした。
 それで、下記のような会を開くことにしました。チラシを載せさせていただきます。

 

東日本大震災で被害にあった「現地の人の思いを聞く会 第1回」 5月8日 終了済み・・・・・・・

 今回の被害の大きさは、私にとって、生まれて初めて身近で起きた大惨事です。災害は地震、津波、原発と三つの要素があると思います。それぞれの地域で、被害の内容、人の気持ちにも違いがあるでしょう。時間の経過による違いも出てきています。
 当初、私は、何をどう支援したらいいのか戸惑うばかりでした。周りの「支援、支援」という勢いに、何も動かない自分に罪悪感さえ覚えて暗くなっていました。現地でかたづけるほどの体力は無し、わずかな蓄えをいくらを提供すれば支援になるのか、私らしい支援ってどんなことなのだろう………自分の足下がふらついていたように思います。
 一ヶ月以上もたった頃、現地の方にお目にかかる機会を頂きました。実際の状況やその方の心の叫びを聞く中で、私の心が震えました。テレビや新聞での情報ではなく、生の声の確かな思いに接することで、私の気持ちが甦ってきたのです。今回の災害を通して考えていかなければならない事柄が、漠然と姿を現しました。考えられるスタートに立てたような気がしました。自分の考えに基づいて、自分の生きる手段として、何をしていくのかという課題がだんだん浮き彫りになってきたように思うのです。
 現地の人の話を聞くことで、一人ひとりが自らが考える種にしていただけたらと、この会を企画しました。

お招きした人  
西本 由美子さん
        福島県双葉郡広野町から、東京都杉並区の息子さんの6畳間
        にご家族で避難してきたそうです。地元でNPO法人「ハッピ
        ーロードネット」という地域作りの活動をしている方です。
        (私は「子ども環境学会」の緊急集会で、お話を聞きました。
         みなさんに是非聞いて欲しいと思い、お願いしました。)
日    時  
5月8日(日)
場    所  
りんごの木・赤りんご Tel 045-945-1023
        (
横浜市営地下鉄「センター南」下車徒歩5分)
会    費  
無料
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(5月1日 記)

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