あっかんべ

はな

柴田愛子

 14日から16日までは沖縄でした。残念ながら、本の仕事でしたから、ホテルにこもって編集者とライターを前に話し続けました。外は梅雨で雨でしたから、ちょっとあきらめられました。海は見れませんでしたが、空気は吸ってきました。
 17日から20日までも、おとなを相手に話す毎日でした。
 つくづく、私って口だけが仕事をしていると思いました。

 4歳のかんなちゃんは、私と同じように、口から生まれたかも知れません。
 おにいちゃんが5歳でりんごの木にいたとき、かんなが生まれました。そして、その次のお姉ちゃんもりんごの木でしたから、かんなを赤ちゃんの時から見ている私です。三人きょうだいの末っ子ですから、自己主張も達者です。
「かんなのおへそは、前についていないと思うよ。背中見てごらん」と、私が憎まれ口をいうほど元気者です。でも、そっと、陰でお腹を出しておへそをさがしていたりするのですから、かわいいヤツです。
 ある日、かんなは三人を引き連れて、みのちゃんに言いました。
「ちび! ちびはあっちいって」。
 かんなはみのちゃんが気になる存在なのでしょう。でも、言われたみのちゃんはたまったものではありません。彼女は長女ですから、免疫がありません。文字通り、意地悪をされたと思ったでしょう。眉を八の時にして遠のいていきました。
 しばらくすると、今度はみのちゃんとまあれちゃんに向かって言いました。
「ちび! ちびはいっしょにあそばない」って。
 二人は手を取って、ちょっとむくれた顔で去っていきました。
 さあ、これを見逃せる私ではありません。5歳児ならば、話し合いでみんなの意見を聞くところですが、4歳児はまだ人の気持ちを想像できるほどにはなっていません。そこで、帰り支度をした4歳児全員を集めて「話したいことがある」と言いました。
 みのちゃんとまあれちゃんに、前に出てきてもらいました。
「今日、ちびって言われたね。ちびだからって入れてもらえなかったね。どんな気持ちだった?」と聞いていると、もう、すでにかんなはまずいといった顔です。
 周りにいる子たちは「だれがいったの?」「かんなだよ」とひそひそと話しています。
 ふたりは「いやだった」としょんぼりと言いました。
「ちびと言って、仲間はずれにするのはいやだ! かんなは家でおにいちゃんやおねえちゃんに言われているでしょ?」と聞くと「うん」。
「どんな気持ちなの? 言われているからって、みのちゃんやまあれちゃんに言うのはやめてよね」ときつく言うと、強気のかんなは悔しそうに顔をそらしました。
「そんなことを言う人は、りんごの木に来ないで!」と、とうとう言ってしまいました。
 こんな脅し文句を使って良いか悪いかなんて考えている間はありませんでした。
 かんなはりんごの木が好きだから「じゃあ、こない」なんて、絶対言わないに決まっていると確信しての脅し文句です。
 さすがにかんなの顔が泣きべそになりました。
「わかった。もうしない」と言いました。よしよしと思う反面、かんなが愛おしくてたまりませんでした。

 次の日、保育者に聞くと、かんなとみのちゃんはいっしょに遊び、お弁当も隣にしていたそうです。
 2、3日たった頃、4歳児が帰る時間で階段に座っているところに出くわしました。
 みのちゃんは私を見つけるやいなや「あいこさん! みのちゃん、かんなとなかよしになったの」とうれしそうに言いました。
 みのちゃんとかんなは、身体をぴったりくっつけて手を繋いで座っていました。
「わー! すてき! うれしいわ。よかった!」とオーバー気味に喜びました。
 かんなの顔もうれしそうにほころんでいましたが、次の瞬間、彼女は私に向かって「べー」と舌を出しました。
 まったく、笑っちゃいます! へそ曲がりも味があります。(次週はお休みします。5月22日 記)

       

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