タイトル

はな

柴田愛子

 りんごの木の活動の場のひとつである空き地、通称「はたけ」は、桑の実がたわわになっています。
 落ちた桑の実が地面でつぶれて、歩いていると滑ってしまうほどです。
 そして、辺り一面に何とも言えない甘い香りが漂っています。
 でも、口に入れてみると、おいしい! と言えるほどの味ではありません。ちょっと水っぽいです。
 以前はうっとりするほど甘かったのですけれどね。
 桑の木はあっという間に大きくなり、わっさわっさと葉が茂っています。
 杏の木もあります。実はまだ緑ですが、落ちた実が赤く色づいています。
 トウモロコシやジャガイモを植えた小さなほんものの畑には、雑草がすくすくと育っています。
 地面があって、木々が茂ってという当たり前だった風景が、貴重な場所になってしまった地域です。

 火曜日、4歳児が遊んでいました。
 小さな赤ちゃんバッタを捕っています。手のひらをかぶせて、捕れるとそっと開いて指でつまんで、容器にいれています。
 けんちゃんの小さな入れ物には6匹くらい入っています。
「たくさんいるとこ、おしえてあげる。おいで!」と、草むらに連れて行ってくれた顔は輝いています。
 私も捕まえましたが、入れ物を持っていなかったので「あげる」と言うと「いらない」と断られてしまいました。
 そうですよね。自分で捕まえることに誇りを持っているのですからね。

 数人の男の子が円陣になって、しゃがんでいます。のぞいてみると、シャベルで土を掘って、出てきたミミズを集めていました。
 とあくんは、うじゃうじゃと集まったミミズをおにぎりにします。それに土をかぶせます。
 不思議なことに、にょろにょろと出てきません。ミミズが絡まってしまったのでしょうか? 
 それにしても、立派な太いミミズです。

 たき火では、子どもが持ってきてくれたジャガイモにくわえて、畑で出来た小さなのもいっしょに焼いています。
「やけたよー」の保育者の声で、散らばっていた子どもが集まってきます。おいしい!

 シャベルでひたすら溝を作り、畑に水を引いている子。
 小川のように作った溝に、いろんなものを流して遊んでいる子。
 保育者と相撲をとっている子。
 ハンモックに乗っては、転げ落ちている子……。
 森のような大きな自然とはいえないまでも、木々に囲まれ、土の臭いのする中でたっぷりした時間を過ごしている子どもたちを見ていると、幸せな気持ちになります。
 子ども自身は与えられて場で遊んでいるだけで、これが幸せなんて感じてもいないのでしょうけれど。

 翌々日、5歳児が畑で過ごしていました。
 桑の実を、脚立に乗って、かごいっぱい集めていました。
 鳥の巣を作っている保育者の横で、子どもものこぎりやトンカチを使って木工をしています。
 畑の草取りをしている保育者の横で、いっしょに働いている子がいます。
 大きなシャベルで穴を掘ったり、溝を作ったりしています。
 泥をこねて鍋に入れ、火にかけている子もいます。
 5歳児は、あそびに道具が持ち込まれていて、ちょっとおとなっぽい感じです。

 この畑に来る度に、大きく深呼吸した気持ちになります。
 そしてやっぱり、子どもは、自然とたっぷりした時間の中で、今しかない子ども時代を過ごしてほしいと思います。
 この素朴な願いは、今や、なによりもの贅沢な願いになってしまったようです。街が計画的に作られ、一見住みやすい地域になっていますが、子どもらがこんなふうに素朴に遊ぶ場所が確保されていないのです。
 そこで「プレーパークづくり」として、たくさんの方々が活動をしてくれています。みんな、汗を掻きながら、近所に理解を求めながら、ボランティアでがんばっています。
 ありがたいと思う一方、これからは子どもたちの空間を考慮に入れた街づくりであってほしいと願わずにはいられません。
 自然と切り離して子どもの育ちはありえないと思うからです。(6月12日 記)

       

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