タイトル

はな

柴田愛子

 今年の夏休みも、終わってしまいました。
 最後の大イベントは、恒例のOBキャンプ。
 小学生は二泊三日の前半と後半に分かれています。中学以上は、希望すれば前後半とつなげて五泊六日いていいことになっています。
 今年は小学生101人、中学生16人、高校生から社会人までが14人の総勢131人の参加でした。おとなはスタッフ14人、卒業生の保護者達が泊まりで4人、日帰りで6、7人ほどの方が手伝ってくれました。
 ペガスス周辺は、7月半ばの台風ですっかり様変わりしていました。すぐ前の川の1メートルくらいの段差 (堰堤)が無くなり、上流から運ばれてきた砂利や石で埋められてしまいました。少し下流の、例年勇気を振り絞ってジャンプをする5メートルくらいの堰も、勇気がいらない程の段差になっていました。上流を歩いてみると、川の流れる道筋も大きく変えられていました。
 自然のすごさに驚かされます。津波の被災地には及びも着かないことですが、自然界の怖さとうねりのようなものの一端を感じました。

 今年は例年にない気象状況なのでしょう、キャンプも雨、雨、雨が続きました。それも土砂降り。川は茶色に増水し、子どもたちに遊びを禁止するほどのときもありました。
 けれど、子どもってたいしたものです。「あめでつまんない」と言う声は全くなく、それなりに何かしら見つけて遊んでいます。
 そして、空がわずかに明るくなると、すぐに外に出てきます。
 麦茶の減り方も気温に比例、子どもの外遊びも明るさに比例、ご飯の食べっぷりは外遊びに比例。わかりやすい身体です。

 たくさんの印象的なエピソードがありますが、その中からひとつふたつ書いてみます。
 2年前、サラリーマンを辞めて、山梨で農業を始めた家族が居ます。子どもがりんごの木を卒業して今は4年生と3年生。それは、それは、大きな決断だったと思います。
 子どもはもちろんキャンプに参加したのですが、親が野菜を差し入れてくれました。昔ながらの種にこだわって有機農法でやっているというトマト、キュウリ、ナス、ゴーヤ、ジャガイモ、トウガン・・・・。
「こうやって、キャンプに持ってくるのが夢だった」と言ってくれました。
 初めての農業で、大変な思いをしながらやっていることでしょう。でも、やつれもせずに健康な顔色で溌剌としていました。
 私もとってもうれしかったです。「子どもたちが手伝ってくれるんです」と顔をほころばせていました。ほんとに心のこもった、新鮮でおいしい野菜でした。
 子どもが2歳、3歳の時に出会った家族です。こんなふうに家族の歴史? を、側で応援させてもらえることをありがたく思いました。

 次は、大きい子どもたち、といっても成人した子どもたちですが、その活躍に感動したエピソードです。
 その日は、ザンザン降りでした。滝に打たれているように、ザンザン降りでした。
 ペガススの家は宿泊棟と炊事場が4メートルくらい離れています。行き来をするにも、食事の準備をするにも不便です。
 そこを何とかしようと横山さんが考えてくれました。
 横山さんは男の子が3人、その子たちがりんごの木に来るようになってからずーっとおつき合いいただき、キャンプにも毎年参加してくれています。職業は造園業。これほど、キャンプに役に立つ職業はありません。
 その横山さんが、青いビニールシートに木の棒をつけ、宿泊棟と炊事場を繋ぐ屋根にしてくれたのです。
 ザンザン降りの中、父の仕事を受け継いだりんごの木第三回卒業生の息子が宿泊棟の屋根に乗り紐で結びます。
 説明するのは何とも難しい作業なのですが、ともかく、大きい卒業生たちが5人くらいで、まるで雨が見えないかのようにへいちゃらで作業を進めてくれました。その姿にほれぼれです! 大きくなった実感が湧いて、まぶしいようでした。

 もうひとつ。4年生のごうくんは行きの電車から「きもだめしだけが、たのしみなんだ」と言っていました。
 着いてから、肝試しで驚かす役をやりたい人が集まって「きもだめし委員会」を結成。もちろん、ごうくんの提案です。
 4月から会社勤めが始まったやすしくん、休みをとって参加して、肝試しのまとめ役をやってくれました。肝試しといったって、まっくらな道を歩いていくだけだって十分なのですが、今回は三枚のお札をとってくるという課題でした。準備をして、みんなを集めて三人組をつくり、順番に出て行く。その間、怖がらせる側はずっと暗いところにいるわけです。二日目の夜、雨も止んで無事にすませました。
 最終日、帰る前にみんなで集まったときに、「言いたいことがある人」と聞くと、ごうくんが手を挙げました。
「きもだめしをやって、どうだったかをききたい」と言いました。
 自分がずっと楽しみに考え続けてきて、がんばってやったことに対してのみんなの意見を求めたのです。幼児のとき、すぐ泣く子でした。その子が、ちゃんとこんなことを・・・・・と、胸が熱くなりました。
 解散間際に「きもだめしを仕切ってくれてありがとう」とやすしくんに言うと「ぼくじゃなくて、ごうくん」と返ってきました。段取りよく進められたのは彼の力なのですが、ごうくんの気持ちを尊重してくれたのです。なんて、かっこいいのでしょう。

OB

 まだまだ、お話ししたいエピソードはたくさんありますが、長くなったので終わりにします。
 キャンプを通して、今回いちばん感じたのは、異年齢集団の魅力です。1年生と中学生が一緒にトランプをしたり、大きな人に小さな子たちがからみついたり、まったく素直に近づき合っていくのです。構えずに繋がりができていくのです。同年代だけのときのような緊張や過敏さがほとんどないように見えました。
 キャンプの計画を立てたり、準備の算段をしているときは、準備の煩雑さにちょっとくさくさしていたのですが、終わってみると豊かな気持ちをもらえた気がしています。子どもって、ちゃんと育っていくのです!(8月28日 記)

 新しい絵本が出版されました。「バナナこどもえん ざりがにつり」童心社。 文 柴田愛子 絵 かつらこ。
 見ていただけたらうれしいです。
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