へたくそ

はな

柴田愛子

 7月下旬に予定していて台風で延期になっていた5歳児のペガスス一泊キャンプに、9月7、8日で行って来ました。
 すでにトンボが飛び交い、秋の気配になっていました。
 川の流れは、8月末の小学生以上の大きい子どもたちのキャンプのあと変化していて、水量が多く川幅も広がっていましたが、いい天気で透明の清い流れでした。
 しかし、川べりの木陰に立っただけで涼しく、水は冷たかったです。子どもたちはすぐに身体が冷えてしまい、ブルブルしながら五右衛門風呂に入ってきます。身体が温まると、また、川へ入りに行くという繰り返し。
 水の勢いが強いので、身体が小さい子どもは流れを渡るだけで大変。目を離せません。OBキャンプとはずいぶん違います。大きい子どもたちがどんなにたくましく、おとなを必要としなかったかがよくわかりました。
 大きくなるということは、手がかからないというありがたいことなのですね。

 この日の夕飯は、近くの養殖場にお願いしたヤマメの塩焼きと豚汁でした。
 豚汁の具の野菜を私が炊事場で切っていると「やりたい」とまおちゃんがやってきました。まな板に切りやすくした野菜を乗せてあげました。 やがて、数人の女の子がやって来ました。場所を変えてみんなで切っていましたが、私が「お風呂見てくるからお願いね」とその場を去ってしまいました。すると、「もう、やめた!」と言ってきました。
 いっしょに切っていて「じょうず!」と励ましているときはよかったのですが、自分たちだけに任せられると、飽きてしまったようです。
 女の子が去った後にあおいくんがきました。彼は、ひとり黙々と切っています。近づかないように見ていました。彼は、静かにひとりでやりたかったようです。
「できた」と包丁を持ってきたのですが、なんと、柄を私のほうに向け、刃を一方の手で覆っています。
 幼児がこういう持ち方をするのは始めてみました。さすがです! 彼のお父さんは料理人。しつけられたのか、見て学んだのか……。親の仕事が見れるというのは、こんなふうに身につけていくことなのですね。

 その後は、いよいよヤマメつかみです。大きなプール状のものに人数分のヤマメが放たれました。
 かつては、川に石で囲った池のようなのをつくって、その中に放ったのですが、魚と石が同じ色で見にくいばかりではなく、わずかな隙間から逃げてしまうのです。おまけに足腰が冷えて大変。そこで、ここ数年は陸で容器に放っています。
 こわごわつかもうとすると、ヌルッとして思わず手を引っ込めてしまいます。
 だんだん慣れてきますが、うまくなっていく子とあきらめて誰かに頼む子もいます。
 自分のヤマメを手に保育者の所に持ってきます。まな板に乗せて腹を包丁で切ります。その後は子どもが腹の中の臓物を取り除ききれいに洗います。
 薪を燃やして焼きます。
 薄暗くなった夕飯の時間。ヤマメと豚汁、釜で炊いたご飯、もりもりと食べました。生きている魚を捕って食べるというのは、たぶん初体験でしょう。気持ち悪いとか、かわいそうと思う気持ちは「おいしい」に変わってしまいます。

 ちょっと涼しいこともあって、子どもたちはよく寝ました。
 手はかかりますが、親から離れて過ごす一泊二日の子どもの顔は一人前です!
 来年は大きい人たちに囲まれて、違うペガススを楽しむことでしょう。(9月11日 記)

 新しい絵本が出版されました。「バナナこどもえん ざりがにつり」童心社。 文 柴田愛子 絵 かつらこ。
 見ていただけたらうれしいです。
 http://www.doshinsha.co.jp/search/newbook.php

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