くちげんか

はな

柴田愛子

 雨で一日延期になっていた運動会が、日曜日にできました。
 運動会は、行事が極端に少ないりんごの木の、親子を含め一同が集まる貴重な機会です。今年は22回目でした。

 2歳児、3歳児、4歳児、5歳児と、それぞれの競技を見ていると、育っていく様子がわかります。
 2、3歳児に競争心はありません。大勢の人に圧倒されて、親から離れられなくなるのは当たり前と言えるでしょう。
 それでも、繋がりができている友だちや保育者がいるので顔を見合わせたり手を繋いだりしてかけっこをします。なんともほほえましい姿です。
 4歳児が微妙です。 日頃の保育では一人前の子どもも、親と一緒になったとたん、揺れ動きます。大勢の人、親の視線、仲間の視線、見られることがプレッシャー。赤ちゃんぽいから泣きたくはないが、親と離れて背筋を伸ばすことはできない。
 ほれぼれするのは5歳児です。競争心が丸出し。負けたくない、勝ちたい。「いちばん!」がいい。親との距離感も適度に持っているので、親元に行ってしまうことはない。その一生懸命な姿は、一人前で感動的です。
 さらに小学生の種目では、今後の育ちが見えます。学校ではリレーに選ばれなかったという子も、りんごの運動会では走ります。早い遅いということより、身体つき、走る姿勢と表情がかっこいいです。

 4、5歳児は今年も子どもたちが種目を決めました。
 玉入れ、綱引き、パン食い、おとな登り(親を木に見立てて登る。写真=上段中)、パレード(仮装行列のようなもの。忍者やのっぺらぼう、動物、花嫁、電車などに変装しました)。
 かけっこは登場しませんでした。勝負には燃えるけれど、単独で挑むだけの心意気には欠けるのでしょう。チームで競うのが安心して燃えられるということでしょうか? この気持ち、おとなも同じかも知れませんね。

運動会
 さてさて、おとなの種目もありました。まずは、誰でも知っているNHKのラジオ体操第一、準備体操です。。
 まずは電車ごっこ(4チームに分かれて、縄の電車に乗って走ります。時間が決まっていますが、一回に何人の人が入ってもいいのです。走っていった先に入れた切符の数で勝敗が決まります。つまり作戦次第という競技。写真=上段左
 毎年やっている騎馬戦はすごかったです(写真=上段右、お父さんの騎馬戦)。特にお母さんたちが。今来ている子が3人目ともなると騎馬戦歴も長いです。気迫とチームプレーがものをいいますね。
 おとなのリレーは参加者92人でした。子どもが110人で、その父母ですから、この出場率はすごいです。心と体にギャップがあるところが、小学生のようにはいかないところですが、走る迫力と地響きはすごいです。バトンを渡すと同時に倒れ込む人も多く、痛々しい傷をお持ち帰りいただきました。
 数年ぶりにお母さんたちのチアダンス(写真=下段)もありました。有志32人。子どもたちよりはるかに日々練習してきた人たちです。
 まだ、乳飲み子を抱えているお母さんも参加しています。チアに出ない人が練習の時に子守役を引き受けていました。他の子をおんぶに抱っこ、預け、預かりという工夫をしてやってきたのです。
「子どもと離れて、自分のことに没頭できるときが、こんなに早くやってくるとは思わなかった」と、顔を輝かせていたお母さんの言葉が忘れられません。
「昔、体操をやっていた」「昔、バトンをやっていた」と、昔の気持ちに火がついた人もいたようです。練習の成果も素晴らしかったですが、お母さんたちの笑顔が、ひとりの女性としての輝きがまぶしかったです。

 運動会では子どもたちの一生懸命な姿から、たくさんのパワーがもらえます。でも、親たちからもたくさんのものをいただいている気がします。
 家族にはそれぞれにすでに歴史があります。元気なときばかりではありません。子育てに悩んだとき、どちらかの調子が悪かったとき、仕事がうまくいかなかったとき、夫婦のトラブル、それぞれにいろんな事を経て今があり、これからがあります。その一片を聞かせていただくこともあります。
 でも、運動会での姿は、「今、健康であること」「今、一生懸命であること」に輝いているのです。
 大げさな言い方かもしれませんが、生きていることの賛歌を聴かせてもらっている感動がありました。
 運動会は、もしかしたら、私のためにある? 私の元気の素かしら? なんて、思ってしまいました。(10月23日 記)

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