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 新学期が始まりました。
 もう、気持ちはすっかり新しいことに向かっています。げんきんなものですね。初日を楽しみにして迎えました。
 どんな子どもたちが、どんな顔をして来るだろうかと、快い緊張感です。
 そして、変ですけど、泣く子がいるかどうかも楽しみです。
 泣く子がいると抱きたくなります。泣きがら頼ってくれる感じや、だんだん信用してくれて泣き止んでいく過程は、うれしいものです。
 泣かれると困ってパニック状態、新学期は恐ろしいと思っていたのは、ずいぶん前のことです。たぶん、保育者を5年もやっていれば、泣く子にやりがいに感じているでしょう。
 ところが最近、泣く子がめっきり減った気がします。
 りんごの木の場合は、きょうだいの下の子が多く、送り迎えにいっしょ来ていますから、場所にも保育者にも慣れています。それでも、自分だけおいていかれるのは初めてですから、緊張した顔をしています。パニックを起こしたように泣くのはあまりみられません。短時間、べそをかくといったところです。
 初めての子どもも、子育て広場や保育園の一時預かりなどを体験していたり、親子のサークルなども盛んになっていますから、子ども集団がまったく初めてという子どものほうが少なくなっているかもしれません。
 そういう意味では、最近新学期の楽しみが減っています。

 

 でも、でも、新鮮な母子がいました!
 3歳前半の男の子を、お母さんが連れてきました。「おはようございます」と迎えたお母さんは、子どもを部屋の中に置くとすぐに玄関から出てきました。

「ここに来るまで大変だったんです」と言うと、涙がぽろぽろ出てきました。「そう、大変だったのね」と肩をさすると、「りんごの木に行くということがわかってから、すごく反抗的になって大変だったんです。かと思えば、夜はべたべたと甘えてくるし、もう、どうしたらいいのか。やっとここまでたどり着きました」と言いながら、悪いものを出したように表情はさわやかになっていきました。そして、「お願いします」と帰りました。
 さて、ご本人は泣いています。かわいらしい顔をして、泣いています。どうしたって、抱きたくなってしまいます。

 抱き上げると、「あっちにいく」と外を指します。外に行くと、「あっちにいく」と出入り口の階段の下を指します。来た方向です。

 泣きながら必死なので、雨模様でしたが出て行きました。遊歩道の木の下で雨宿り。「ママー、ママー」と泣くので「ママと来たのね。あっちから来たの?」と聞くと「うん」。どうやら話をすると泣くのを忘れます。
「どこから来たんだっけ?」と聞くと「しえいちかてつにのってきた」と言います。「あら、遠いのね、おうちどこだっけ?」と聞くとちゃんと答えます。

 電車を乗り継いで、さらに駅から15分くらい歩いてきたのです。それは、お母さんご苦労様でした。「やっとたどり着いた」という気持ちがわかります。
 3歳はじめとは思えないくらい、ちゃんとお話しします。答えているときは泣きません。もしかしたら、しゃべっていると不安感が少なくなるのかもしれません。私と同じタイプ?
 少し落ち着いたので、担任とバトンタッチ。残念なのですが、私に馴染んでしまうと、(私はあちこち行くし留守するから)その後、裏切ることになってしまいます。しかたなく引き渡ししました。
 しばらくすると、部屋の中で担任と、たらいの中のカメを見ていました。「あら? もう、泣かないの?」と聞いてみました。「うん、いまはなかないけど、ママがむかえにきたらなくとおもう」ですって! たいした人です。
 ところがね、担任の話では、ママが迎えに来たとき、「ママ!」って、笑顔でお母さんに向かっていったようです。それに、感激したお母さんは、また、涙だったようです。
 新鮮で心が躍りました。泣く子を心配する親とは裏腹に、保育者はこんなものです。みなさん、泣いてもだいじょうぶ。安心して置いていってくださいね。(4月15日 記)

 

 

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