私にとって初めての絵本「けんかのきもち」が出版されて10年になります。
出版当初に日本絵本大賞をいただき、課題図書にもなりました。内容は、りんごの木であった実話です。男の子二人の取っ組み合いのけんかの話です。おかげさまで版を重ねています。小学校二年生の国語の教科書に読書紹介でのっているようです。ありがたいことです。
ところが、どうも、多くの小学校ではけんかは禁止になっているような……?
「けんかはしちゃいけないんだよ」「くちならいいけどね」と、子どもたちは言います。絵本としては歓迎されているけど、現実にはよくないことということでしょうか。
先日、私立幼稚園の先生たちに講演にうかがいました。講演の最後に「けんかのきもち」の絵本を読みました。
たぶん、若い先生たちは、こんなけんかはしたことはないかもしれないけれど、けんかの気持ちはわかるだろうし、子ども理解にはなるかしらと思ったのです。
さて、講演が終わって園長先生と話したときのことです。
「取っ組み合いのけんかなんて、もう15年も見ていないかしら」と、おっしゃったのです。
私はびっくり仰天。
だって、だって、りんごの木の5歳児なんて日常茶飯事でした。特に三学期にもなると、遠慮がない関係になり、女の子同士だって、男と女だって、取っ組み合いになります。私は見慣れていることだったので、幼稚園でそんなけんかはないと聞かされたとき、ほんとうに驚きました。
でも、しばらくして思い出してみると、私が幼稚園に勤めていたときだって、取っ組み合いはなかった気がします。そうです。幼稚園では普通そんなけんかはないんです。小学校だってそうかもしれません。先生が止めるまでもなく、起きないのかもしれません。
なぜ?
私はけんかをいいとか、悪いとか思っていません。
りんごの木の子どもたちをみていると、けんかになっちゃうんです。それも、仲がいいからけんかになると本人たちが言っています。そう、仲がいいから、わかってほしいし、思い通りになってほしいという気持ちが強いのです。遠慮がないからストレートに出てしまうのです。
でも、仲がいいから、けんかしてもすぐに仲直りができます。そのまま、疎遠になってしまう子はいません。ほとんどの場合は、けんかすると、そのあと、もっと仲良くなっています。
幼稚園や学校だって、仲良しの友だち関係はあるはずです。
じゃあ、なぜ、けんかにならないの?
●意見や感情の行き違いになる出来事がない?
一斉保育や授業の時間は確かにけんかの原因になることがありませんよね。お互いに向き合うわ けではなく、みんなで同じ方向をみているのですから
●けんかしている時間がない?
●けんかはいけないという先生の雰囲気が漂っている?
そう考えると、りんごの木でけんかが多いのは、以上のことが全く逆ということかもしれません。
自由保育形態ですから、仲良し同士があそぶことが多い。時間もたっぷり。おとなはけんかを見守っている。
どちらがいいとも言えません。ただ、子どもたちが自分の感情をストレートに出せる場を持っていること、出せる相手を持っていることは幸せなことのような気がします。
お母さんたちから、家でのきょうだいげんかの悩みをよく聞きますが、もしかしたら、きょうだいげんかができることはいいことかもしれません。理不尽であろうとなかろうと、自分の感情や考えをストレートに出せる、八つ当たりさえ引き受けあえる人がいるということですから。
いえ、今やきょうだい以外でけんかができる相手はいないのかもしれません。
ちょっと寂しい気もします。いかがでしょう?(4月22日 記)
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