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 前回の「お店屋さんごっこ」の続きです。
 この日は、「お店屋さんごっこ」にお母さんをお招きする日でした。午後の1時に。
 ところがその寸前、11時30分、かんなちゃんの泣き声が聞こえます。

 いえいえ、かんなちゃんだけではありません。みのちゃんとあきちゃんも泣いています。三人そろって、おいおいと涙を流して泣いています。三人は首から下は黒いビニール袋を着ています。まるで黒いてるてる坊主が、泣いているみたいです。
泣いた

 話を聞くためにその場で、みんな車座になって座りました。
(以下A=私、K=かんなちゃん)
A「どうしたの?」

K「バカにされて、イヤだった」
A「バカにされたって、どういうこと?」(バカにされたという言葉は、あまり耳にしませんから、意味がわかっていっているのかどうか、聞いてみました。)
K「あのね。わたしたちがいっしょうけんめいおばけやしきつくったのに、こわくないっていった」
A「だれが?」
K「ここちゃんと、ゆまと、しゅんちゃん」
A「ここちゃんは、どうしてこわくないっていったのかしら」
ここ「だって、ひゅーひゅーっていってばかりいて、ほんとにこわくなかったから」
A「じゃあ、どうすればいいと思った?」
ここ「しずーかにしていてから、ひゅーって、きゅうにいえばいい」
A「なーるほど。じゃあ、ゆまちゃんは?」
ゆま「こわくなかったから」
A「ゆまちゃんは怖いのが好きなの?」
ゆま「きらいなの」
A「じゃあ、怖くなくってよかった?」
ゆま「うん」。
 怖くないと言えることが、彼女にとってはうれしかったのでしょう。
A「しゅんちゃんは?」
しゅん「こわくなかったから、いった」
A「なんだか、バカにしていないみたいだけど?」
K「ちがう! こわくないねぇって、なんどもいった。バカにしていた」と、泣きながら抗議。「バカにされたから、もう、やめる!」
A「あら大変。もうすぐお母さんたちがくるよ。楽しみにして来る人が、がっかりするんじゃない?やめない方法はない?」
しゅん「ごめんなさいって、いいたい」(しゅんちゃんはもう慌てています。気持ちが困ってしまいました)
A「どうしたら、続けられるのかしら?」
K「もう、バカにしないでほしい」
 三人に攻められた感じで、ここちゃんは泣き始めました。
 そして言いました。「わかった。もう、いわない」
 これで、一件落着かと思いきや「ごめんって、あやまってほしい」と三人は言い出しました。
 ここちゃんは声をあげて泣き始めました。見ているみんなの顔も、眉毛が八の字になっています。
「こんなに謝っているのに、ごめんって言わないといけないの?」と保育者が口を挟みます。
K「ちゃんと、ことばでいってくれないとわかんない」
 ここちゃんの泣き声はひどくなる一方。
 ゆまちゃんは「わたしは、もう、おばけやしきにはいらない」と宣言。
 私はカチンと切れました!「ここちゃんみてごらん。こんなに苦しそうに泣いている。ゴメンという気持ちがこんなにいっぱいなのに、これをみても口で言わなくちゃ許せないなんて、あなたたちはひどい! そんな人たちのお化け屋敷には私も入らない!」と、強く言ってしまいました。
 迫力に押されたのでしょうか、「わかった。もう、ごめんなさいのきもちがみえたからいい」と、かんな、みのり、あき。お化け役で一緒に腹を立てていたおうごくんは「ごめんのきもちがいっぱいみえたから、もういい」。

 暗い空気が漂う。ここちゃんの背中を保育者がさする。
「もう、時間がない。気持ちを切り替えるためにはお弁当!」と、お弁当にすることにしました。
 ここちゃんは泣きじゃくるので、保育者がどこか広いところにいって気持ちを落ち着かせようと提案して、出かけることにしました。「ぼくもいくよ」と、たいくんも一緒に。上着とお弁当を玄関で渡すとき、ここちゃんの表情が落ち着き始めたのを感じました。
 ちょっと遠方だったけれど、ご希望の中央公園まで行ったそうです。同行したたいちゃんは関係のない話題をし、気分転換に大いに役だったそうです。
 時間ぎりぎり、意外なことに、ここちゃんはすっきりした顔をして帰ってきました。

 午後1時。お母さんたちが来て、お店やさんごっこ開始。
 ふとした隙間に、狭い和室に、ここちゃんとかんなちゃんの姿。
「さっきはいいすぎた。ごめんね」とかんなちゃん。
 ここちゃんはちゃんとお化け屋敷に入っていきました。「こわくない」って言わずにね。ゆまちゃんもちゃんと入っていきました。

 みんな、元通り。いえ、ここちゃんの心の窓は一つ開きました。ここちゃんはナイーブな子だっただけに、このことで孤立し、閉ざしてしまうのではないかと少し心配しました。けれど、そんなことはありませんでした。思いっきりみんなの前で感情をはき出せました。思いっきりを出せる関係になっていたのです。そして、ちゃんと、自分で気持ちを取り戻せました。強くなっていたのです。
 かんなちゃんの心も大きくなった。最後の後始末をちゃんと自分で締めくくれたのですからね。
 この顛末に立ち会っていた仲間たち。一人ひとりの心が揺れ動き、心配し、安堵したに違いありません。
 子どものドラマは、心のドラマ。胸が熱くなりました。(12月24日 記)

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