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 毎年のことなのですが新学期はいいものです。どんな子どもが来るのか、泣くのか怒るのか、前からいる子どもはどう反応するのか、いろいろな思いを巡らせて楽しみでもあり、緊張でもあります。
 りんごの木は10日から始まりました。幸いなことに天気続き。外に出られるかどうかで、子どもの気持ちはずいぶん違います。初めての場所で、部屋の中だけだと、どうしても苦しくなりますからね。おかげでいきなり水遊び、砂遊びで黙々とあそび始めました。

 2、3歳児はだーれも泣きませんでした。まだ、言葉のコミュニケーションもとりませんから、静かなものです。夢中に遊んでいるうちに表情が少しずつ柔らかくなっていきます。
 誰かが泣くと「とられちゃったのかなぁ」「ママにあいたくなちゃったのかなぁ」とつぶやく子がいました。アンテナは張っているのです。そして、その子なりの思いと重ねているのです。


 うたくんが砂場にせっせと、じょうろで水を運んでいました。砂山のてっぺんにかけるのですが、低い方に流れていくので、かけた場所には水がたまりません。
 何回も何回も繰り返してつぶやきました。
「どうして、なくなっちゃうんだろう」
 さらに繰り返し、流れ出していく部分を見て「あながあいてるんだ」と納得。
 まだ、水が低い方に流れるなんて、思いつきもしない年齢です。30分ちかくもやっていたでしょうか。最後に「ながれてる」と言う言葉が登場しました。体験と言葉とが一致した瞬間かな。
 ちなみに、うたくんは翌日もこれを繰り返しました。このときは「ながれてる、ながれてる、いっぱいながれてる」と。
 ひとつひとつに、今、新しい出会いをしている子どもたちを見ていると、私の心臓に空気入れで空気を入れてくれているような、膨らんだ気持ちになります。子どもたちはこのまま心穏やかに馴染んでいくはずはありません。だんだんに泣いたり、逃げたり、怒ったり、我を取り戻して表現していくことでしょう。保育者には、もう、それぞれの子どもを受け止める愛情が芽生えています。だから、大丈夫です。

 

 もう、一つの新学期。卒業生も中学や高校、大学へと新しいスタートを切りました。高校の入学式後に現れたりんちゃんとこっぺは新しい制服に身を包み、みごとに大きな姿でした。

 二人は3歳クラスのときにりんごの木で出会いました。校長先生みたいなりんちゃんと、いたずら坊主のこっぺ。対照的な二人が友だちになったのです。その後、4、5歳児のときは親友のようでした。

 二人は覚えていないかもしれませんが、以前「友だちになったときを覚えている?」と聞いときにこう答えました。

こっぺ「おぼえているよ。りんちゃんがブロックをやっていて、それをこっぺがとった。そのとき、りんちゃんがおこらないでニッとわらった。そのときからともだち」と。

 二人は別々の小学校、中学校に進みました。けれど、高校は一緒に行きたいと相談していたようです。そして、みごとに同じ高校に合格、さらに同じクラスになり、同じ部活に入ったそうです。
「すべてのスタートがここだった」と、一緒に挨拶に来てくれたお母さんが感慨深げにおっしゃっていました。

 まだ、高校生ですが、ここまでにもいろんな事がありました。でも、支え合う友がいることはどんなにか心強いでしょう。3歳からの友だち関係がこんなにしっかりした絆になるなんて、奇跡をみているようでした。
 新しい季節、輝く子どもたちを見るのは、やっぱりうれしいですね。(4月14日 記) 

 

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