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  二学期が始まっても残暑が厳しく、天気も不安定。まだエンジンがかかってはいない子も多いようです。私も久しぶりに風邪を引きました。暑さで体温が高いのか、熱なのか、わからないままに治りそうですけど。

 早々に4、5歳児の室内ではやりはじめたのが「ぬいぐるみ」づくり。
 発端は、夏休みに何をしたかという話をしていたときに、ひとりの保育者が「毛糸でちいさなネズミを作った。すごくかわいい」という話をしました。その話を聞いている途中に、おんちゃんが「やりたいことをおもいついた。はやくおべんとうにして、やりたい」と言いました。

 これが、ぬいぐるみ作りだったのです。
 彼は食べ終わるとすぐに、保育者に裁縫道具を用意してもらい、作り方を教えてもらいました。紙にクマの絵を描きました。それを切ってフリースに書き写します。そして、糸で輪郭を縫っていきます。
 どういうわけか、子どもは本物のぬいぐるみほど大きなものを考えません。自分の手に治まりのいい大きさなのです。つまり、ちぃちゃい。

 ですから、縫うのが大変です。

 でも、やりたい気持ちはすばらしい。
 そこに友だちのあいちゃんがやってきて、彼女も始めました。
 縫ったものをひっくり返して、綿を入れて綴じ、目や口をつける。これは、大変な作業でした。
 翌日、あいちゃんとおんちゃんは、ちょっといびつな格好のクマのぬいぐるみを手に、ご満悦。そして、次は白クマを作ると張り切ります。


 この二人のきらきらした姿を、まわりが見逃すはずはありません。自分の力量なんて知りもしない子どもたち。「やりたい、やりたい」気持ちばかりです。
 小さなウサギやキリン、リボンも登場です。どれも、細かったり小さかったりで困りものですが、根気よく保育者はつきあいます。
 何しろ、針に糸を通すのが第一の難関。頼まれて、目を細めてやってもなかなか通らない私に、おんちゃんが「ろーがん? ぼくがやってあげるよ」と助けてくれました。彼は通せます。

 次に縫い始めると、すぐ糸が針から抜けてしまいます。糸が抜けない工夫というのはできないものでしょうかね?
 人生初めてのチャレンジの子が大半ですから、おとながひとりずーっと座ってつきあわざるをえません。見ていて補助するのは大変。「私にやらして!」と、取り上げてしまいたくなります。

 でも、目をつけて、口をつけたとたん、生きてきます。同時に満足そうな子どもの笑顔に出会います。

 決して美しいとか立派とかは言えないぬいぐるみですが、世界に一つ、その子の処女作です。
 意外な子が手先が器用だったり、几帳面だったり、気持ちだけで大変さにめげてしまう子がいたり様々です。
 几帳面に縫っていることちゃんは、おばあちゃんが糸と針を買ってくれたそうです。

 そういえば、こういう手仕事って、かつては時間にゆとりのあるおばあちゃんとやったものかもしれません。母が孫と座り込んでやっていた姿を思い出します。


 このブームはいつまで続くやら。ひとりの子どもが思いついたことが子どもたちに広がっていく。 子どもが子どもによって刺激され、育てられて行くのが集団生活の良さですね。

 そして、世の中のおとなの価値観とは違う、こどもたちの価値観が健在であることをうれしく思います。(9月8日 記)

 

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