真・桃太郎伝記 著:サンダル親父
第3章「きびだんご〜我、過ちを犯す!」
桃太郎が七歳になったときのことである。剣の腕もメキメキと上達し、
「これくらいの腕があれば鬼を退治することも出来るであろう」
と鬼退治の時機到来を告げようと決意したのである。そして、早速翁と老婆のもとへと駆
け寄っていったのである。
「じい、ばあ、話があるのだが…」
「桃太郎、話というのは何じゃ」
「実をいうと、私は近く鬼退治に行こうと決意してな、それを告げに来たのじゃ」
すると、翁と老婆は驚きあたてふためき、
「ま、まだ早かろう」
「そうじゃ、焦りは禁物じゃ」
と、止めてみたが、
「焦りではない。昔の力が戻りつつあるのだ。あまりこの世界に長居するわけにも行かな
いのでな、早く鬼を倒さねばならないのじゃ」
と桃太郎が力強く言うと、老夫婦は止めることが出来ず、ただ心配事を言うに留まった。
我が子同然に育ててきた桃太郎が居なくなることに強い不安を抱いていたのである。いず
れは訪れることとはいえ、今の老夫婦にはあまりにもショックが強すぎたのだ。翁はいま
すぐ桃太郎が出ていけないようにじっくり行くことを進めることにした。
「桃太郎や、おぬしが鬼退治に行くというのであれば儂等は止めることが出来ぬ、しかし
正確な居場所をつかんだ訳でもないのに出ていくというのはいかがなものじゃろうか。様
子を探ってからでも遅くはなかろう」
と翁が言うと、桃太郎は腕組をして少し考えた後に、
「それもそうだな。鬼の居場所が正確に把握できていないし、それなりの道具も揃えてお
かないといけないしな」
と言い、老夫婦はその言葉を聞いてホッとした表情を浮かべた。しかし老婆は桃太郎が一
人で鬼退治に行くことが不安であった。いくら天からの使いと言えども鬼の数はわからな
いのである。今までの目撃した話だけでも赤鬼、青鬼、黄鬼、黒鬼がいるという話だし、
その鬼が飼い慣らしている鬼畜と言われる生き物もいるらしいと聞いていたのだ。だから
老婆は桃太郎に、
「桃太郎や、一人で行くのはいくら何でも無茶じゃ。旅を共にしてくれる方を探してはど
うじゃ」
と旅を共にする者を捜すことを勧めてみたのであったが、桃太郎は
「普通の人間では鬼に太刀打ちできん。無駄に死者は出しとうはない」
と言ったのであった。しかし、
「ただ相当の使い手がいれば私の旅も楽にはなる。鬼は何匹いるか判らんしな」
と老婆の心配する心を察してそう付け加えたのであった。そして桃太郎は旅の支度を始め
たのであった。旅立ちの支度をしている桃太郎の背中を見つめる翁は時の流れの速さを痛
感しつつも旅支度を手伝い、桃太郎が旅立つという事実を未だ信じたくない老婆はこらえ
きれず涙を流していた。しかし、桃太郎の旅に役立ちたいと思いきびだんごを作り始めた
のだった。そんな二人の姿を見た桃太郎は天界になかった温かい心に触れ、命に代えても
人を脅かす鬼を殲滅させることを心に誓い支度を勧めていった。そしてついに桃太郎の旅
立ちの時が訪れたのであった。翁は涙をこらえ、肩を振るわしながら、
「桃太郎や、お前の健闘と無事を祈っておるぞ」
と言葉少なく激励した。桃太郎は、今まで大切に育ててくれた翁に、
「じい、今まで世話になった。大願成就したらまた戻ってくるぞ」
と照れくさそうに言った。翁はこらえきれず号泣し、
「お前の無事を祈っておるぞ!」
と言い桃太郎の肩を叩いた。その姿を見た老婆もこらえきれず涙を流し、
「コレはわしが精魂込めて作ってきびだんごじゃ。きっと何かの役に立つはずじゃから持
っていってけろ。あとこっちが水筒じゃ。そして体には気を付けてなぁ」
と老婆は布袋と竹筒を渡そうとした。その手は小刻みに振るえていた。桃太郎はその振る
えている両手の手首を掴んで、
「ばぁ、今まで世話になった。すぐに戻ってくるから泣くではないぞ」
と老婆の潤んだ眼差しを曇り一つない青眼で見つめ言った。そして老婆から布袋と竹筒を
受け取ると、深々と礼をしてからくるりと反転し、歩み始めていった。桃太郎の姿が小さ
くなるにつれ翁と老婆は大きく手を振った。決して振り向くことがないと知りながらも、
桃太郎の姿が視界から消えた後もしばらくの間は手を振り続けたのであった。桃太郎も涙
を流していた。後ろに振り向き歩き出してからすぐに桃太郎の一粒の涙が光り輝きながら
の頬を伝っていったのであった。
桃太郎が旅に出て、老夫婦は寂しそうに家の中に引っ込んだ。
「寂しいものじゃのう」
翁が力無くつぶやいた。
「ほんに、寂しいですじゃ」
老婆が力無く答えた。そして老婆は奥に引っ込みお茶を飲もうとしたことである。その
時にある過ちに気が付いたのであった。
「ほっ、ほえ〜っ! も、桃太郎に間違ってホウサン団子を渡してしまったじゃよ!」
老婆が大声を上げて驚くと、翁も驚いて、
「なんて事をしたのじゃ」
と、天を仰ぎながら大きな溜め息をついた。そして、心配そうに開いていた戸から広がる
青空を眺めたのであった。その頃桃太郎はすでに町に出ていた。桃太郎の出で立ちはまる
で傾奇者のような格好であった。桃を取り入れた紋付き袴に鉢巻きを身に着け、「日本一
」と書かれている旗を手に持ち、己の身長と代わらぬぐらいの刀を差し、肩で風を切るよ
うに歩く7歳児の桃太郎はやはり異様であると言えよう。そのためかすれ違う人が皆、桃
太郎の方を見やりその出で立ちを見て笑っていたのであった。しかし、桃太郎はそんな者
どもの相手をしている暇など無かったのであった。確かに容姿はおかしいかも知れないが、
よほどの達人にしか判らぬ殺気を放ちながら歩を進めていたのであった。そんな中、ある
一匹の猫が桃太郎の方に寄ってきたのであった。桃太郎はその猫の方を向くや否や視線を
合わせたのであった。しかし、猫はその視線から目をそらすことなく桃太郎の方を見やっ
ていたのだった。桃太郎が微かに微笑むとその猫も、
「にゃ〜」
っとにこやかな表情で返事を返した。この時桃太郎は猫の強さを見抜いたのであった。そ
して、猫を旅に連れていくことを決めたのであった。
「これからわしは鬼退治に行くのだ。鬼は手強いらしいぞ。それでもついてくるか?」
桃太郎は猫の頭をなでながらそうたずねてみた。猫は桃太郎の眼をじっと見つめながら、
「にゃ〜っ」
っと穏やかに返事をした。
「お前は強いな。頼りにしているぞ」
と言って桃太郎は布袋の中から団子を1つ取り出した。そして、それを猫に差しだし、
「これはわしの婆ちゃんが作ってくれたきびだんごだ。1つ食べるか?」
と猫にたずねてみた。すると猫は嬉しそうに一口でくわえゴックリと飲み込んだのであっ
た。桃太郎はその景色を見て笑いながら、
「お前はたくましいな! あの団子を一口とは驚いたぞ」
と猫の頭をなでながら言った。しかし、しばらくすると猫が突然食べ物を吐き出し始めた
のであった。
「にゃーご、ぎゃーご」
と苦しそうにうめいている姿をみて桃太郎も猫の異変に気付いたのであった。
「大丈夫か! ここに水があるからこれを飲め!」
と、竹筒にある水を飲ませたが猫は、
「にゃ〜…」
と力無く返事をした後、そのまま倒れ込み二度と息を吹き返すことがなかったのであった
……。
桃太郎は猫が吐き出しただんごを不思議そうに調べた。するときびの香りではなく怪しい
臭いがしたのであった。
「あのババァ! 騙しやがったなぁ!」
桃太郎は怒りをあらわにし、すぐさま家に戻ったのであった。しばらくして家に着き、い
きなりとを蹴倒したのであった。家の中にいた翁は驚きながらも桃太郎の無事を嬉しく思
い、声をかけようとしたが、あまりにも顔を真っ赤に染め上げていたために声が出なかっ
たのであった。
「ジジィ! あのババァはどこに行った! 出せ…。出せぇ〜!!!」
すると老婆が奥から現れて、
「だんごの中身を間違えて渡したぐらいで騒ぐな! 誰にだって間違いはあるのじゃ、こ
のクソガキがっ! 戸を壊しよってからに」
と何故か怒りながら出てきたのであった。そしてこの言い争いは三日三晩続き、桃太郎の
鬼退治は先送りされたそうである……。
第4章に続く