〜序章「アクニンふたり」〜



「大胡九哉(ダイコ クヤ)。おぬし、かなりのワルよのう」
 険悪そうな顔つきの男が、豪勢な料理と酒が乗っているお膳の向こうに座っている男に、料理に箸を付けながら語り掛けた。
「いえいえ、織田如何様(オダ イカン)。あなたほどではございませぬ」
 これまた陰険そうな顔つきをした、大胡九哉と呼ばれたその男が箸を置き答える。
「こやつ、言うようになったわい」
 クイッと銚子で酒を仰ぐと、ニヤリと笑みを浮かべながら愉快そうに織田が言う。
「あなた様との付き合いも長いですからな」
 同じように笑みを浮かべながら大胡が返す。
「まあ、取りあえず織田様、これをお納め下さい」
 そう言って、大胡は傍らに置いてあった風呂敷き包みを織田に差し出した。
「ん? なんじゃこれは」
 それを受け取った織田は訝しそうに聞き返す。
「なに、ただの山吹色の菓子でございます」
 口元に笑みを残しながら大胡は答える。
「くくく……そうか、そうか」
 大胡の言葉で風呂敷き包みの中身が何なのか察した織田は、この上ない愉快さに思わず含み笑いをする。
「ところで織田様。例の件、首尾はいかがですか」
 周りを気にするように多少頭を織田に近ずけると、声を潜めて大胡は訊ねた。その行動からあまり他言出来る内容でない事が判る。
「ん? 心配するな、順調に進んでおる。予定どうり明日には実行に移せようぞ」
 そう言って、手酌で酒を銚子に注ぐ。
 大胡は、織田が酒を他人に注がせず手酌で飲むのが好きなのを知っているので、酌はしない。
「では、予定どうり明日……」
 そう言うと、自分も手酌で銚子に酒を注ぐと、
「では、これはその成功を祈っての乾杯、ということで」
 と、酒がなみなみと入った銚子を目線の高さ程に上げる。その拍子に酒が少し零れるが、無論意に介さない。
「おお、そうだな」
 織田は少し上げるだけで応える。それと同時に、
「くっくっくっくっ………」
「ふっふっふっふっ………」
 と、企みが成功した時のことを想い、自然と笑いが込み上げてくる二人。
 庭では、ししおどしが静かに響いていた。