〜終章「桃次郎の章」〜



 桃太郎がおばあさんに発見されていたころ、もう一つ別の川でもな、何と! 似たような桃が流れていたのである。
 もっとも、そんなに驚くことでもない。なぜなら、もっと上流の方では、万が一二人が見つけてもらえなかった場合に備えて、第二陣として桃三郎、桃四郎。第三陣として桃五郎、桃六郎。第四陣として……と、待機していたのだから。
 それはさておき、ついに桃太郎がおばあさん(というか筆者)に引き上げられているころ、桃の中の桃次郎は、
(おっ、桃太郎の奴ついに引き上げてもらったみたいだな)
 そう思ったのは、別にそれが見えた訳ではないので、あくまで桃次郎の直感の域を出ない。が、彼自身にしてみれば何かしらの確信があった。
 それが、虫の知らせなのか、テレパシーのようなモノなのか、神の啓示かはたまた宇宙の意志か! ま、んなこたーどーでもいいとして、重要な事は桃次郎が「桃太郎は引き上げられた」と確信したことだ。
(と、なるとそろそろこっちも見つけてもらえる頃かな)
 そう思ったのも自然な流れと言えよう。なんせ、桃太郎は引き上げられたと確信しているのだから、同じように流れている自分が見つけてもらえない訳がない。そんな心理が働いたのだ、桃次郎には。
(……まだかな?)
 まだである。
(…………そろそろか?)
 まだまだである。
(………………なかなか焦らしてくれる)
 まだまだまだまだである。
(……………………)
 待てど暮らせど、なんの反応もないことに多少桃次郎は苛立ってきた。
(う〜ん。早いトコ引き上げてくんねえかな)
 微かに外の川の流れの音が聞こえてくる。

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォ!!

 エライ音である。
 そう、桃次郎の思いはもろくも崩れ去ってしまうのだ。
 なにせこちらの川ときたら、洗濯が出来るような緩やかな流れではない。かなり気合いの入った速い流れなのだ。水量もかなりある。
 よって人などほとんど近寄らない。例え人が来てこの桃を見つけたとしても、一体誰がこの急な流れの中から大きな桃を引き上げることが出来るだろうか? 否、出来ない(反語)。
 よって、ただただ流されて行くのみである。
「どこのどいつだぁぁぁぁ! こんな川に流しやがったのはぁぁ!!」
 桃次郎の叫びはもはや遅かった。加速のついた桃には……。

 時に日羅多暦五十二年のことだった。