〜序章「鬼再び」〜



 波打つ岩場に、潮風を受けながら一人の少年が立っていた。
 鋭い光を湛えた瞳は、眼前に広がる海の先にある、人が治める国を見ているようだ。
「桃太郎……」
 ポツリと、しかし低く鋭く少年はある者の名を呟いた。
 両の拳が固く握られる。
 それは彼らに……いや、彼にとって最も忌むべき名であった。
「貴様だけは許せん……」
 キッと目を閉じる。そうしたところで、忌むべき相手の顔が瞼の裏に浮かぶことはなかった。なぜなら実際にその相手を見たことは無いからだ。
 それでも怒りのために顔を歪める。
「我が積年の恨み、今こそ晴らしてくれる」
 怒りに震える右拳を胸の前に持ってくると、その拳に誓うように静かに言った。
「いかなる試練を受けようとも、いかなる労力を費やそうとも、いかなる被害を出そうとも、貴様だけは、貴様だけは……」
 そこで言葉を区切ると、胸に秘めた決意を行動に移すため新たに強く決意し、
「ぜってー俺が殺る!」
 中指だけを立て腕をまっすぐ前に突き出した。
 シリアスにいこうと思ったが、やっぱりやめた。
 彼の名は鬼太郎(決してキタロウやクィタロウと読むのではなくオニタロウと読む)その名が示す通り「鬼」である。ただし、一般的なイメージの、筋肉隆々……いわゆるマッチョな体つきに、おっかない表情をしている鬼ではなく、外観的には人間に角を生やした程度である。ついでに言うなら前者は力業や体力に長け「剛鬼族」と呼ばれ、後者は術や速さに長け「麗鬼族」と呼ばれている。
 鬼太郎が今いる場所は鬼ヶ島。そう、桃太郎が鬼退治をした所だ。ただし、退治といっても桃太郎は全ての鬼の命を奪おうとしたのではなく、出来る限り殺めないようにしたのだ。
 そして、桃太郎の強さや優しさに感服した鬼たちは、静かにひっそりと暮らしていたのだ。
 では何故、鬼太郎はこれほど桃太郎に怒りを燃やしているのかと言うと、結果的に言えば「名前がかぶっているから」であった。
 長男であったら「太郎」とゆう名前を多くつけられていると思えるが、元来鬼たちにそういった風習は無い。「鬼太郎」とゆう名前の由来は「桃太郎」のように強い子に育つように、とつけられたものであった。
 それがどうにも鬼太郎には我慢ならなかった。「なぜに人間なんかを手本にしなきゃならんのじゃ!」要はそうゆうことである。
 だから桃太郎を打倒し「名前かぶっとるのはお前の方じゃ」と示そうと決めたのだ。