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不帰島。鬼ヶ島から西に行った所にある小さな島である。つまり鬼太郎がこれから行こうとしている島だ。 ニホン国の人々は鬼の住む島として鬼ヶ島と同様に恐れ、一部の者を除いて近寄ることの無い島である。一部の者とは「鬼を倒して名を上げよう」と考えている者たちで、何人もそんな理由で島に行っているが、誰一人として戻った者はいない。 実際、この島には鬼太郎が行った通り、刀を使う鬼が住んでいた名前を「鬼彦(オニヒコ)」と言う。もっとも、この鬼彦もかつては金棒を使っていたのだが、とある事をきっかけに刀に変えたのだ 「さて、西の島に行くと言っても船で丸一日はかかる所だ。しかしこの島に船など無い。となると…………泳ぐしかないか。ふ〜ぅ」 うんざりした表情で、ぼやく。 「ぼやいててもしょうがない」 西の島までの長い長い行程を考えると気が滅入ってくるものの、桃太郎を倒すため、と気分を奮い立たせ、波打つ岩の端まで来る。 「行くか。とうっ!」 気合いを入れ、四月の海に飛び込む。が、しかし…… ゴンッ!! ここは、飛込みできるほど深くはなかった……。 お約束、お約束。 鬼太郎が泳いでいる。すでに、いろいろバカをやった時から丸一日経っていた。 ここまでは、おおむね順調に来ていると言っていい。が、船で丸一日掛かる所である、休まず泳いでも何日掛かるか分かったものではない。 しかし、そこは大丈夫。鬼は、飲まず・食わず・休まずいても五日は生きていけるのである。現に鬼太郎も…… 「う〜、疲れた〜〜死ぬ〜〜〜」 ………………すまん、前言撤回。 「やばい、このままだと死んじまう。桃太郎と戦いもしないで、溺死なんつったら洒落にならんぞ……どこかで休まないと」 しかし、ここは広い海。休める所などある訳無い……はずであったが、運の良いことに少し先に小さな島があるではないか。 「おぉぉっ、島だぁぁっ!」 島を確認した鬼太郎は、通常の1.5倍はあろうかというスピードで島に向かって一直線に泳いだ。 本当に小さな島であった。が、どうやら食物と寝場所には困ることはなさそうだった。 「助かった〜。いやーこんな島があるなんて、ついてんなー」 しかし世の中そんなに甘く無い。なぜならこの島は、浮き島なのだ。漁師の間じゃ「船島」と呼ばれ、その名の通り船のように海の上を潮の流れに乗って、ある一定のコースで進んでいくのだ。そうとは知らず鬼太郎はこの島に次の日の朝までいてしまった。 「いやー良く寝た。んーいい朝だ、朝日が目に染みるね」 一晩島で過ごし目を覚ますと、朝日を体一杯に浴びるかのように大きく伸びをする鬼太郎。その視界に、ふと何かが入った。 「ん? なんだあれ? ……島じゃねえか。まさか! 不帰島か」 朝日をバックにする島影に、淡い期待を寄せる。 「いや、それはないか。向こうは東だ。西にあるって島が、通り過ぎてもいないのに東に見える訳が無い」 島の全貌を確認しようと、よーく目を凝らして見る。 「あの島……どこかで――はっ! あれは鬼ヶ島じゃねえか!!」 そう、その島は紛れもなく鬼ヶ島であった。鬼太郎がいる浮島は潮の流れに乗って鬼ヶ島付近まで来るのだ。 せっかく丸一日掛けて泳いだのに、またスタート地点のすぐ近くまで戻されるとは……哀れな奴だ……。 「ちきしょー。また行ってやらぁ!」 仕方ないと言えば仕方ないが、どうやらヤケを起こしたようである。 速い速い。そのまま島にいれば、丸一日泳いだ所まで戻れたはずだが、それを承知の上でなのかただ単に気付かなかったのか、とにかくあれから泳ぎまくっている鬼太郎。しかも、初めの三倍以上のスピードは出ている、これもヤケが成せる業か……。 そのおかげで、もう不帰島の近くまで来ている。とんでもない奴だ……。 「うりゃぁぁぁぁぁぁ! ん? 何だあれ」 と、順調に……でもないが来たのに前方に、海面を突き出した背鰭で割って進む大きな魚が目に入った。いわゆる鮫である。 「さ、鮫ってヤツか」 泳ぐのを止めじっと鮫の動きを目で追う。 鮫はゆらゆらとゆっくり鬼太郎の方へ近寄っていく。 「こっちに来るな、こっちに来るなよ……」 心中での願いが、まるで許容量を超えたかのように呟きとなって漏れる。 が、そんな願いも虚しく、鮫は一気に差を詰めてくる。 「来んなって言ってんのにぃぃぃ。ち、しょうがない……」 近づく鮫に一吠え罵倒すると、意を決したと言うよりは面倒臭いことを諦めてするときのような声音で鮫を睨む。 「出でよ! 餓鬼!」 すばやく妖力を集中すると目の前の空間に向かってそう叫ぶ。 その声に――正確には妖力に反応して目の前の空間が割れ、ポッカリ黒い穴が出来たようになる。そして、その黒い穴から三十センチ程の奇怪な生物が這い出てくる。 それは魔界の生物「餓鬼」である。どうやら鬼太郎は召喚に成功したらしい。 餓鬼が完全にこの世に姿を現すと、黒い穴はパッと消える。 すぐさま餓鬼は鮫に食らいつき、その鋭い牙で鮫の肉を引き千切る。それでも鮫はもがきながらも鬼太郎へ向かって行く。 「ちっ、まだ来るか。しゃーない、くらえ! 鬼火!」 声と共に手の平に現れた火の塊を鮫に投げつける。鬼が使う妖術の中で最もポピュラーな術だ。 この火は水の中だろうがなんだろうが、燃え続けるので、迫る鮫に直撃した。 「フゥ、終わった〜」 直撃を受けた鮫はすでに灰になってしまい、何処にもその姿はない。 所詮、人食い鮫程度では鬼太郎の敵ではなかったのだ。 しかし、その鬼太郎ですら用心しなければならない桃太郎。果たしてその強さは如何なるものか……。 |