〜第四章「刀を使う鬼」〜



 三時間後、鬼太郎は頂上に着いていた。
 ちなみに髪は元通りになっている。言い忘れたが鬼太郎の髪は、さらさらストレートの黒髪である。まあ、んなコトどーでもいいのだが。
 とにかく頂上に着いた。辺りは木など一本も生えていなく、ただの岩場であった。しかもかなり狭い。とりあえず非常に見晴らしは良かったが、鬼など見当たらなかった。第一そんな奴がいられるようなスペースもない。
 あるものといえば、一本の朽ちた旗だけであった。
「おかしい、ここじゃないのか」
 自分の予想が外れた事に、腕を組みつつ悔しそうに足元の小石を蹴った。 
「でも、一体何処に?」
 そのままの姿勢で首を捻った。「偉い奴は高いトコ」とゆう自分の中で一つの定理であったモノが崩れ去って途方に暮れる。
「………………!! まさか、途中にあった洞窟か!?」
 しばらく考えていた鬼太郎の頭に、一つ思い当たる所が浮かんだ。
 ここに来る途中、ぽっかりと洞窟が口を開けていたのだ。だが、鬼太郎は頂上に「刀を使う鬼」がいると思い込んでいたので、多少気にはなったが、あえて無視し先を急ぐことにしたのだ。
「先に、洞窟見てくりゃ良かった〜」
 そう言って、再び小石を蹴りしぶしぶ来た道を戻り出した。


 問題の洞窟にはたいして時間をかけずに着いた。
 今度は中をちゃんと覗いてみる。
 かなり古い洞窟らしいが、自然にできたモノではなさそうだった。まあ、あくまで鬼太郎が見た感じではあるが。
 しかし、それを肯定するかのように洞窟内を照らす明りがあった。しかもロウソクや松明ではない、明りの元は紛れもなく「鬼火」であった。
 それが何を意味しているか鬼太郎は瞬時に理解した。これで奥に鬼がいる可能性が高くなったとゆうことだ。
「やはりこの中だな。くそっ、人を……いや鬼を騙しやがって!」
 勝手に頂上にいると決め付けたのは鬼太郎自身だったが、何かにあたらなくてはやり切れんのだろう、目の前に酒があったら呷っていたに違いない。
 洞窟前でぼやいていても仕方ないと、とにかく中に入る。
 中は緩やかな昇り坂になっていた。
 しかし、少し歩くと急な下り坂に変わり、そのままかなり深い所まで続いているようだった。
「かなり下るみたいだな。ちっとも先が見えやしない」
 目を凝らして先の方を見るも、鬼火のボウッとした明りが点々と続いているだけで他に何も見えない。そして、それすらも徐々に掠れて見えなくなっていた。
 まあ、ここまで来た以上戻ってもしょうがない、と先へ進む鬼太郎。下り坂はそこそこ勾配がついていて「転がって行きゃ早く下りれるかな」などとゆう考えが頭をよぎったが、さすがにそれをやると死にそうなので、やめておくことにした。
 それからどれくらい歩いたか、進んでも進んでも変化のない洞窟の壁面にいい加減飽き飽きしてきた鬼太郎。
「どこまで下るんだ? このまま溶岩にブチ当たる。なんてオチだったら嫌だぞ」
 するとその言葉に答えるように、少し先の道が右に曲がっていた。そして、その先からは一層明るい光が溢れていた。
 それを見て鬼太郎はラストスパートと走り出す。そして曲がると、そこは広い空洞となっていた。向こうの壁まで百メートル、高さ八メートルといったトコだろうか。
「あいつが、刀を使う鬼か……?」
 そして、向こうの壁近くに誰かが石造りの椅子に座って、じっとこちらを見ていた。
 姿は人間の成人男性と変わらないように見える。しかし、長く伸びた髪の間からのぞく二本の角は、紛れもなくその者が鬼である事を示していた。
 わずかに緊張した面持ちで、鬼太郎はその同族に歩み寄って行く。
 残り二メートルといった所で立ち止まり、
「あんたが、刀を使う鬼か?」
 とその同族の鋭い視線を正面から受けて、まず確めなければならないことを訊く。
「ああ、確かにそう呼ばれている。お前は?」
 その鬼――鬼彦はそっけなく答え、訊き返してくる。
「お――」
 その同族から感じる威圧感みたいなのに飲まれたのか、名乗ろうとして声が裏返った。
「俺の名は鬼太郎。鬼ヶ島からあんたに刀の使い方を習いに来た」
 気を取り直し、今度は毅然と答えることができ、内心ホッとする鬼太郎。
「ほお、鬼ヶ島から……」
 驚いたような、感心したような、ともすれば呆れただけのような表情を向ける鬼彦。
「で?」
 しばらくそんな表情で鬼太郎を見たあと、そう一言だけ訊き返す。
「で……って、だから刀の使い方をだな――」
「そうじゃない。お前、刀も持たずにどう教わるつもりなんだ、って訊いてんだ」
 そう言われ、はっとする鬼太郎。その時、彼の中の時間は止まっていた。いや、凍りついたと言うべきか……
(はっはっは、まいったねこりゃ。そんなことちーとも考えてなかったよ。いや、実にまいった、まいった……)
 額に冷たい汗を浮かべ固まる鬼太郎。
(……おわった)
 根本的なことを忘れていた自分自身に腹が立つとゆうか、呆れ返るとゆうか、里へ帰るとゆうか、さなぎが孵るとゆうか……よもや後半はバグってきているが、そんな思いを抱き自暴自棄になりかける鬼太郎。もうなっとるがな、とゆう気もしないでもないが……
「まあ、刀ならくれてやるが」
 と、廃人(廃鬼?)になりかけていた鬼太郎に、救いの手が差し伸べられた。その言葉で鬼太郎は顔を輝かす。
「しかし、弱い奴に教えても意味がない」
 次の瞬間その言葉で、顔を真っ赤に染める。
「ふざけんな! 俺は強いぞ!!」
 鬼彦に掴み掛かりそうな勢いで、力一杯鬼彦の言葉を否定する。
「慌てるな、別にお前がそうだと言ってる訳ではない。ただ、お前の力を試させてもらう」
「どうやってだ。あんたと勝負すんのか?」
 さっきの勢いのまま身構える鬼太郎。
「いや、数年前からこの島に住みついた、魔狼という魔界の狼を始末してみろ、それが出来れば刀の使い方を教えてやる」
「なんだ、たかが狼一匹倒すだけか。んで、そいつはどこにいるんだ?」
「森のどこかにいるだろう。頑張って探しな」
 ニヤリと笑みを浮かべ、始めのようなそっけない答えを返す鬼彦。
「森のどこか……か。まあいい、すぐ見つけて倒してやる!」
 そう言うと出口へ向かって、来た道を戻ろうと駆け出した。