〜第五章「封印されし者」〜



「ああ言ったものの全然見つからん。夜になる前に見つけないと」
 森の中は、木が生い茂り草は背丈まであったりし、すでにかなり暗い、あと一、二時間で完全に闇に没することだろう。
 その暗い中、草をかき分けながら進んで行く鬼太郎。「獄炎で辺り一面燃やしてやろうか」などとゆう考えが頭をよぎったが、火事にでもなったらさすがに死にそうなので、やめておくことにした。
(なんか、さっきからあぶねー考えが頭によぎるな……)
 などと思っていると、何やら白い物が足にあたった。
「ん? 何だこれ?」
 その白い物を手にとってしげしげと眺める。
「これは…人骨か!? 道に迷って死んだのか…それとも狼なんかに食われたのか……。とにかく、これがこの島に来た人間の末路か……」
 その通りだった。
 この島に人間が鬼退治をしに来るには来るが、実際その鬼――鬼彦に出会った者など、鬼彦が刀を使うようになってからは一人もいない、その前でも一人しかいないのだが。
 皆、森で迷い餓死したり、狼などに襲われて目的を果たせず命を散らしているのだ。それでも、この島に来る人間は後を絶たない。
 鬼太郎の足元に転がっているのも、その中の一人なのだろう。
「これだから人間たちは馬鹿なんだ。この島に来るなら、俺みたいに強くなければ駄目だとゆうのに」
 狼に囲まれ死にかけたことは棚に上げつつ言うと、また魔狼探索を続けるのだった。


 すでに森は完全に暗闇に包まれている。どこからか狼だか野犬だかの遠吠えが聞こえてくる。
 そんな状況で鬼太郎は、松明を作りまだ探していた。
 もはや足元は松明の明り無しでは見えない。明りはあるがそれでも一歩一歩慎重に進んで行く。
「さすがにもう駄目か。先の方があんまり見えないんじゃ、見つかるモノも見つからん」
 諦めかけたその時、目の前に小屋が現われた。接近して突然見える、そんな視界しかないのだ。
「この中にいるかな? とにかく中を見るか」
 小屋に近づき入口からそ〜っと中の様子をうかがう。
 ……………………誰もいない。
「ふう、ちょうどいい朝まで休むか」
 魔狼がいないとみると、緊張していた糸がぷっつり切れた為かドッと疲れが押し寄せてもう今日は探す気力がなくなった。
 中には祭壇があり、何かを祭っているようだった。しかし、その何かはすぐに見つかった。一振りの刀が大事そうに置かれていたからだ。
「何だ? あの刀」
 しげしげと刀を見つめながら近づいて行く。それで何が分かるとゆうものでもなかったので、とりあえず床に散らばっていた何本かのロウソクに火をつけ、充分な明りを確保することにした。
 十本のロウソクに火をつけ立て終えると、ふと、いいこと思い付いた。
「せっかくだ、俺の刀にしよう」
 そう決め込むと刀を手にとる。祭壇に祭られているくらいだから、きっと大切なモノなのだろう。もしかしたら何かの祟りでも恐れてここに置かれていたのかもしれないが、所詮人間の所業だろうと、全く意に介さない。
「どれ、使えそうかな?」
 鞘から抜いて刀身を確認しようと柄に手をかけた。その時、柄から鞘にかけて、何やら文字のようなモノが書かれた一枚の紙が貼り付けてあるのに気づいた。
「何だ、この紙。何か書いてあるけど…………読めん! いいや」
 その紙は御札だったのだが、鬼である鬼太郎にはさっぱり分からない物だったので、破り捨てると一気に刀を引き抜いた。
「うっ!」
 瞬間、強烈な光が目を襲った。
 ゆっくり目を開けると、強烈な光こそ収まっていたものの、刀身が淡く輝いているのが見えた。
「この刀、光ってる……」
 ゴクリと唾を飲み込み、手にした刀を凝視する。
「ま、刀ってきっとこうゆうもんなんだろう」
 違う違う。
 その異常さに全く気づかず鞘に戻した。ニコニコした顔を見る限り「ラッキー刀が手に入った」程度しか思っていないのだろう。
「!!」
 がその時、背後に気配を感じ慌てて振り返る。
 狐につままれたような表情のまま、我が目を疑っていた。そこにいたのは、背の高い長い髪をした男だった。どちらかと言えば細身の印象を受けるが、ゆったりとした服を着ているため良くは分からない。頭に角がないところを見ると、人間のようだ。だとしたら年齢は、二十代半ばといったところだろう。
(何で、ここに人間が……)
 非常に目が鋭い。しかも鬼を見ても眉一つ動かさない。
 この島に巣くう鬼――鬼彦を倒しに来た者だろうか、と思い付く。だとしたら、自分が鬼彦と思われたコトだろう。ならば戦いは避けられない。
 緊張した面持ちで男を見る鬼太郎。人間如きにおくれをとるはずはない、と思ってはいるが、なにせ相手は得体が知れない。いつから後ろにいたのかも分からないのだ。
「貴様がその刀を抜いたのか?」
 男が、鬼太郎の持つ刀を見ながら訊いてきた。
「ああ、そうだ。……お前は何者だ?」
 人間如きに「貴様」呼ばわりされたことに腹を立てるよりも、少しでも男の正体が知りたかった。
「我が名は妖孤。その刀に封ぜられていた者だ」
「何? ヨウコ……ようこ……洋子。お、お前、女だったのか!? てっきり男かと」
「ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう! 狐の妖孤だ」
 鬼太郎の言葉に、声を荒げて反論する妖孤。
「狐? お前、人間の姿してるじゃないか?」
 妖孤とゆうのは聞いたことがあった。魔界に生息する狐のことである。しかし、ならば姿は紛れもなく狐のはずだ。
「まあ、色々あってな……」
 どこか遠い目をする妖孤。
「しかし、まさか鬼に封印を解かれるなど考えもしなかったぞ」
「俺だって、刀から狐が出てくるとは思わなかったさ。それも魔界の…魔界? そうだ! あんた、魔狼って知らないか?」
 同じ魔界の者なら、と勢い込んで妖孤に訊く鬼太郎。これ以上、当てもなくさ迷う事が面倒くさかったのだ。
「何っ! 魔狼がこの世界にいるのか!! どれ……」
 目を閉じ集中する。妖孤には妖力を探知する能力があるのだ。
 妖孤と魔狼は、昔、争い合っていたのだ。魔界で領地を巡った争いを。
「知らなかったのか?」
 驚いている妖孤をみて鬼太郎が訊く。
「うむ、封ぜられたのは百年ほど前であったからな」
 目を閉じたまま、そう答える妖孤。
 さぞかし退屈だったんだろうな、などと見当違いなことを思う鬼太郎。
「なるほど、確かにいるな」
 目を開くと不敵な笑みを浮かべる。魔界を離れ、この世界のこれほど近くにお互いいることの因縁が可笑しかったのだろう。
「ひょっとして、どこにいるのか分かるのか!?」
「ここから北に行った所にいるな。近くに池らしきものがあるようだ」
 さらっと、まるで今見てきたような口ぶりで鬼太郎に教える妖孤。
「北の池近くだな。よ〜し」
 一気に外へ走り出ようとしたが、外は真っ暗だとゆうことに気づき、
「や〜めた、明日にしよう。焦ることもないし」
 ドカッとその場に腰を下ろす。
「では、我はこれで去ることにする」
「そうか、もう封印されんなよ」
「く……一言多い奴だ。しかし、もっともだな。二度と後れはとるまいよ」
 そう言うと、妖孤の体がスーッと掻き消すように消えていった。
「さ〜て、明日に備えてさっさと寝るか」
 魔狼の情報と刀の二つを手に入れ、余裕綽々に「いい夢見れそうだ」と思いながら刀を手に大の字で眠りに就いた。