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(どうする、もっと強い奴を召喚するか? いや、失敗したら間抜けだ、やめとこう……ならどうするか……) 頭の中で自分相手に大討論会が始まる。一向にいい手は思い付かなかったが…… 餓鬼の血を滴らせながら魔狼がゆっくり近づいて来る。 無意識に鬼太郎は後ずさる。魔狼が滴らせているのが、よだれのように見えた。実際そうなのかもしれないが。 (あんな奴に食われるかよ!) 心の中で叫ぶと幾分焦りも和らぎ、何か手段がないか考えるための時間と距離を得ようと、今度は意識して後ずさる。 しかし、余り時間を稼ぐことは出来なかった。 いつのまにか鬼太郎のすぐ後ろに、魔狼が潜んでいた洞窟の入口が口を開けていたからだ。その狭い洞窟に入ってしまうと、大きな動きができないので、確実に殺られるだろう。 (どこまで続いてるか知らんが、中に入るのはヤバイだろうな……) その時、何か固いものを踏んだ。何かと思い、鬼太郎はチラッと見てそれを確める。 刀だった。昨日手に入れた刀――狐封刀である。 洞窟の中を確めるため術を放つ時に、下に置いたままであった。いざ戦いともなると、使い慣れないモノは頭から忘れ去られていたようだ。 「どうやら、もうネタ切れらしいな」 と、魔狼が小馬鹿にしたように鼻で笑う。 「上級妖術や召喚術を使うから、他に何かあるのでは、と警戒してたが無駄だったようだな……」 ある程度距離を置き立ち止まる。そして、術で止めを刺そうと妖力を集中する。 「いくら本来の力が戻ってないとは言え、俺としたことが慎重になりすぎたな」 自嘲気味に呟く魔狼。 「まだまだー! これでも食らえ!」 このままでは殺られるだけだと、素早く足元の刀を掴み、鞘から抜き放ち一気に斬りかかる。 スカッ 型も何もあったもんじゃない攻撃は、魔狼に難なく後方に跳ばれかわされた。 「鬼が刀を使うとはな、これは意表を突かれた」 そう言うものの、鬼太郎は、ただ刀を振り回したにすぎず、扱えるとゆうわけではない事に気づいていた。 「だが、その程度の太刀捌きで俺を斬るつもり――――んっ!?」 見下すような魔狼の目が見開かれ、鬼太郎の持つ刀に釘付けになる。淡く輝くその刀に見覚えがあった。 「その刀は……封魔刀!」 人間が魔物を封じるために鍛え上げた刀だった。その刀に、術を用いて封印するのである。 そうやって、昨日まで妖孤は封印されていたのだ。そのことまでは、さすがに魔狼も知らなかったが。 「貴様、封印術まで使えるのか!?」 「なにボーっとしてる!」 驚愕の声を上げていると、魔狼の様子がおかしいことに気づいた鬼太郎はすでに動いていた。 魔狼は動揺のため迎え撃つか避けるか一瞬判断を迷い、行動が遅れる。その間に鬼太郎は魔狼の目の前まで迫り、頭に目掛けて刀を振り下ろしていた。 「しまった!」 その一撃をなんとか頭からそらしはしたが、前脚を浅からず斬られる。その痛みと怒りで顔を歪める魔狼。しかし、それに耐え後方に跳び間合いをとり、憎しみの目で鬼太郎を睨み付ける。瞳が赤いせいもあり、本当に憎しみの炎が渦巻いているかのように見える。 それを臆することなく睨み返す鬼太郎。 (なんか魔狼の奴動揺してんぞ。あの傷なら速く動けないだろうし、これなら勝てそうだ) 刀の切れ味にも感謝しつつ、このままの勢いで、と魔狼に駆け寄り間合いを詰める。 「馬鹿が! 正面から来るとは!」 鬼太郎が刀を振り上げると同時に魔狼が叫んだ。 「死ね! 風牙!!」 真っ直ぐ向かってくる鬼太郎に、四肢に力を込め踏ん張ると、動揺を振り払うかのように、ありったけの妖力を込めた『風牙』を放つ。 「うわっ!」 魔狼の口から放たれた凶悪な妖力を感じ、調子に乗って正面から行ったことを後悔するも、時すでに遅く、とても避けられそうにない。 すると突然、振り上げていた刀の輝きが増すと、『風牙』に引き寄せられるように勝手に前に出る。丁度、正眼に構えた格好だ。 (無駄だ!) 魔狼には、鬼太郎が『風牙』を切り裂こうとしているように見えた。鬼太郎自身も、刀が『風牙』を斬ろうとしているのかと思った。 しかし、どちらの予想も外れることになる。 さらに刀の輝きが増すと、その光に飲まれるかのように『風牙』を吸収してしまった。 「な、何だぁ?」 すっとんきょうな声を上げる鬼太郎。体に力が満ちるのを感じたからだ。吸収された『風牙』の妖力を、一時的にではあるが鬼太郎にプラスされたからだった。 「そうか、封魔刀は術を吸収する……」 魔狼が鬼太郎の持つ刀の能力を思い出す。 「まずい!!」 『風牙』を難なくやり過ごした鬼太郎は、すでに目の前まで来ていた。かと言って、残りわずかな妖力の自分に対し、『風牙』の妖力をプラスされた鬼太郎に、もはや勝つ術はないと悟る。 「――!!」 鬼太郎が刀を一閃するのがスローモーションのように見えた。それがこの世で最後に見る光景であろう。自分が殺されるのが最後に見る光景とは嫌なものだ、などと思う魔狼。 そして、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、魔狼はその体を真っ二つにされた。自分の失敗を呪いながら……。 鬼太郎はしばらくの間、魔狼を斬ったままの姿で硬直し、自分の身になにが起こったのか考えていた。何故、突然力が満ちたのか? 明らかに今まで以上の力が出ていた。まるで、自分の力に別のモノが加わったような……などと考えている。自分が今、手にしている刀の能力など知ろうはずもない。 しかし、ふと、自分が手にしている刀を見る。淡く光り輝く刀がそこにある。 「そうか……」 何かに気づいたらしく、納得したように呟く。刀の能力に気づいたのだろうか? 「これが、火事場の馬鹿力ってやつだな。そうか、そうか、俺の潜在能力も大したもんだ。さすが、俺。よっ、天才!」 違う違う。 こんな奴に殺られた魔狼君……浮かばれんな…………。 |