〜第七章「封魔刀」〜



(どうする、もっと強い奴を召喚するか? いや、失敗したら間抜けだ、やめとこう……ならどうするか……)
 頭の中で自分相手に大討論会が始まる。一向にいい手は思い付かなかったが……
 餓鬼の血を滴らせながら魔狼がゆっくり近づいて来る。
 無意識に鬼太郎は後ずさる。魔狼が滴らせているのが、よだれのように見えた。実際そうなのかもしれないが。
(あんな奴に食われるかよ!)
 心の中で叫ぶと幾分焦りも和らぎ、何か手段がないか考えるための時間と距離を得ようと、今度は意識して後ずさる。
 しかし、余り時間を稼ぐことは出来なかった。
 いつのまにか鬼太郎のすぐ後ろに、魔狼が潜んでいた洞窟の入口が口を開けていたからだ。その狭い洞窟に入ってしまうと、大きな動きができないので、確実に殺られるだろう。
(どこまで続いてるか知らんが、中に入るのはヤバイだろうな……)
 その時、何か固いものを踏んだ。何かと思い、鬼太郎はチラッと見てそれを確める。
 刀だった。昨日手に入れた刀――狐封刀である。
 洞窟の中を確めるため術を放つ時に、下に置いたままであった。いざ戦いともなると、使い慣れないモノは頭から忘れ去られていたようだ。
「どうやら、もうネタ切れらしいな」
 と、魔狼が小馬鹿にしたように鼻で笑う。
「上級妖術や召喚術を使うから、他に何かあるのでは、と警戒してたが無駄だったようだな……」
 ある程度距離を置き立ち止まる。そして、術で止めを刺そうと妖力を集中する。
「いくら本来の力が戻ってないとは言え、俺としたことが慎重になりすぎたな」
 自嘲気味に呟く魔狼。
「まだまだー! これでも食らえ!」
 このままでは殺られるだけだと、素早く足元の刀を掴み、鞘から抜き放ち一気に斬りかかる。

 スカッ

 型も何もあったもんじゃない攻撃は、魔狼に難なく後方に跳ばれかわされた。
「鬼が刀を使うとはな、これは意表を突かれた」
 そう言うものの、鬼太郎は、ただ刀を振り回したにすぎず、扱えるとゆうわけではない事に気づいていた。
「だが、その程度の太刀捌きで俺を斬るつもり――――んっ!?」
 見下すような魔狼の目が見開かれ、鬼太郎の持つ刀に釘付けになる。淡く輝くその刀に見覚えがあった。
「その刀は……封魔刀!」
 人間が魔物を封じるために鍛え上げた刀だった。その刀に、術を用いて封印するのである。
 そうやって、昨日まで妖孤は封印されていたのだ。そのことまでは、さすがに魔狼も知らなかったが。
「貴様、封印術まで使えるのか!?」
「なにボーっとしてる!」
 驚愕の声を上げていると、魔狼の様子がおかしいことに気づいた鬼太郎はすでに動いていた。
 魔狼は動揺のため迎え撃つか避けるか一瞬判断を迷い、行動が遅れる。その間に鬼太郎は魔狼の目の前まで迫り、頭に目掛けて刀を振り下ろしていた。
「しまった!」
 その一撃をなんとか頭からそらしはしたが、前脚を浅からず斬られる。その痛みと怒りで顔を歪める魔狼。しかし、それに耐え後方に跳び間合いをとり、憎しみの目で鬼太郎を睨み付ける。瞳が赤いせいもあり、本当に憎しみの炎が渦巻いているかのように見える。
 それを臆することなく睨み返す鬼太郎。
(なんか魔狼の奴動揺してんぞ。あの傷なら速く動けないだろうし、これなら勝てそうだ)
 刀の切れ味にも感謝しつつ、このままの勢いで、と魔狼に駆け寄り間合いを詰める。
「馬鹿が! 正面から来るとは!」
 鬼太郎が刀を振り上げると同時に魔狼が叫んだ。
「死ね! 風牙!!」
 真っ直ぐ向かってくる鬼太郎に、四肢に力を込め踏ん張ると、動揺を振り払うかのように、ありったけの妖力を込めた『風牙』を放つ。
「うわっ!」
 魔狼の口から放たれた凶悪な妖力を感じ、調子に乗って正面から行ったことを後悔するも、時すでに遅く、とても避けられそうにない。
 すると突然、振り上げていた刀の輝きが増すと、『風牙』に引き寄せられるように勝手に前に出る。丁度、正眼に構えた格好だ。
(無駄だ!)
 魔狼には、鬼太郎が『風牙』を切り裂こうとしているように見えた。鬼太郎自身も、刀が『風牙』を斬ろうとしているのかと思った。
 しかし、どちらの予想も外れることになる。
 さらに刀の輝きが増すと、その光に飲まれるかのように『風牙』を吸収してしまった。
「な、何だぁ?」
 すっとんきょうな声を上げる鬼太郎。体に力が満ちるのを感じたからだ。吸収された『風牙』の妖力を、一時的にではあるが鬼太郎にプラスされたからだった。
「そうか、封魔刀は術を吸収する……」
 魔狼が鬼太郎の持つ刀の能力を思い出す。
「まずい!!」
 『風牙』を難なくやり過ごした鬼太郎は、すでに目の前まで来ていた。かと言って、残りわずかな妖力の自分に対し、『風牙』の妖力をプラスされた鬼太郎に、もはや勝つ術はないと悟る。
「――!!」
 鬼太郎が刀を一閃するのがスローモーションのように見えた。それがこの世で最後に見る光景であろう。自分が殺されるのが最後に見る光景とは嫌なものだ、などと思う魔狼。
 そして、断末魔の悲鳴を上げる間もなく、魔狼はその体を真っ二つにされた。自分の失敗を呪いながら……。


 鬼太郎はしばらくの間、魔狼を斬ったままの姿で硬直し、自分の身になにが起こったのか考えていた。何故、突然力が満ちたのか? 明らかに今まで以上の力が出ていた。まるで、自分の力に別のモノが加わったような……などと考えている。自分が今、手にしている刀の能力など知ろうはずもない。
 しかし、ふと、自分が手にしている刀を見る。淡く光り輝く刀がそこにある。
「そうか……」
 何かに気づいたらしく、納得したように呟く。刀の能力に気づいたのだろうか?
「これが、火事場の馬鹿力ってやつだな。そうか、そうか、俺の潜在能力も大したもんだ。さすが、俺。よっ、天才!」
 違う違う。
 こんな奴に殺られた魔狼君……浮かばれんな…………。