〜第八章「痛感」〜



 魔狼を倒して意気揚々と鬼彦の所に戻ってきた鬼太郎。
 しかし、最初にここに来た時とは、気持ちの上で大きく異なっていた。それは、「刀の使い方など教わる必要はない」と思いはじめていたことだ。
 理由は単純。鬼彦が「魔狼を始末してみろ」と言ったのは、自分では倒せないから俺にやらせたのでは、と考えていたからだ。
 そして鬼太郎は魔狼を倒した。その結果「魔狼を倒せる=鬼彦より強い」とゆう式を完成させていた。自分より弱い奴に教えを請うなどまっぴらゴメンだ、と思っているのだ。
「どうした、魔狼は倒してきたのか?」
 鬼彦が相変わらず石の椅子に腰掛けたまま黙り込んで戻ってきた鬼太郎に声をかけた。
「ああ、倒した」
「そうか、では約束通り刀の使い方を教えてやろう」
「その必要はなくなった。なにせ、俺にはこんな凄い刀があるからな」
 刀を抜いて一振りし、突き出すように見せる。
「これさえあれば恐いもの無しだ。……そうゆうことで、一応別れの言葉でも掛けとこうかと思って、寄っただけだ」
 刀を鞘に戻し「じゃあな」と一言言って出口へ向かって歩き出した。
「…………あの魔狼を倒しただけで、もうテングか? 愚かな奴だ」
 鬼彦がポツリと鬼太郎の背中に向かって言う。
 鬼太郎は歩みを止め、振り返った。
「なんだと!」
 振り返った鬼太郎の顔は、怒りで赤く染まっていた。今の言葉でキレたのだ。自分より弱い奴に馬鹿にされたから。
「愚か、だと言ったのだ。お前が持ってる刀は妖術を吸収し、使用者の力に換えることができる。そして、魔狼は妖術で攻撃するのを得意としている。だから勝てたのだろう」
 鬼太郎が持っている刀が『封魔刀』と知って、冷静に勝因を分析する鬼彦。
「そこまで言うなら試してやる! 刀だけの力じゃ無いってことを」
 刀を抜き、鞘を投げ、鬼彦に向かって走り寄る。
 鬼彦は椅子からゆっくりと立ち上がっている。その手にはいつの間にか、抜き身の刀が握られていた。
(俺を馬鹿にしたことを後悔させてやる)
 鬼彦が完全に立ち上がった時、すでに鬼太郎は、目の前まで来て刀を振り下ろそうとしていた。
(遅い!)
 魔狼と同じように両断したと確信した。

 ガキィィン!

「なっ!?」
 が、振り下ろした刀は鬼彦の刀に止められていた。鬼太郎はその太刀筋が全然見えなかった。それほど振り上げたのが早かったのだ。
(それならそれで)
 一瞬驚きで止まるが、すぐに気を取り直して体重を乗せ押し込む。
 しかし鬼彦はビクともしない。表情も変えず鬼太郎の刀を受け止めている。
(駄目か! なら……)
 後ろに飛び退いて少し距離をとると、
「たあっ!」
 気合の声を発し、勢いをつけて再び斬りかかる。
 が、鬼彦は簡単に受け止める。
 それでも、すぐさまもう一撃仕掛ける。それも止められるが、さらにもう一撃、と続けざま連続攻撃を仕掛けてゆく。
 目茶苦茶な攻撃ではあったが、その勢いは凄まじいものがあった。が、鬼彦は冷静にその一撃一撃をさばいている。
 いくらやっても簡単にさばかれ、鬼太郎は徐々に焦ってきていた、ってゆーか疲れてきたからだ。魔狼と戦ってそのまま来たもんだから、心身ともに疲労していたのだ。連続で繰り出している攻撃も、どんどん勢いが無くなっている。
 その時、鬼彦がフッと笑みを浮かべたと思ったら、下から強烈な一撃を放ってきた。いや、放っていたと言う方が正しいか……
 気付いた時には鬼太郎の手から、刀が宙に飛ばされていた。
「!?」
 なにが起こったか理解しきれず、呆然と手を見る。後ろで刀が地面に落ち、乾いた音をこの空洞に響かせていた。
 それで鬼太郎は何が起きたのか理解した。自分は負けたのだ、と。
 鬼彦はその様子を眺めてから刀を無造作に地面に突き立てると再び椅子に腰掛けた。
「これが、お前の力だ」
 肩で息をしている鬼太郎と対照的に、息一つ乱していない鬼彦。
「いくら強い刀を持っていても、使い手が弱ければどうにもならんのさ」
「術を使ってりゃ、負けはしない」
 息を整えながら、悔しさの中、精一杯の反論をする鬼太郎。
「確かにそうかもしれん。しかし、お前が持っている刀と同じ物を相手が持っていたらどうする?」
 その言葉には黙ってうつむくしかなかった。
「刀の勝負なら、今のお前では並の兵士にも勝てんさ」
 そのことは鬼太郎も痛感していた、このままじゃ桃太郎には到底及ばないだろう。桃太郎は術も刀も並外れた使い手と聞いている。
「……俺に刀の使い方を教えてくれ」
 鬼太郎が心から頭を下げるなど、珍しいことだった。例えそれが桃太郎を倒すためだとしても。
「いい心がけだ。なら、刀を拾って鞘に収めときな。あの刀は今のお前にはまだ過ぎた代物だ」
「分かった」
 素直に言われた通り狐封刀を拾うと、鞘に収め、
「普通の刀で一から覚えた方がいいからな」
 そう言って鬼彦に渡した。
「分かってるじゃ無いか」
 鬼太郎の言葉にどこか楽しそうな笑みを浮かべる鬼彦。
(今度、狐封刀を持つ時……その時こそ桃太郎に勝てる力を手に入れた時だ)
 そう心に留める鬼太郎。
 しかし、その目的のために泣くことになろうとは、今の鬼太郎には知るよしも無かった。