|
鬼太郎が鬼彦に刀の使い方を習い始めて、二年が経ったある日。 「お前に教えることは全て教えた。あとは自分で腕を磨け」 鬼彦は自分に向かい合って正座している鬼太郎にそう告げた。 「そうか……じゃあ、俺は目的を果たしに行くことにする」 鬼太郎はそう言って立ち上がった。 「それから、これは返しておこう」 そう言って鬼彦が一振の刀を鬼太郎に渡した。鬼太郎命名、狐封刀こと封魔刀である。 二年ぶりにそれを受け取ると、心に去来する思いがあった。「これで桃太郎に勝てる」二年前に思ったことである。今、確かに二年前の自分には無かった力を得ている。もし当時の自分と戦うことが出来たとしても負ける気は全くしない。 「今までアリガトな…………それじゃ」 いささかあっさりしているが、別れの言葉を掛けて洞窟の出口へ向かって歩き出す。 長い坂を登り洞窟を出ると青空が広がっていた。二年間ずっと洞窟内にいた訳ではないが、なぜか新鮮な感じがして大きく息を吸い込んだ。 そして今度は島の北へ向かって歩き出す。泳いで海の向こうの人が治める国――ニホン国に渡るために。 途中何度か獣に襲われたりもしたが、刀一本で全て切り抜けていった。 しばらくして、北の海岸に着いた。あとはニホン国に渡り、桃太郎が住んでいる村に行くだけだ。 村の場所はこの二年間ですでに調べている。村の名は「吉備」とゆう。この村は、桃太郎が鬼ヶ島の鬼を退治した時に、朝廷から渡された報奨金で作った村だった。 言わば鬼にとって無念の象徴と言えるだろう。かと言って、鬼太郎は別にそこの住人に対し無意味な復讐をするつもりは無かった。弱い人間を相手にする奴らの気が知れない、と思う。そんなことは鬼の誇りに傷をつけるだけだ。そんな奴らに会ったら、ぶん殴ってやる、と密かに誓っているほどだ。 などと思いつつ刀を縄でしっかり体に結び付ける。そしてゆっくり、あくまでもゆっくり、決して飛び込んだりせず、海へ入っていく。 「ニホン国には夜までには着くだろう。そこから歩いて村まで丸一日は掛かる……と、なると、明後日には桃太郎を倒せるな」 そう考えをまとめると、ニホン国へ向かって泳ぎ出した。 二日後、鬼太郎は草むらにいた。正確にはそこに身を隠していた。不帰島(鬼太郎にとってはそうはならなかったが)を出てから順調にここまでやって来て、もう吉備村は目の前である。 村に入る前に装備の点検をする。刀は鞘に収めボロ布で乱雑に巻いて一見しては刀と見えないようにし、左手で持っている。服はボロボロだったので、途中にあった家から新しいのを永久に借りた。刀に巻かれているボロ布が、それまで着ていた服の再利用先であった。 それから角は、無用の騒ぎを避けるため髪と布でもって何とか隠してある。 とりあえず、装備は万全と言えた。 桃太郎には刀で勝負を挑み、妖術は補助的に使うつもりでいた。やむをえず強力な術を使ってしまい、村に被害が出るかもしれないが、「まあ、それはそれでしょうがない。そこまで人間なんかを気遣う義理も無い」そう割り切ることにした。 「待ってろ桃太郎。今、倒しにいくぜ!」 高揚する気持ちを抑えつつ、運命の一歩を踏み出した。 「おい、桃太郎の家はどれだ?」 と、歩いていた老人を呼び止め訊いた。 村の人口は二百人程度。村としては大きい方である。だから、特定の一人の家を探すとなると、ややしんどい。 さっさと桃太郎を倒したいがため、なるべく人との接触は避けようと思ってはいたが、仕方なく訊くことにしたのだ。 「桃太郎様の家だか? ほれ、あの家じゃ」 そう言って老人は、一軒の家を指した。そこには、こざっぱりした小さな家があった。 「あの家か……よ〜し」 老人の指す家を確認すると、足早に入口に近づく。そして、そーっと中を覗く。 家の中は必要最低限と思える家具だけで、質素な感じがした。家主の性格が伺えよう。 そしてそこには桃太郎が!!…………………………いやしねー 「何で誰もいないんだ。桃太郎は何処へ行った」 その時、鬼太郎の脳裏には「夜逃げか?」とか「恐れをなして逃げたか?」とか「畑仕事か?」とか理由が色々浮かんでは消えていた。 まあ、無難なのは畑仕事だが、しかし、そのどれも彼を納得させるには至らなかった。だから、 「おい、ジジイ! 嘘つきやがったな!」 と、さっきの老人の両肩を掴みガクガク揺らしながら詰め寄った。 「た、た、確かにあの家で桃太郎様は、く、く、暮らしておられただよ」 老人は前後に揺れながら、舌を噛まないよう、それでいて慌てて答えた。 尚も揺らしながら、 「昔、住んでた家なんてどうでもいいんだ。今は、何処に住んでんだ」 「は? お、お、おめえさん、な、な、何、言っとるんだ。も、も、桃太郎様なら百年程前に亡くなっとるに決まってんべさ」 「へ?」 その老人の言葉に思い当たる事があり、揺らすのをやめると思考回路を超高速で働かせた。そして記憶の底の底にあった、ある一つの知識を思い出す。 それは、「人間の寿命はせいぜい百年くらい」とゆうことだった。鬼はその五倍は生きられる。 「…………じゃあ……今まで……俺のやってきたことは……」 頭の中に鬼ヶ島を旅立った時、鬼彦に会った時、妖孤に会い魔狼と戦った時、二年間の修行などの映像が浮かんでは消えていった。 「無駄だったんかいっ!!」 鬼太郎の一人ツッコミも、虚しく辺りに響くだけであった。 「どうしただ? おめえさん?」 そんな様子を見て老人が心配そうに声を掛ける。が、鬼太郎は呆然とその場に立ち尽くすのみであった。 無理もない、なんせ彼の「桃太郎を倒す」とゆう夢は、永遠に叶わぬ夢、言わば「永遠の夢」になってしまったのだから…… 時に、日羅多暦百九十八年。 時代の風は、一人の鬼の少年とってとても冷たかった。 さぶ〜。 |