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「やっとお会いできましたわ。勇者様」 駅を出たところで、女の子の声が聞こえてきた。 どうやら自分に言っているらしい。とゆうことは分かったので、声の聞こえた方を向いてみる。 まず目を引いたのはその格好。ゆったりとした裾の長い白い服、何と言うか、教会のシスターが着るような感じの服である。 年齢は自分と同じくらいであろう。長い黒髪で色白の肌、なかなか可愛い子である。 分かったことと言えば、それぐらいだろうか。 しかし、その言葉の意味するトコロはどうあっても分かりかねた。 ユウシャ? そんな珍妙な名前でないことは当然だし、TVゲームじゃあるまいしそんな職業に就いた覚えもない。 だが、彼女は胸の前で両手を組み合わせ、熱い眼差しでこっちを見ていた。 「え〜と、どこかで会ったっけ?」 そのまま黙ったままでいる訳にもいかない雰囲気に押され、さしあたっての疑問をぶつけてみる。 「いいえ」 彼女はふるふると首を横に振った。 「じゃあ、きっと人違いだよ」 自然な結論に至った俺はそう言って、少しばかり心残りではあるがその場を去ろうとした。 「いえ、人違いなんかじゃありません。間違いなくあなたは勇者様です」 去ろうとする俺の服の袖を掴んで引き止める彼女。 「俺の名前は 「今までは、です。これから立派な勇者様となられるのですから」 なにやら意気込みすら感じられる彼女の返答。 苦笑するしかない俺。 と、その時。ふと脳裏に浮かんだことがあった。 不思議な格好に、人のことをユウシャと呼ぶ……もしかして彼女がやっているのがコスプレとゆうやつか!? でもここは横浜駅前、有明じゃあるまいし。いやしかし、それしか考えられん。 「あの、悪いけど俺、コスプレに興味ないから……じゃ!」 そう言い残すと、もはや振り返らず俺はスタスタと歩き出した。 きっとこの近くで何かのイベントがやっているに違いない。で、彼女の仲間内で「勇者役」がいなかったため、こうして勧誘してるんだ。きっとそうだ。「駅前で宗教家に勧誘された」と友達から聞いたことはあるが、よもや駅前でコスプレに誘われるとは……前代未聞じゃないだろうか。 「え? あの、いや、そういったのではないんですけどぉ」 彼女が引き止めようと声を掛けてくるが、コスプレする気は全然ない。別に偏見がある訳ではないのだが、何かに扮装するとか何かを演じるとゆうことが昔から苦手なのだ。 それに掛ける時間があるならば、もっと「自分」とゆうモノを洗練し「自分」とゆうモノを表現していく方が好きだった。 せっかく可愛い子に声を掛けられたのに、少しばかりもったいない気もしたがここは仕方がない。変に期待を持たせるよりはいいだろう。 「待って下さ〜い」 彼女の声に何となく肩越しにチラリと後ろを振り返ってみる。 トテトテと追っかけてくる彼女。あんな服じゃ走りづらそうだ。 それでもトテトテ走ってくる。 コケても知らんぞ。 あ! コケた…… 「だぁぁぁぁもうッ!」 言わんこっちゃない、と思いつつ俺は彼女の所に駆け寄った。 「大丈夫か?」 手を貸して彼女を起こしてやる。 「わざわざすいません……」 服に付いた埃を払う彼女、白いから汚れが目立つ。完全には落ちなかったようだが、一通り叩き終えると俺の目を見て、 「でも、はっきりしました。やっぱりあなたは勇者様です」 と言ってきた。 「だから、違うっての。『女の子は大切にしろ』って死んだじいちゃんの口癖だったからだよ」 そう、俺はあくまでじいちゃんの言葉を守っただけだ。決して、「可愛い女の子とお近づきになりたい」とかゆう下心に負けた訳ではない! ハズだ…… 「亡くなられたおじいさまのお言葉を、一途に守ってらっしゃるなんて……やはり勇者様以外の何者でもありません!」 瞳をきらきらさせる彼女。 「あのね……別に一途ってわけでも……だいたい――」 「いくら否定なさっても、ここに動かぬ証拠があります!」 どうにか諦めてもらうため、説得を試みようとする俺の言葉を遮って、勝ち誇ったように胸を反らし彼女は何かを差し出した。 ぱっと見、運転免許証のようなそれを、とりあえず受け取ってよく見てみる。 「ん〜?」 大きさも形も運転免許証のそれと大差ない。運転免許証なら写真が貼られる所にも、やはり写真が貼ってあった。もっとも、なぜ俺の写真が貼られているのかは謎だったが。 「何これ? 俺、フツ免とか持ってないし……」 彼女にそれを差し出しつつ訊いてみる。 「ですから、それが――ああ!」 突然大きな声を出す彼女。 「ど、どうしたの?」 「そういえば自己紹介がまだでしたね。どうぞ、これ」 さっきの免許みたいなのは受け取らず、また何かを差し出した彼女。今度は一見すると名刺みたいなものだった。 やはり受け取りよく見る俺。 「なになに……」 それには、こう書かれていた。 『勇者選定委員会 一級勇者補佐官エリス=リトール』 と、どうやらまんま名刺のようだ。 ただし、やはり分からないことばかりだ。特に気になったことといえば、 「キミ、外人?」 ってことであろうか。 「え……ええ、まあ、そんなところです」 ちょっと迷って彼女は答えた、要はそれがコスプレしてるキャラの設定ってことなのだろう。 「『勇者選定委員会』って何?」 「世界中から勇者となり得る人たちの発掘、及び選定する機関です」 「……スカウトするってこと?」 「そう、ですね。分かりやすく言えば」 「『勇者補佐官』てのは?」 「同機関は同時に勇者の育成も行っているんです。勇者補佐官とは、言わば勇者様の助手です」 「一級ってことは、いくつか級があるわけ?」 「はい。三級からあります」 一通り名刺についての質問を投げかけてはみたが、返ってくるのは即答。そうとうキャラになりきっているんだろう。 「はあ……」 そうと分かったら、もはや生返事を返すことしか出来ない俺。 「それでそのカードが、私達委員会が認定した勇者様に与えられるライセンスです」 「これが……?」 どうやら俺の手の中にある運転免許証みたいなのも、まんま免許だったようだ。ただし勇者の…… 改めて見直してみると確かにそんなことが書かれていた。 有効期限までちゃんと書いてある。運転免許証において種類が書いてある所には「取り扱い可能武器」とやらが書いてあった。 「よく出来てるね」 コスプレするには小道具用意するのも大変なんだなぁ。その程度の感慨しか俺には浮かばなかった。 「それはもう! 委員会が自信を持って発行してますから」 誇らしげに言ってのける彼女。きっとコスプレ仲間と共に手間暇かけて作ったんだろう。 「でも、こんなの出されても、俺は『勇者』なんてやるつもりはないよ」 「そんな……私達にはあなたが必要なんです」 眉根を寄せ困ったような表情で彼女が食い下がる。その表情もまた可愛い。 「でも、さっきも言ったように俺コスプレに興味ないからさ」 せっかく頼ってくれたのに申し訳ないがこれは譲れない。 「ですから、そうゆうのじゃないんですってばぁ」 「何にせよ他当たって。どうあっても俺はやんないから」 最後通告としてキッパリと言い放つ。 「私の担当はあなたなんです。職務放棄は出来ません!」 ムキになって反論してくる彼女。 「そっちの都合なんて知らん! じゃあ、『駄目でした』って仲間にでも何でも言っときゃいいじゃん」 「そんな事言わず、行きましょう。やっちゃいましょう。一度『勇者』をやっちゃえば、ヤミツキになりますよ。きっと」 彼女が、さも楽しい所へ行くかのように、笑顔で俺の左腕を強引に抱え込んで引っ張る。 「……でぇぇぇい! やっぱコスプレじゃんか!」 抱え込まれため左腕に彼女の胸の感触が伝わり、危うくつられて行きそうになる両足を踏み留め、一振りして腕を振りほどく。 「いえ、そうじゃないんですってば〜〜私の言い方が悪かったんです。誤解しないで下さいよぉ」 「いや、俺の認識は正しいと思うぞ」 「え〜と、ですから、まずは私達の世界に来ていただいて――」 「だから、そっち系の世界に興味な・い・の!」 「ああ! また何か誤解されてますぅ。こことは違う世界がありまして……」 「ああ、違うだろうさ。日常茶飯事だったらそれこそコトだ」 「う〜〜。とにかく来て下さい。そこで勇者とは何か、聞いてもらえれば……」 「どうせ、やれ魔王を倒せだ世界を救えだ言うんだろ?」 勇者ときたら次は魔王とゆう、もはやB級以外の何者でもないネタを言ってみる。 「あれ? 解ってるじゃないですか」 少しの間の後、驚いた表情で彼女が言った。 ……ふぅ〜、疲れた、何かとても疲れた。 「やっぱり勇者様ですね、ちゃんと使命を心得――」 「もーキミには付き合っとられんわ〜〜!」 ツッコミこそしなかったが漫才の締めのような言葉を残し、俺は今度の今度こそ足早、いやむしろダッシュでその場を後にしたのだった。 |
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| 次回予告 | ||
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見切り発進もいいトコロ。いつ終わるか二つの場合でわかったもんじゃない とりあえず、次回のネタはあるにはある! これはすきもんか? 本当にすきもんか? 自問しつつも、 次回、すきもんキューブ第二話『それは意外な転校生』いや、バレバレだろう…… |
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