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「で、どうしたの?」 「そりゃもう、ダッシュで逃げたさ」 翌日、学校で昨日の出来事を友達の 俺たちは窓側にある貴志の机を囲むように話していた。もっとも、俺の席は貴志の前なので同じく窓側である。 俺はイスに反対に座って話している。尚子は席の主である貴志を押しのけてそのまま座っていた。押しのけられた貴志は、仕方なく机の脇で立っている。まあ、いつものことだったが……。 話し終わると、尚子の奴はケラケラ笑っていた。貴志も苦笑している。ま、当然だろう。 「あんたも変なのに声掛けられたわね」 尚子がポンポンと俺の肩を叩いて、同情の素振りをしてくる。 「宗教家に声掛けられたってお前をある意味超えただろ?」 「うん、超えてる超えてる」 楽しそうに繰り返す尚子。 「でもそのコ、可愛かったんだろ?」 貴志が目を輝かせながら興味深そうに訊いてくる。 「ん? ああ、色白で長い黒髪で……可愛いには可愛かったんだけどな」 「ちっ、おしかったなぁ。オレだったらそんな可愛いコ、この狂おしい愛でまっとうな道に戻してやったのに」 また始まった。可愛い子となると見境無しに手をだそうとする貴志の悪いクセだ。 そんなことだから、ルックス的にはかなりいいのに彼女の一人もできやしないんだ。 「お前の場合、どっちかって言うと『トチ狂った愛』って感じだけどな」 「っだとー。オレの愛はなぁ、一人のためにあるんじゃねー。世の中の可愛いコ全てのためにあるんだ!」 いつかも聞いた貴志のセリフ。前回はここで下手にツッコんでクドクド、持論と言う名のワガママを聞かされた。 「はいはい」 今回はその過ちを犯さないためにも、あくまで無表情に答えてやる。 「うお〜い。置いてきぼりにすんな〜、なんかツッコめ〜」 恨めしそうに言ってくる貴志。ふう、仕方がない。 「要は『見境無い』ってことだろ?」 友達思いで付き合いのいい俺は、ズバリ思うままのことを訊いた。 「人聞き悪いコトゆうなよ。『汝の隣人を愛せ』って言葉があんだろ? オレはそれを実践してるに過ぎない。そうさ『愛』は世界を救うのさぁ」 なんか奴の「愛」が「世界に巣くう」とゆうニュアンスで聞こえるのは気のせいか? 「にしては『可愛いコ』って限定してあるじゃない?」 横から鋭い尚子のツッコミ。 「そりゃ、お前、男なんか愛したくねえし、どーせなら可愛いコの方がイイに決まってるからじゃねーか」 しかし貴志は動じるどころか、むしろ胸を張って自信満々に言い返す。 「そんなの自然の摂理だぜ。なあ、龍哉?」 「俺に振るなよ。否定はしないけど……」 「ああ、やだやだ。これだから男って……」 直子が手の平を上に向けて、肩をすくめ首を横に振る。アメリカ的「やれやれ」ポーズだ。 「あ! でも、それなら私も気を付けなきゃ」 「はぁ〜? なんで?」 ポンと手を打つ尚子に、訝しげに訊き返す貴志。 「だって、目の前にこんな美少女がいたら放っとかないでしょ?」 俺と貴志の顔を交互に見ながら、なにやらポーズをとって答える尚子。 「なあ、貴志。俺、目が悪くなったみたいだ。『美少女』なんてドコにも見えやしない」 「じゃあ、一緒に目医者でも行くか? オレも悪くなったみてーだし」 「ちょっと二人とも。なに、真顔で話し合ってんのよ!」 「でも、美少女なんてドコにも見えないし……」 「ここにいるでしょ、こ・こ・に!」 人差し指で自分のことを指す尚子。 「ああ、なんだ。理想、希望、夢ってやつを語ってんのか」 白々しく、妙に明るく納得したように言う貴志。 「でもな。『夢を追うのは良いが、それに盲進するのは良くない』って死んだじいちゃんがよく言ってたぞ」 尚子の両肩をガシッと掴み、真っ直ぐ目を見て俺も続ける。 「あんたらね〜ッ」 こめかみの辺りをヒクつかせながら、握った拳をプルプルさせて怒りをあらわにする尚子。今にも殴り掛からんばかりの形相だ。 「ま、まあまあ。冗談だって、ジョーダン」 それを見て俺が慌てて弁解する。この前も、からかった挙げく殴られて、三日痛みが引かなかったのを思い出したからだ。 それに俺も貴志も本気で言っているわけではない。あくまでふざけているだけだ。実際、尚子の容姿は標準を超えているとは思う。クラスの女子の中でも三本指に入る、って程だ。 そんな感じだから男子生徒の間で人気は高い。しかし、どうも俺にはアイツを「女」として見れない。子供の頃から三人一緒につるんでるせいだからだろう。どうあっても「幼なじみ」「友達」としての感情が先行する。 もっとも、そんな話をクラスの男子にすれば「羨ましい」「贅沢な悩みだ」などの答えがブーイングと共に返ってくる。とゆうか返ってきた。 「そうそう、オレらも本気で思ってねーって。ほ〜ら、尚子ちゃん機嫌直して。怒った顔も可愛いけど、笑ってる方がもっと可愛いぜ」 まるで赤ん坊をあやすかのように貴志が変な顔を作っている。 「ふう、もういいわ。あんたたち相手に本気で怒ろうとした私が馬鹿だった……」 呆れたように手をヒラヒラさせて言う尚子。どうやら殴られずにすんだようだ。俺と貴志は目でお互いの無事を称えあった。 キーン、コーン、カーン、コーン…… と、そこで朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴った。しかしこのチャイムの音とゆうヤツは全国津々浦々同じなのだろうか? そして誰が作ったのか?……まあ、どうでもいいことだが。 ほどなくして担任の 「はーい、みんな席に着いて〜」 そこへ律子先生の声が追い討ちをかける。先生はまだ若く奇麗で、男子生徒に人気があったが、怒らせると恐いことでも有名だ。ただ、あえて「怒られたい」と言うMッ気のある奴もいるとかいないとか……。まあ、俺の友達にはそんな奴はいない。貴志と尚子もその例に漏れず、さっさと席に着き始めた。 俺は元より自分の席で二人に話していたので前を向くだけで良かった。貴志は「ほらほら、どいたどいた」と尚子をどかせて、ようやく自分の席に戻ったようだ。 「さーて、今日も一日勉学に励むとしますか」 席に着いた貴志はそう言って、さっそく寝る準備を始める。 「月曜の朝、言ってみれば週の始まり早々寝るわけ?」 廊下側に自分の席がある尚子は、戻る前に呆れて貴志に言う。 「ま、眠い時は何やっても身につかないもんだし」 両腕を組んで作った枕に頭を乗せ、机に突っ伏したまま頭も上げずに貴志が一応、尚子に答えた。 「はあ、せいぜいイイ夢でも見てちょーだい」 そんな貴志を半眼で一瞥し、ぶっきらぼうに手をヒラヒラさせ言うと、自分の席に戻って行った。 「はい、そこ。宇津井君、寝ちゃだめよ。これから重大なお知らせがあるんだから」 尚子に代わって律子先生の声が、眠りの扉を開こうとした貴志に降りかかる。 「むっ」 ガバッと起き上がる貴志。律子先生に言われたら確かにそうするしかない。とは、言え、その滑稽にも映る素早い動きに、クラスのあちらこちらから笑い声が聞こえてきた。律子先生もフフフと微笑んでいる。 バツが悪そうに頭を掻く貴志。その気恥ずかしさを隠すかのように、 「なんですか〜『お知らせ』ってぇ?」 と、悪戯を咎められた子供の様に、拗ねた感じで口を尖らせて訊いた。 「ん、みんなも席に着いたみたいだし……じゃあ、発表しますね」 クエスチョンマークを抱いたクラス一同の視線が、律子先生に集中する。 「え〜こんな中途半端な時期ですけど、今日からこのクラスに新しいお友達が増えます」 新しく増える? とゆうことは…… 「転校生ですかッ!?」 俺の思考を読み取ったかのように、クラスの誰かが期待混じりの驚きの声を上げた。 正確には「転入生」かも知れないが、この際そんなことはどうでもいい、クラスの男子全員の頭の中ではある共通の事が気になっていたに違いない。 つまり「それは女の子なのか? そして可愛いのか?」である。 「入って来ていいわよ〜」 クラスの男共の期待を知ってか知らずか、律子先生は閉まっているドアの向こうの転校生に呼びかける。 一斉に注がれる期待の視線、それは女子にしても同じだった。一応言っておくが、別にクラスの女子全員が「百合」の趣味の奴とゆう訳ではない。要は男子と反対の事「かっこいい男の子か?」とゆう期待の視線である。 ガラガラ…… そして入って来た転校生は!? 瞬間、女子数名から声が上がる。いわゆる、黄色い悲鳴とゆうやつだ。 (なんだよ〜、男かよ〜) これまたクラスの男子全員の共通意見であろう。 そう、入ってきたのは男であった。しかし、男らしさ滲み出る体育会系でも、クールな二枚目系でも、奇抜なビジュアル系(そんな高校生いないか……?)でもなかった。 なんと言うか、人なつっこそうな美少年系なのである。一瞬、中学生かとも思える容姿だった。クラスの女子にしてみれば、母性本能をくすぐるような系統だろうか? 近くの女子たちが「カワイイ〜」とかボソボソ言い合ってるのが聞こえる。 「フフフ、男子のみんな、残念だったわね〜。女子は、がっつかないのよ〜、いくら可愛い顔してるからってね」 律子先生は、隣まで来た転校生の肩に手を置いて、笑いながら言った。 「浅羅クン、自己紹介して」 クラスのざわめき(ほぼ女子だが)が収まるのを見計らって、件の転校生の顔を覗き込むようにして律子先生が言う。 「はい」 短く返事を返し、転校生はクラス全員を一度見渡してから、正面を見据えて自己紹介を始めた。 「僕の名前は 容姿通りの可愛らしい声で言うと、最後にお辞儀をして簡単な自己紹介を終える転校生。 「よろしく〜」 女子数人からそんな返事が返された。 そんなやりとりにあまりいい顔をしない男子もいたが、俺は別段転校生に対し敵愾心を持っても仕方の無いことと思い、これと言った感情は湧かなかった。 「じゃあ、浅羅クン。え〜と席は…宇津井君の隣に座って頂戴」 俺と貴志の席の左側は窓なので、俺の右後ろに座ることになる転校生。ちなみに俺は前から三番目、貴志は四番目に座っているので、転校生の席の位置は、窓側から二列目の前から四番目ということになる。 それがどうと言うことでもないが、強いて言えばその席の周りは貴志を除いて女子が座っているということだろう。 すぐさま色々な質問攻めに遭うのは目に見えている。 その自分の運命を知らないであろう転校生は、すたすたとその席に向かい歩いて来る。 ま、俺も気の良い奴ぶりでも発揮するつもりで、隣を通る時「よろしくな」の一声でも掛けてやろうと当人が来るのを目で追う。 そして近くまで来た転校生。 「よろしくな」 予定通り声を掛ける俺。 俺の言葉に転校生は、 「タツヤ君………やっと逢えたね……僕の…運命の人……」 と、俺にしか聞こえないような声で、ポツリと言った……。 そのまま脇を通り過ぎる転校生。そして席に着くなり、案の定周りの女子がワッと質問を浴びせ掛けた。隣の貴志は、つまらなそうにそれを見ている。 俺は転校生の言った言葉が今一つ飲み込めず、それらの光景を半ば呆然と眺めていた。 そして、どうにか転校生の言葉を理解した時に、ある一つの閃きが浮かんだ。 (あいつ…もしかして……) それは唐突とも思えるものの、すべてのつじつまが合う閃きだった。 (……ホモ?) |
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| 次回予告 | ||
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多分な誤解を重ねつつ、龍哉の知らない所で運命の歯車は動き出す。 錆付いている感もあるが…… 転校生、浅羅の正体とは? 龍哉を勇者と呼んだ少女の出番は? そして、このシリーズの明日はどっちだ!? 次回、すきもんキューブ第三話『それは無理な話』パクってナンボ! |
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