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「ちわ〜っす」 やたら能天気な声で挨拶しながら貴志が部室内に入っていく。その後を尚子、俺、浅羅の順番で続いて行った。 そこは薄暗かった。窓という窓を暗幕で覆っていたので、まあ当然だ。広さは普通の教室の半分くらい。初めから部室のために造った部屋ではないだろうが、元々何に使おうとしていた部屋なのかは全くもって不明だ。まあ、この学校にはありがちなのでいちいち気にしないことにしている。しかしこの広さを照らす光源が数本立つロウソクの明かりのみなのがツライ。さらにゆらゆら揺らめく炎を見ていると、神秘的と感じるより早く眠気が込み上げてきたりする。 欠伸を噛み殺しながら部室内をもう少し観察しようとしたら、 「まあ、いらっしゃい」 と奥から耳に心地よい女性の声が響く。 「いや〜どうも。約束通り来ちゃいましたよ。迷惑じゃないっスか?」 その声の主に向かって貴志がへこへこ返事をしている。 「いいえ、全然そんなことないですよ」 薄暗い部屋の奥に立って喋っているその女性が、このオカ研の部長なのだろう。 「それより立ち話も何ですから、あっちでゆっくり話しましょう」 そう言って先輩は、畳が敷かれた一画に俺たち四人を招いた。 部員達で持ち込んだのであろう畳は全部で四枚、四畳の広さがあった。促されるままに俺たち四人は上履きを脱いでそこに上がり込む。先輩と向かい合うように座ったため、俺たちは肩がぶつかり合うくらいの窮屈な状態になる。 「なんで畳?」 「あぁ、特に深い理由は無いんですけれど、私どちらかというと日本古来の呪術や霊術に興味を持ってまして、畳を敷いたのはそれの形から入る程度の意味合いですね」 ぽつりと呟いた俺の言葉に先輩は律義に返答してくれた。 こう近づいてまじまじとその顔を見ると、尚子の言った通り奇麗な顔立ちをしている女性だった。その顔に親しげな微笑みを浮かべていて、その口から紡ぎだされる声は耳に心地いい。これじゃあ貴志が惚れるのも解るが、倍率は非常に高そうだ。果たして奴に勝算はあるのだろうか……。 「じゃあ前世占いと言うのもその呪術や霊術の関係ですか?」 物思いに耽ってる俺の横から浅羅が興味深げに訊いた。 「いえ、前世占いに関しましては小さいころから何故か見えるんです。あ、『見える』と言ってもあくまで便宜的な表現ですけどね」 「へぇ」 先輩の答えに感心したように二度三度小さく頷く浅羅。 「私自身不思議なんです。特に何か学んだ訳でもないのに」 「そ〜りゃアレっスよ。神様が授けてくれたチカラなんスよきっと。いや〜先輩は奇麗だし不思議なチカラまで持ってて、天は二物を与えまくりっスね。はっはっは」 後ろ頭を掻きながら笑う貴志。 「フフ、お世辞でも嬉しいですよ」 「お世辞じゃないっスよ。マジですって!」 口元に手を当てて微笑む先輩に必死に詰め寄る。 「はいはい。貴志、そんなことより一応自己紹介したほうがいいんじゃないの?」 そんな貴志の頭を鷲づかみにして引き寄せ、顔を無理矢理自分の方に向けて訊く。 「んぐぁ、ああそうだな」 「あッ、そうですね。まだ皆さんの名前さえも訊いてませんでした。気付かなかったなんて上級生として失格ですね」 「いや、そんなことないですって。コイツらがべらべら喋るからいけないんスよ」 顎で俺たちを指して先輩のフォローをする貴志。でもお前が一番喋ってなかったか…? 「ま〜ったく、コイツらときたらもう少し落ち着きと協調性をもって会話に臨んでもらいたいもんですね。いや、オレも常日頃からそーゆーふうにしろとは言っているんで――ふごッ!」 先輩からは見えない角度で、尚子から脇腹にイイモノを貰って悶絶する貴志。話が外れていくのを食い止めるための英断とみよう。 「宇津井君。どうかしましたか?」 突然脇腹を抑え悶絶し出した貴志の様子を、思いっきりクエスチョンマークを浮かべながらそれでも心配げに気遣う先輩。 「あぁなんでもないんです。気にしないで下さい。それよりも先輩から自己紹介どうぞ〜」 答えられない貴志の横から、尚子が手をパタパタ振りながら話を進めようとする。俺もあえて先輩に一部始終を話す事も無いだろうと思い流す事にした。浅羅も何も言わないところをみると成り行きに任せる事にしたようだ。 「あ、では。私がこのオカルト研究会で部長をやっています、 丁寧にお辞儀をする先輩、俺たちも慌ててそれに習いお辞儀を返す。 「じゃ、今度はこっちの番ですね。え〜っと、貴志はもういいとして…私は貴志と同じクラスの木乃尚子です」 そう言って軽くお辞儀をする尚子。先輩は優しげな笑みでお辞儀を返している。 間を見計らい続いて俺が口を開く。 「えと、同じく貴志と同じクラスの小峰龍哉です」 そういう俺の目をしっかり見て微笑みかえしてくれる先輩。思わずドキっとする。 「同じく二年一組の浅羅汰介です。よろしく」 最後に浅羅が言ってペコリと頭を下げる。 先輩は同じ様に微笑みながら聞いていた。下級生である俺たちを若輩者と決め付けた態度で接することもなく、真摯な姿勢を崩さず接してくれるとは、まさに先輩の鑑と言えよう。 かつて俺も部活を通して先輩と呼ばれる人たちに接した事があるが、ただ数年…いや、下手すりゃ数ヶ月早く生まれだけで得た「先輩」という地位を傘に偉そうに振る舞うその態度に辟易し、生来の面倒臭がり屋の根性も手伝ってさっさと辞めてしまった。 以後何かの部活に入ることはなかったのだが、最初に神凪先輩のような人に出会えていれば多少なりとも今の生活が変わっていたのだろうと思うと、自分の巡り合わせ運の無さに腹が立ってくる。 「ええと、では早速占いましょうね。宇津井君に聞きましたが、何か不可思議な現象に悩まされているとか。なんでも食事もままならないくらいに気に病まれているとか……。そうなる前に相談に来て頂ければよろしかったのに」 貴志の奴、俺たちに言ってた以上に適当なことを吹き込んだな…。まあ協力することにした手前、話しを合わせていかにゃ。 「ええ…まあ……」 「それも三人とも同じ現象に悩まされているとか…。まあ、前世で因縁の深かった者が現世でまた近しい存在になるということは良くあることですから」 「は、はぁ……」 合わせようと努力はしているつもりだが、どうにも曖昧な相づちしか打てない。 「それで、どういった悩みなのでしょうか?」 「えッ」 思いっきり言葉に窮する俺。両脇の尚子と浅羅の様子を目だけで見てみる。尚子は渋い顔、浅羅は苦笑…。いかん、当てになりそうに無い……。しかし悩みなど、んな前世がらみで無くともありゃしない。俺って基本的に楽観主義者なのだろう。 「あッ、えっと…それはちょっと……。あの〜先輩も巻き込んじゃうことになったら申し訳ないんで。前世を占うだけでお願いできませんか?」 と横から尚子のフォロー。顔を苦悩に歪ませ、あたかも本当に悩みがあるかのような演技をしている。素直に、よくやるなと感心せざるをえない。 「え? ええ。もちろん構いませんよ」 「勝手なこと言ってすいません」 「いいえ。皆さんの気持ちも考えず心に踏み込もうとした私の方こそすみませんでした」 尚子の迫真の演技にすっかり騙されている先輩。うぅ心が痛む… 「いや、先輩が謝ることないっスよ。勝手なこと言い出すコイツらの方――ぐほッ!」 再び尚子に食らって悶絶する貴志。まあ同情の余地は無いな。一体誰の為にこんないい先輩に嘘をつく羽目になったか分かっているのだろうか? だいたい事前の情報が少なすぎる。とは言え貴志本人にしても、どうにかまた接触の機会を得ようと思い付く限りに適当なことをでっち上げていったのだろう。だからどうせ先輩にどんな話をしたのか覚えてはいないはずだ。 「まあ、そんな感じなんでお願いします」 もうこれ以上先輩に嘘をついていくのは忍びない。それにいつボロが出るかもわからない。ならば取るべき行動は「さっさと終わらせる」にかぎるだろう。 「はい。では…」 心持ち身を乗り出す俺。 俺的には前世だなんださして信じてはいないが、占いとはどんなものかには若干興味が湧いてきた。ま、こんな機会でもなきゃ永遠にお目にかかることもなかっただろうし…。 既にその模様を知っている貴志はさて置き、尚子と浅羅の二人も俺と似たような様子でいる。 さあ、どういったモノか! 「と言いましても、私の場合これといって何かを使ったり特別なことをしたりするわけではないんですけどね」 指を絡ませるように手の平を合わせ、照れたように微笑んで言う先輩。 それは内心で高まってきたテンションを殺ぐには充分だった。 「あら? 何か期待させてしまったようですね……」 表情に出ていたのか、俺の様子に気付いた先輩が申し分けなさそうに言ってくる。 「い、いや、いいです…気にしないで下さい」 「そうなのだ。神凪先輩は何もせずに相手の前世が判ってしまうのさ。すごいだろ」 貴志がまるで我が事のように自慢気に胸を張って話す。腰に手を当てたりなんかしてるし…。 気が抜けはしたが確かに何もしないで前世を占えるとは凄いと思う。しかし、あくまでそれは当たっていればの話しで、尚子が言ったように確かめようが無いことである以上、結局のところ凄いのかどうか良く分からん……。 「え〜と、じゃあどうやって占うんですか?」 浅羅がツッコむ。うん、確かにそうだ。 「実は、会った瞬間からうっすらとは見えているんです。それから、こうやって正面で向かい合って言葉を交わしていると、徐々にはっきりとしてくるんですよ」 「ってことは道歩くだけでも色んな人の前世がうっすらと見えちゃったりするんですか? なんか大変そうですね」 「いえ、そこは一応ある程度意識を集中して観た相手しか判らないので大丈夫です」 「なるほど。ちゃんと自分の意志で調節できるわけですね」 「最初の頃は見ようと思わないのに勝手に見えたりして、全く調節できずに大変でしたけどね」 「じゃあ、もう私たちの前世って判っちゃってるんですか?」 「大体は」 先輩の返答に興味津々な表情に変わる尚子。 「それでそれで、私の前世って何だったんですか?」 急かすように訊く。なんだかんだ言っても気になるらしい。 「ええ――」 確認するように改めて尚子を見つめる先輩。 「ええと、場所は日本ですね。時代的には明治から大正ぐらいで、都市というよりは田舎の方の診療所で助手のような仕事をしていたみたいです」 「看護婦…ってことでしょうか?」 先輩の言葉を要約したらしく尚子が解り易い言葉に置き換える。 「そうですね。若い女性として見えましたし、そう思ってほぼ間違い無いと思いますよ」 「良かった〜変な前世じゃなくて」 そう言って胸をなで下ろしてから俺の方を見やり、 「どうよ? 白衣の天使よ?」 と肘で突っついて訊いてくる尚子。 「う〜ん意外だなぁ。何はさて置き絶対に男だと思ってたのに」 「なんでよッ」 鋭く言って同じく鋭い肘の一撃が二の腕に炸裂する。 「まさにこうゆうトコロがだよ…」 腕を擦りながら俺。 「ッ……」 俺の言葉に尚子は何かを言おうと口を開きかけたものの、面と向かって反論できなかったのか結局口の中でぶつぶつ言いながら口を尖らせて俺から視線を逸らしていった。 「じゃあ、僕はどうですか?」 俺と尚子のやり取りの間を埋めるように浅羅が先輩に振った。 「ええとですね――」 尚子と同じ様に改めて見つめる先輩。 と、表情が曇る。 「どうかしました? ひょっとして……あまり良くない前世なんですか?」 「あ、いえ。あくまで前世ですので良いとか悪いとか無いのですけど……」 そう前置きして、 「どうやら、とても強い人だったようですね。常に戦いの中に身を置き死と隣り合わせ、剣一本で己の道を切り開く。そんな生活を送っていたようです」 と告げた。 今の浅羅からは全く想像のつかない奴だったようだ。 「侍とかそんな感じですか?」 「いいえ、日本的な感じではないですね。垣間見える建物や風景、戦場の様子から西洋的な雰囲気がしますね。でも私自身があちらの国々に詳しくないので国名まではちょっと判りません」 申し訳なさそうに目を伏せる先輩。 「ただ、何処かの国に仕えるような人――例えば騎士とかではなく、流浪する旅人…そんな感じですね」 「じゃあ時代的にもここ最近って訳じゃないみたいですね」 「そう…だと思いますけど」 浅羅の問いに即座に答えるものの困惑気味な顔の先輩。その言葉もどこか明瞭さに欠ける。 「何か…気になることでもあるんでしょうか?」 そんな先輩の反応に幾分眉をひそめる浅羅。 「ええとですね、いつもは見えた前世の映像とその鮮明さみたいなものから判断して大よその時代まで判るんですけど……浅羅君から見えた前世の映像的にはそうとう古い時代のようですけど、鮮明さからはそれほど昔と言う気がしないんです」 浅羅に説明している先輩だが、俺には今一つ何を言っているのか良く分からん。 ……ま、いいや。俺のことじゃないし。 「と言うことは、割と最近の前世であった訳ですか?」 「ええ、そう感じるんです。それこそ木乃さんより今に近い感じですね」 「そんなに最近ですか…!?」 俺の理解しきれないレベルで先輩と浅羅が話を進めていた。貴志も会話に参加しようと期を狙っているようだったが、どうにも余地が無いようだ。 「私より最近ってことは、下手すると日本だと昭和初期ぐらいかな?」 自然に話に参加した尚子を羨ましそうに貴志が見てる……。 「その時期に剣一本って…無理っぽい気がするけど…」 「確かに映像的には明らかに随分昔ですからね……きっと私の思い違いでしょう」 「そうですよね。そんな剣一本でどうこうできる時代じゃ無いですもんね」 「ですね」 どうやら意見の一致をみたようで、先輩の困惑気味だった表情は最初に見たような軟らかい微笑みを湛えた表情に戻っていた。 「最後に小峰君なんですけど――」 どこか申し訳なさそうに歯切れの悪い言葉で俺と向かい合う位置に姿勢を正す先輩。 「先程から何度も見ようと思っているんですが…」 その言葉を実践するかのように、真摯な瞳で俺を見つめる先輩。う〜む、照れくさい。 「全く見えてこないんです」 照れてる場合ではない様だ。 「え〜と、それは…」 「すみません。なぜなのかは私にも解らないんです。こんなことは初めてなもので……」 どうゆうことか解かりかねた俺に、幾分肩を落とし謝ってくる先輩。 「もしかしてあんた前世が無いんじゃないの?」 からかうように尚子が俺の顔を覗き込む。 「そんなことあるんですか?」 「え〜と。まあ、そんな人もいるかもしれませんね」 確かに前世を突き詰めていけば、どこかで「最初」にぶつかるだろう。で、たまたま今の俺がその「最初」の生ならば、そんなケースもあって然りだろう。とゆう気がする……。 「きっとアレだ。ダニとかノミだったんじゃねーか?」 「んだよ? 前世は見えてんだけど、小さすぎて目に見えないってのか?」 憮然と訊く俺。そうそうと笑いながら答える貴志。失礼な話だ。 「じゃあきっとアメーバーだったんじゃないの?」 「お前らね〜」 完全に面白がってる二人。が、しかし、そういった可能性も無きにしもあらずだろう……。なにも前世が人間であるとゆう保障は何処にも無い。そもそも昔と今じゃ人口の絶対数からして違うので皆が皆、人間だったら数が合わないじゃないか。あぁ、そう思うと俺は本当にアメーバーだったんじゃなかろうか。 いや、まあ全ては「前世」とゆうものが本当にあればとゆう前提だが……。 「いえ、単に私が未熟で見えないだけですよ」 あぁ優しい先輩のフォロー。こんないい人が適当なこと言うはずが無い。もう、在る。前世は在るってことにしなきゃバチが当たるわこりゃ。 「ん〜でも困りましたね」 「何がです?」 「皆さんの前世に共有する点が見当たらないんです」 「は?」 「つまり、これでは今現在悩まれてる問題の解決策の見当が付かないんです」 「あッ、ああ」 いかんいかん。俺たちは悩みの原因を探ってもらいに来てる設定だったな。思いっきり忘れてた。 「前世に起因する類のものでは無いのかもしれません」 それはそうだろう。前世も何も起因も何も悩み自体が嘘だからね……。見当が付かないと言った先輩の言葉は逆に的を射ていたりする。 そんなこと知る由も無い先輩は自分のことのようにどうしたものか悩んでいるようだ。 さすがにこれ以上気を使わせることに躊躇いを覚え隣の尚子に目で切り上げる合図を送る。それを見て俺の考えを悟ったらしく尚子は小さく頷いた。このあたり伊達に長年つるんでる訳ではないことを実感させてくれ、内心嬉しかったりする。 「え〜と、でも前世が関係してないってことが判っただけでも充分ですよ」 「後は俺たちで何とかしますから」 「色々話が聞けて良かったです」 尚子の言葉を継いで俺と浅羅も言葉を紡ぐ。おそらく二人とも俺と同じく謝罪と礼の意を込めていたに違いない。 「そうですか…何の力にもなれずに申し訳有りません」 そう言って頭を下げる先輩にすぐさま反応したのは唯一呑気そうにしていた貴志だった。 「いやいや、先輩のような優しい くどくどと語る貴志。がその体勢は意識的か無意識的にか尚子の脇腹への一撃を警戒して若干引いているように見える。 もっとも今回、尚子は何もしないで流すことにしたようだった。 何故か? まあ本人に訊くまでもなく俺にはその理由がうっすらと判っていた。なんせ俺も同じ気持ちだからだ。 そう、その時の俺たち二人の心は一致していたはずだ「後で存分にシメる」ってことで……。 学校を出て帰宅の途についた俺たち。 「なんか、結局のところ先輩を騙した後味の悪さだけが残ったような気がする」 夕焼けの空を見上げながら俺がポツリと誰にともなく洩らす。 「そうよね、悪いことしちゃったわ」 並んで歩いていた尚子が口を尖らせながら返してきた。 「じいちゃんが言ってたっけなぁ『誠意ある者には誠意で返せ、誠意無き者には適当で返せ』って……先輩に嘘で答えた俺たちって当然誠意のかけらも無かった訳だよなぁ。それってつまり『誠意ある者に適当で返した』って訳だよなぁ。あぁ、じいちゃんの言葉を実践しなかったのか俺は……自己嫌悪だな……」 「気にする事無いわよ。全部誰かさんが悪いんだもん」 ガックリ肩を落とす俺の背中をポムポムと叩きつつ、チラリと後ろを見て尚子が言う。全くその通りだ。 ちなみに俺と尚子の後ろを浅羅が歩いているが、尚子が言う「誰かさん」はもちろんコイツの事じゃない。更にその後ろを歩く(さっきシメて若干ボロボロになった)貴志の事だ。 「んだよ〜。オレを引き立てるって当初の約束通りだろ?」 「ってねー何も適当な事を並べたり、私たちの悪口言って引き立つことないでしょ!」 「いや、そりゃ、あの…」 尚子が左手を腰に当て右の人差し指を貴志に突きつけエライ剣幕で捲くし立てると、口篭りつつどうにか弁解の言葉を探そうとする貴志。 「そうだ。もっと言ってやれ、言ってやれ」 そして俺は尚子を煽りそんな貴志を追い込む。 「大体ねー、いいカッコしたところで結局はバレるモンなのよ。その時、余計にカッコ悪い奴に見えることがなんで解んないのよ」 「自爆だ、自爆」 「素のままの自分を売り込みなさいよ。それを受け止めてくれる器量を持った相手じゃなきゃ結局のところストレスとか溜まってどの道長くは続かないわよ」 「ん、いい事言った」 「偽りで始めた人間関係なんてどうせ最後まで偽りで終わるんじゃないの? そこに真の信頼なんて生まれやしないわ。まして愛なんて論外よ」 「かーっ、こりゃもうメモっとこう」 動きが徐々に芝居掛かっていく尚子に気付きながらも俺は適当な相槌を打ち続ける。貴志といえば完全に気圧されてしまい、芝居掛かっている尚子や俺の相槌などに気付かずあたふたと言われるがままにされている。 「そもそも――」 「わかった、わかった。もう返す言葉もねー」 さすがに耐え切れなくなった貴志が疲れた表情で降参する。その瞬間、尚子の目が光った。今まさに俺は、罠にはまった男の瞬間を目の当たりにしたわけだ。 「そう。じゃ、ケーキを二つ追加で手を打ってあげるわ」 「は?」 「『は?』じゃないわよ。紅茶とチーズケーキおごってくれるんでしょ? 忘れたとは言わさないわよ」 「忘れちゃないけど、なんで追加なんだよ?」 「授業料よ」 腕を組んできっぱりと言い放つ尚子。 「授業料だ」 俺も便乗することにした。 「そうだね。安い物でしょ?」 浅羅も乗ってきた。 「お前らね――」 「さ、い〜ッきましょーッ!」 文句を言いかけた貴志の腕を強引に組んで、尚子が有無を言わさず引きずって行く。空いていた方の腕で小さくガッツポーズを作って……。 |
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| 次回予告 | ||
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ぐっすり眠った少年はビビっていた。 女の権力と都合のストリーム。 全てはやがて自棄となり、真の力を解放させる。 戦いながら待ち続け、あるいは待ち続けながら戦うのか…… よーわからん予告だが、 次回、すきもんキューブ第六話『それは何気に分岐点』ぼちぼち動かな |
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