Story_3 相宇理緒ト云フ者
「さあ、ネタはあがってるんです。さっさと白状しちゃってください」
ばん。と手の平で机を叩いたのは、首から下げた十字架と背中までの茶色がかった黒髪
そして真摯な瞳が印象的な少女だった。
「なあ? もしかして俺って事情聴取されてんのか?」
反射的に口をついて出た言葉だったが、ふと感じることがあった。
(はて…デジャヴ?)
そう思いつつ叩き付けられた手から順に目線を上げていって相手の顔を確認する少年…
とゆうか一。だが思いに反し相手は沙紀ではなく見た事もない女生徒だった。
「むッ、人の話し聞いてなかったんですか?」
「おう」
形の良い眉を若干つり上げ怒ったように聞き返す少女に、沙紀の時と同様に威張って即
答する一。
「ふぅ…」
疲れた心を癒すためではないだろうが、瞠目し首から下げた十字架を両手で握り締めて
溜め息を吐く少女。
「いいですか。この前、一年三組の教室の机やイスがぐちゃぐちゃになっていましたよね
?」
ずい、と真剣な面持ちで少女は顔を近づけると確認するように訊いた。
「あ…あぁ……」
退きながら答える一は、なにか嫌な予感がプレッシャーとなってのしかかってくるのを
感じずにはいられなかった。
「それがあなたの仕業じゃないかって疑いがあるんです」
「なんでそこに俺が出てくんだよ?」
心では「ああ、やっぱりそう来たか」と思いつつ一応おくびにも出さずに対応する。
「あなた、不思議な力があるそうじゃないですか?」
「は?」
「それはズバリ黒魔術ですね?」
「へ?」
「それで、一年三組の教室で悪魔の召喚でもする気だったのでしょう?」
「お?」
「床に妙な傷があったようですからね。大方、召喚用に描いた魔法陣を消した時についた
傷だと思いますが違いますか?」
「んぁ?」
「そんな主に対する冒涜を見逃すわけにはいきません。ですからあなたに会いに、そして
改心させるために来たんです」
「うぃ?」
「さぁ、あなたが犯した過ちを懺悔して下さい」
「おい…」
「大丈夫です、罪を憎んで人を憎まず…主はお心の広い方ですから心配いりません。心か
ら悔いを改めれば、きっとお許しになって下さるに違いありません。生まれ持っての罪人
など、この世に存在しないのですから」
ろくに一が口をはさむ余地もなく、少女は矢継ぎ早にそう言うと十字架を握り締め若干
恍惚とした表情を浮かべながら祈るように天を仰いだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。『ザンゲ』だ『シュ』だってあんた何者だ?」
その隙をついてまた捲くし立てられる前に反論の機会を掴み取ろうと、手の平を突き出
して制止する一。
「えーと…あぁ」
問われた少女は一瞬きょとんとしてから、思い至ったようにぽんと手を打つ。
「これは失礼しました。私は二年三組の相宇理緒(ソウウ リオ)という者です」
幾分落ち着きを取り戻した少女はそう名乗った。が、それは一の意図した質問の答えと
しては若干食い違っていた。
「いや、名前もそうなんだが……あんた一体何やってる人だ? 宗教勧誘ならお断りだぞ」
「オカルト研究会に所属してる者ですが、決して宗教や部活の勧誘ではなく、あなたに人
としてまっとうに歩んでもらいたいと思ってるだけです」
何気に失礼な言い草だが、一は気にする様子も無く腕組をし困った表情で真剣に応じる。
「う〜ん確かに俺は聖人君子には程遠いとは思うが、人としてはそこそこまっとうに生き
てきたと自負してんだけどなぁ…」
「なら、悪魔に魂を売るような行為は止めて下さい」
その言葉に一縷の希望でも見出したのか懇願するようにすがる理緒。
「まぁ俺の魂が如何ほどの値打ちなのか問い合わせてみたい気はするが、悪魔だろうと神
様だろうと誰かに売り払うつもりなど毛頭無いぞ」
苦笑しつつ答えるが、それは紛れも無く本音である。
「では、なぜ悪魔を呼び出そうなどしたんですか?」
「つーかそれが極めて何のことかさっぱりなんだが……。そもそも、んなやり方も知らね
ーし…」
それを聞いた理緒は心持ち落胆したように「主よ…」と呟いて胸の前で十字を切った。
「そうやって虚言でこの場を乗り切り、あなたはいったい何を得ようと言うのですか?」
「いや、だから…」
「隠してもだめです。そういう情報を教えてくれた人がちゃんといるんですから」
理緒の言葉に眉をピクリと上げ敏感に反応する一。
(情報? 教えてくれた? ますますデジャヴか? いや…)
そして若干疲れた感じの吐息を吐いてから、ある種確かな確信を持って理緒にこう訊い
た。
「なぁその情報を提供した奴って、七組の草馬月兎だろ?」
「えッ!?」
目を丸くして驚きの表情を見せる理緒。もはや返答は聞くまでもない。
「人の心を読むなんて、やっぱりあなた何か力を持ってるんですね!?」
口元に手を当て驚愕を隠せずにいる理緒。
一は何も言わず勢い良く席を立つと、その勢いを殺さぬまま七組へとカチ込んで行った
のだった。
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