Story_4 誰ガ為ニ懺悔スル
「どぅぁぁら、草馬ぁ。どうゆうつもりだコンチクショウ。昨日の今日じゃ温厚な俺でも
さすがにキレんぞ!」                              
「って、昨日じゃなくて一昨日だし、その時も怒って来たじゃんかッ」        
 ある程度…と言うより確信犯的に一が来ることを予測していた月兎は、冷静にツッコミ
を入れておく。                                 
「んなこたぁ、どうでもいいッ」                         
「今日は何だよ? まぁ、とりあえずこれ飲んで落ち着けって」           
 来訪の理由は分かっているがあえてそう言って、月兎は校内に設置してある自動販売機
であらかじめ買っておいた緑茶を差し出す。                    
「お? おう、貰っておく」                           
  一瞬怪訝な表情を見せたものの、一はそれを受け取り喉を鳴らしながら飲み干していく。
「ふぅ〜」                                   
 本人は知る由も無いだろうが、まんまと月兎の術中にはまり若干和んでいる。緑茶効果
万歳といった感じだ。                              
「ってお前なぁ、またある事ない事吹き込んだだろ?」               
「誰にさ?」                                  
「そりゃ、この――」                              
 後ろを振り返りそこで初めてさっきの少女を置き去りにして来たことに気付いた。  
「ちょっと待ってろ」                              
 月兎に指を突きつけ念を押すと踵を返して自分のクラスにとって返した。      
                                        
「あッ、どこに行ってたんですか! まだ私の話しは終わってませんよ」       
 教室に戻って来た一を見て、理緒が口を尖らせて抗議する。            
「いいから、ちょっと来い」                           
 そんな抗議に耳を傾けるつもりもなく、月兎のいる七組へ連れて行くため有無を言わさ
ず理緒の手首を掴んで引っ張る一。                        
「あわわわわ」                                 
 よろめきながら引っ張られていく理緒。                     
「な、なんですか。人攫いですか、人身売買ですか、生け贄ですか」         
 引っ張られながら物騒なことを口走っている理緒。げんなりした面持ちだがあえて反論
はせずに七組に連れて行くことを優先する一。もはやこの手の思い込みの激しい奴には何
を言っても無理っぽいと悟ったためだ。                      
「口封じですか? そうですか、そうですよね。やっぱりあなたは悪魔に魂を売った愚か
な人だったんですね。あぁ、主よ今から私はあなたの御許に参ります」        
 なにか自己完結している理緒の言葉に、こめかみの辺りを引くつかせながらじっと耐え
る一。全ては草馬の所に連れて行くまでだと思いつつ。               
「願わくばこの哀れな私にせめて安らかに天へと召せますよう慈悲をおかけください。よ
よよよ…」                                   
「だぁぁッ、んなことしないから黙って俺について来い!」             
 両手で十字架を握り締めながら涙する理緒に堪らず叫ぶ一。            
「あぁ、主よ『黙って俺について来い』だなんてきっと愛の告白に違いありません。私は
いったいどうしたら良いのでしょう、迷える私をお導きください」          
  何をどう勘違いしたのか、頬を染めてうっとりとする理緒。それを横目で見やりながら、
「もう、どうにでもしてくれ…」                         
 と一は嘆息混じりに呟くのだった。                       
                                        
 そしてようやく七組に辿り着く二人。そんな大したことではないのだが、隣の教室であ
る七組がかつて無いほどに遠く感じた一にとっては十分に大儀なことであった。    
「うぉぉぉっし、草馬。口からでまかせを言ったってことを白状してもらおうか」   
「人聞きの悪い。僕は本当のことしか喋ってないぞ」                
 決め付けてかかる一に対し、さも心外そうに月兎が反論する。           
「はッ、じゃあ俺のいったいどこに不思議な力があるってゆうんだよ」        
 包み隠さずと言った感じで両腕を広げ、挑戦的な口調と視線で訊く一。       
「自覚の無いやつだなぁ」                            
 困ったような顔でひとつ苦笑をしてから続ける月兎。               
「いいか、いつだか体育の授業中に『なんか嫌な予感がする』って言ったすぐあとに地震
が起こったことがあったろ?」                          
「……そうだったか?」                             
「ああ。それに全然晴れてる時に『雨降るかも知れないぞ』って言ったその放課後に突然
雨が降ってきたりね」                              
「偶然だろ」                                  
「他にも、後ろから飛んできたボールを見ずに避けたりしたじゃん」         
「それこそ偶然だ。つーかなんでそんな話が悪魔云々に飛躍すんだ?」        
「え? 悪魔!?」                               
 一の問いに月兎が凍り付く。                          
「あなた、一年の時に転校してきたそうですね。その前日にとある事件があったんですけ
ど…」                                     
 その理緒の言葉によって注意がそらされた一は、月兎の様子の変化に気付くことはなか
った。                                     
「事件? 窓ガラスが割られてたやつか?」                    
 一は一年の三学期にこの学校に転校してきたのだ。事件というのはその前日の夜中に起
きたと思われ、北棟の一階の窓ガラスが七枚割られていたというものだった。     
「生徒がやったのかと思って『なんかデンジャーな高校に来ちまったなぁ』とか勘違いし
たのを覚えてるぞ」                               
 結局その事件は酔っ払いのしわざと言うことでまとまっているのだが…       
 「それからです、この前の一年三組のも含めて大小様々に奇妙な事件が起こり始めたのは。
 火の気の無いところで小火が起きたり、廊下の壁に爪の跡のようなものがあったりと…で、
私は前々から悪霊や悪魔の仕業ではないと目を付けていたんです」          
「それらを全部俺がやってるってのか?」                     
「沙紀ちゃんに聞いたところによると、一年三組の件に関しては夜中に学校に来ていたそ
うじゃないですか? 他のに関しても疑うには充分だと思いますけど」        
「ぬ、あんた新部の知り合いか。ってあの女、まだ俺のこと疑ってんのか…」     
「ということで、悪魔を呼び出すような真似はもうやめて下さい」          
「だから、んな方法知らんつーの」                        
 その二人のやり取りを見ながら、また内心冷や汗をたらしている男一人…      
 月兎は理緒から一についていくつか質問されていたのだ。             
 月兎は快く一に語った以上の事例を(若干の脚色を加え)話したのだ。その時ついでに
「一年の時に転校してきたこと」や知りうる限りでの人物像も教えたのである。    
 そして最後にこう訊かれた――「悪魔に魂を売るような人でしょうか」と…     
(奴なら悪魔でも呼び出しかねないね――。あぁあれは冗談だったのに。まさか真に受け
るとは…)                                   
「さあ、懺悔して下さい。そして人の道に戻りましょう」              
「だから、そんなの知らんちゅうに!」                      
(あぁ、すまん穂村。マジすまん穂村。めっさすまん穂村)             
 むしろ懺悔するのは月兎の方であったようだ……。                


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