Story_5 ナシ崩シ的ニ
なんでやねん。
イスに腰掛けるその二人の思いを端的に表現するとこうなっただろうか。ま、関西弁で
あることに特に意味はなかったが……。
一人は穂村一である。先程から腕を組んでは憮然としていた。
もう一人は草馬月兎であった。こちらはどこか諦めの色をその顔に浮かべている。
そしてその二人に机を向かい合わせて沙紀と理緒が話し込んでいた。その際、一と月兎
の二人が表情に顕わにし訴えている想いは気にもしないのか無視しているのか……
事の顛末はこうだった。
本日土曜の授業を終え、帰宅の準備をしていた一のもとに沙紀がやってきて訊いた。
「ねえ、穂村クン。何か部活とかやってる?」
「……いや、やってないぞ」
依然疑われ続けている一は幾分怪訝そうな表情で慎重に答えた。質問の裏に何かの引っ
かけでもあるのでは、と用心してのことだ。これ以上疑いを深められるのは色々鬱陶しい。
「イヤね〜。そんなに構えなくてもいいわよ」
そんな一の態度に気付いて屈託無く笑いかける沙紀。
「そう、せざるを得ない状況にしたのは何処のどいつだよ」
ひとつぼやくと、帰り支度を一時中断し沙紀に正面から向き合う。
「それは疑わしい穂村クンの自業自得でしょ?」
しれっと言ってのける沙紀。
「そう言うと思った…」
溜め息を吐き瞑目する。
「で、俺が部活やってると何か問題でもあんのか?」
「どっちかってゆうと、やってたら問題あったから全然オッケー」
「あ? どうゆうこった?」
「えっとね。ちょっと手伝って欲しいのよ」
「何を?」
「今度、私たち新聞部とオカルト研究会の合同企画で、学校に起きる不思議な現象を解明
しようってのがあるんだけど、それに参加して欲しいの」
「何で俺が?」
「その調査する時間帯が夜になっちゃうのよ。で、穂村クンなら夜の学校はお手のもので
しょ?」
「だから、夜中になんぞ来てないっつーの」
「それならそれで疑いを晴らすチャンスってことで参加決定ね」
「勝手に決め――」
「じゃあ、お昼食べたらミーティングするから新聞部の部室に集合ね」
「って、おい」
「来なきゃ、問答無用で犯人に決定しちゃうからね〜」
一にとって大いに理不尽な捨て台詞を残し去っていく沙紀。なにか完全に相手のペース
にハマっていることに一抹の悔しさを感じつつ、制止しようと伸ばしかけた手を嘆息とと
もに引っ込めた。
時を同じく昇降口にて…
「あ! 草馬さん、待って下さい」
今まさに靴を履き替え帰ろうとしている月兎を理緒が呼び止めた。
「あれ、相宇さん? どうしたんですか?」
それ程面識のある間柄でもないので多少の驚きを覚えつつ、訝しむように訊ねる月兎。
「あの、お話したいことがありまして」
「話、ですか…?」
また一についてだろうか、だとしたら今度は軽率な発言は控えよう。などと思いつつも
首を傾げる。
「少し時間の方いいでしょうか?」
月兎が手に持つ靴に視線を移し、申し分けなさそうに訊く理緒。
「あッ、ええ。大丈夫ですよ」
理緒の視線に気付いて答えると、いそいそと靴入れに靴を戻し聞く姿勢を取る。
「え〜と…で、何です?」
「今度、私たちオカルト研究会と新聞部の方で合同の企画をやることになったんですけど、
少し男の人の手が足りなくて……それで相馬君に手伝って頂きたいんです」
「新聞部ね……なんか沙紀に言われて誘いに来たんじゃ…?」
「ええ。沙紀ちゃんが相馬さんなら頼り甲斐もあるしきっと参加してくれるから、と薦め
てくれたんです。私が余り男子に知り合いがいないのもありますが…きっと主の思し召し
に違いないと思いまして」
首から下げた十字架を両手で握り期待のこもった瞳で見つめる理緒。
(沙紀の奴、自分じゃ簡単に断わられると思って相宇さんを差し向けたな…)
「どうかお願いします」
上目遣いで懇願する。
(こりゃ反則だよ…)
内心そう思いつつ苦笑する。可愛い女の子にそうまでされて断われる男はそういるまい。
「…わかりました。手伝いますよ」
「ありがとう御座います!」
パッと表情を輝かせ深々とお辞儀をする理緒。
「では、今日早速ミーティングをするそうなので、お昼を食べたら新聞部の部室の方まで
来て下さいね」
踵を返すとそう言い残し嬉しそうに小走りで去っていく。その背中を見ながら、月兎は
さして詳しい内容も聞かぬままに返事をしてしまった己の迂闊さに嘆息するのであった。
部屋に入ってからずっと憮然としていた一がおもむろに挙手する。
「なあ、ひとついいか?」
憮然としていても何の効果も無いので諦めることにしたのか、気持ちを前向きに切り替
えることにしたのかは定かではない。あるいはその両方か……。
「はい、穂村クン」
沙紀が議長よろしく指名して続きを促す。
「この企画とやらの参加者って、これで全員なのか?」
「あ、そうだよ。そこんトコは僕も疑問だ」
一の言葉を受けて月兎も若干沙紀の方に身を乗り出し答えを待つ。
「そうね、実際ネタ探しで動くのはこれで全員よ。中核的な働きが出来て嬉しいでしょ?」
とぼけた表情で答えると逆にニッコリと笑顔で問い返す沙紀。
「んなこと希望してないし、かけらも嬉しくないわッ」
「なんだよ。男手が足りないとか聞いて来たのに、そもそも人数が足りないんじゃん」
数瞬の間を置いてそれぞれ不満の声を上げる。
「男手が足りないのは事実よ。だってオカ研には男子部員いないし、うちの男子は基本的
にヒョロメガネ君だし」
「僕や穂村にしたってそんな体格の良い方じゃないんだけど」
謙遜を差し引いたとしても月兎の言っていることは正しかった。確かに二人とも体格的
には標準的と言ったところで、特に武道の経験があるわけでもない。
「それでもうちの男子よりはいくらか頼りになるでしょ?」
眼鏡をきらりと光らせ自尊心をくすぐるような言い方をする沙紀。
「ん、それは自負させてもらおう」
まんまと乗る一。内心ほくそ笑む沙紀。
「なんか…体よく丸め込まれてる気が……」
月兎はそう呟いて苦笑するものの、引き受けてしまった以上は無下に断わることが出来
ない性格であるため、状況に変化はないだろうと理解するのだった。
NEXT Story_6