Story_6 然モ在リナン
「で、不思議な現象を解明って、具体的には何をやるんだ?」           
「ちょっと待った。僕、詳しいことは何も聞いてないんだけど」          
 さっさと話を進めようとする一に月兎が片手で待ったをかける。         
「あ、そっか。リオっちに詳しい話は抜きで呼んできてもらったんだっけ」      
「そういう小細工をするかね…」                         
 ポンと手を打つ沙紀に半眼で苦笑を浮かべる月兎。                
「すいません。騙すようなことをしてしまって…」                 
 そう言って理緒はすまなそうに頭を下げる。                   
「いや別に騙されたと言う程のことじゃないんで、気にしないで下さい」       
 どの道、聞いていたところで断わり切れなかっただろう。理屈ではなくそう言う性分な
ので仕方がない。                                
「さて月兎も快諾してくれたところで、この企画内容と各役割を説明しておくわね」  
  どこか不満そうな面持ちながら黙って流す月兎。が不満そうなのは一人ではないようで、
(『も』って俺は快諾したことになってるのか…?)                
 などと傍らで思案する一。                           
「じゃあ企画内容は私の方から説明しますね」                   
 両手で十字架を握り、一と月兎の双方の顔を見る。                
「『最近校内で起こっている不思議な現象を追う』と言うのが基本的な主旨ですが、ただ
漠然と追うのでは途方に暮れるだけなので、今回は学校の七不思議という観点から調査し
て解明する方向で行こうかと思います」                      
「で、ついでに俺に関して白黒付けようと?」                   
「分かってるじゃない」                             
「まあな。俺もボチボチ毒されてきたってトコか…」                
「ま、それに最悪でも『七不思議』の特集が組めるからね」             
 キラリと眼鏡を光らせて満足げな笑みを浮かべる。                
「どう転んでもオイシイ訳だ…」                         
「そりゃわざわざ夜中に調査するんだもん、無駄足はしたくないじゃない」      
「え、夜中!?」                                
 腰を浮かす月兎。                               
「そうゆうことも聞いてないのか…」                       
  隣で一が内心同情しながら呟く。まあ、だからと言って聞いていたとしても…以下同文。
「で、各自の役割なんだけど」                          
 一切合切お構い無しに話を進める沙紀。                     
「私は当然リーダーで写真撮影もするわね。リオっちは副リーダーで霊感持ってるからそ
れを大いに活用させてもらうとして」                       
 言葉を区切り一と月兎に視線を送ると、                     
「で、あとの二人は……まあ、ヒラね」                      
 当然のごとく言って退けた。                          
「「ヒラぁ?」」                                
 二人の素っ頓狂な声が見事にハモる。                      
「まあザコキャラでもパシリでもいいんだけど…要は雑用係かな」          
 肩をすくめて二人に告げる。                          
「あ、女の子二人だけじゃ心細いから、ボディガード的なこともやってもらうかも」  
「……ま、なんでもいいけどな」                         
「もうこの際ね…」                               
 すでに二人にはとことん扱き使われる映像が思い浮かんでいた。          
「それで七不思議って例えばどんなのがあるのさ?」                
 気を取り直すように疑問をぶつける月兎。                    
「『あの先生はズラっぽい』『あの先生は行き遅れだろう』とかじゃないのか?」   
 頭を掻きながら一が横やりを入れる。そうでもして気を紛らわさなければやってられな
い心境だった。                                 
「いやいやいや、そういうのは『不思議』とは言わないだろ」            
「じゃあ『いくら寝て来てもなぜ授業中眠くなるのか』とかじゃねえの?」      
「いや…まあ不思議っちゃあ不思議だけどさ」                   
「アンタたちねェ、真面目にやんなさいよ」                    
 二人の取り留めのないやり取りに嘆息混じりに割って入る沙紀。          
「ん〜なら結局どんなだ?」                           
「そりゃ定番としては……『トイレの花子さん』ね。女子トイレの入口から三番目のドア
をノックして呼びかければ現われるのよ!」                    
 出現場所に関しては諸説云々あるだろうが、沙紀の言った通り至って一般的な怪談の一
つだろう。                                   
「あの〜沙紀ちゃん…」                             
 意気込む沙紀に対し理緒が遠慮がちに挙手しながら言葉を挟む。          
「ん? 何、リオっち?」                            
「え〜と…うちの学校の女子トイレって……どこも二つしかないけど……」      
 躊躇いつつもその決定的な事実を告げる。                    
「あ…」                                    
「おいッ」                                   
 冷や汗を浮かべ表情を固める沙紀にすかさず一のツッコミが飛ぶ。         
「まあまあ、あくまでも例えだから。他なら『歩く二宮金次郎像』とか…」      
 手をパタパタ振り乾いた笑みを浮かべつつ自分の知る定番を挙げる。        
「この学校にそんな像なんて建ってないよ」                    
「…おいッ」                                  
 半眼でフォローの余地無しと言った感じの月兎の言葉に、眉間の辺りを押さえる仕草を
してから一が再びツッコむ。                           
「じゃあ『さまよう人体模型』……って理科室にそんな物なかったわね」       
 起死回生の一発を思い出し指を突き付けるも、言ってる途中で理科室の絵が脳裏に浮か
び、へなへなと突き付けた指を下ろす。                      
「……」                                    
「ダメじゃん」                                 
 もはや言葉を失った一に変わり月兎が肩をすくめる。               
「ま、まだまだあるわよ。四時四十四分に四階の大鏡の前に立つと中に引き込まれたり」
「で四階に大鏡なんてあるのか?」                        
 少なくとも一は今まで見たことがなかった。                   
「うッ…」                                   
 返答に詰まる沙紀。                              
「あるのか?」                                 
 追求する一。訊くまでもないことは明白だが本人の口から言わせたいようだ。それはケ
ジメを付けさせる為……と言えれば良かったのだが、結局は単なる憂さ晴らしである。 
「え〜無いわよッ、どうせ無いわよッ」                      
 一の意図していることが何と無く判った沙紀は半ヤケで答える。          
 それを見て満足げな表情を浮かべる一。                     
 月兎と理緒はそんなやり取りを一つの思いを胸にしながら苦笑していた。まあ意訳すれ
ば「セコイやっちゃな〜」と言ったとこだ。                    
「うー」                                    
 思い付くネタを言い尽くした沙紀が頭を抱え呻く。                
「ひょとして企画倒れ?」                            
 なんかもう居た堪れない方向に思いが傾いてきた月兎。              
「あ! まだ、あったわ」                            
 勢い良く抱えていた頭を上げる。                        
「夜な夜な体育館でバスケのドリブルする音が聞こえて、でも中を覗くと真っ暗で誰もい
ないのよ。どうやら何年か前に大会前日に交通事故で亡くなったバスケ部員の霊の仕業ら
しいわ」                                    
 得意満面でこれならイケるだろうと疑わない沙紀。                
「まあ、ありがちなパターンだよな」                       
 が、裏腹に一の反応は素っ気無いモノだった。                  
「そうだね。夜の校庭を走る人影があって、でも良く見たらその人影には足が無い。それ
は陸上競技会目前に死んだ陸上部員の霊だった。とかね」              
 一だけではなく月兎も。                            
「あ、そういうのなら私も知ってますよ。夜中に音楽室からピアノの音が聞こえてきて、
そっと中を覗くと、そこには発表会を目の前にして病気で亡くなった女子生徒が悲しそう
に弾く姿が。とかですよね?」                          
 そして理緒もだった。                             
「あーあーあるな、それ」                            
「うん、あるある」                               
 一と月兎が理緒の話に頷き合う。                        
「前にいた学校じゃこんなのもあったな。夜中のプールから水音が聞こえて、見に行って
みると水面に白い人影が立っていた――まあ例によって死んじまって大会に出れなかった
水泳部員なんだけどな」                             
「うちの学校にもそんな話ありませんでした?」                  
 一の話を聞いた理緒は、ふと気になって首を傾げながら月兎に訊いてみる。     
「うん、確かに聞いたことあるよ」                        
 相槌を打ち答える月兎。                            
「なんだろ。バリエーションかね?」                       
「まあ、そんなもんだろ。んな都合良くどこの学校でも同じような死亡沙汰が起きててた
まるかっつーハナシだ。他にもサッカー、野球、テニスにボクシング、剣道、空手なんて
バージョンも聞いたことあるしな」                        
「どれかは実際にあった事なのかも知れませんね」                 
「かもな。噂が広がる内にその学校に於いて一番信憑性の高い部活に置き換えられていっ
たんじゃねえか?」                               
 一の言葉に頷く月兎と理緒。                          
「そうなると、コミケ前日に死んだ漫研部員の霊、とかもありそうだね」       
「あるなそりゃ。大流星群の前日に死んだ天体観測部員の霊なんてのもあったら笑えるだ
ろ」                                      
「どのみち活動時間帯が夜だから気付かれなかったりしてね」            
「そりゃ死にきれねえな」                            
 ハッハッハと陽気な笑い声を上げる二人。                    
「アンタたち、やっぱりふざけてるでしょッ」                   
 バンッと両手を机に叩きつけると、眉間に皺を寄せた顔を近づけ詰め寄る沙紀。   
「んなこと言ったって、そもそも沙紀がろくな情報持ってないからじゃないか」    
 月兎が口を尖らせてポツリと抗議する。                     
「――ガーン。傷ついたわ。深く傷ついた」                    
 数瞬の間の後、おもむろに席を立ち大袈裟に頭を抱える。             
「見てなさいよ! 新聞部部長の名にかけて、この学校のオリジナル七不思議の情報を仕
入れて来てあげるわ」                              
 月兎とついでに一に向かって交互に指を突き付けて言うと、声を大にして部室を後にす
る。                                      
「いや、んな手間をかけるより…」                        
「企画を没にしてくれればいいんだけどなぁ…」                  
 しみじみと顔を見合わせる二人であった。                    


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