Prologue 序
「はッ! たあッ!」                              
 森の中の少し開けた場所でユウは一心不乱に剣を振っていた。村の狩人たちが代々狩り
の場としていることから「狩人の森」と呼ばれるこの森。と同時に子供たちの遊び場とも
なっている森でもある。                             
 彼自身小さい頃に友人と幾度となく「探検」と称しては遊びに入っていた森だったが、
二ヶ月ほど前に久しぶりに足を踏み入れた時、偶然にも街道からさほど離れていない所で
この開けた場所を見つけたのだ。                         
 それ以来時間さえあればこうして剣を振り続けに来ていた。別に剣を振ることが趣味と
言う訳ではないしストレス解消をしている訳でもない。               
 彼としては一応「剣の鍛錬」という目的のためこうしているのだ。ただし独学なので型
も何もあったもんじゃなくそれは自分でも解っていたが「何もしないよりはマシ」と妥協
することにしていた。それでもこの二ヶ月で普段の生活では付かないであろう筋肉が付い
た様ではあった。気のせいかもしれないが……。                  
 いずれにせよやるしかなかった。鍛錬のそのずっと先にある大いなる目的のためには今
は他に手段がないのだ。                             
 とにかく振る、振る。時には素振りで時には周辺の木を敵に見立てて。もっと奥に行け
ば大小さまざまな動物がいるし、或いは魔獣・魔物といった類もいるが、今はまだそのレ
ベルで無いことは解っているので行かないことにしている。なにぶんまだ剣に振り回され
ることもしばしばなので……。                          
「おーい。ユウ!」                               
(……?)                                   
 不意に街道方向の木々の間から呼び声が響く。一瞬、怪訝に思いつつユウは剣を降ろし
 そちらを向くが、すぐに聞き覚えのある声だと気付く。と言うよりは聞き慣れた声だった。
「やっぱ、ここか〜」                              
 声の主は安堵したように言いながら下生えの草や木に足を捕られないように慎重にユウ
のいる開けた所へ近づいて来る。                         
「ど〜した? レンド」                             
 案の定、声の主は隣に住む幼馴染のレンドだった。金髪碧眼で笑顔が似合うナイスガイ
だ。                                      
「なんか親父さんが捜してるぜ」                         
「父ちゃんが? 何だろ……」                          
 眉根を寄せつつ空を仰ぎ思い当たる節を探してみる。朝方に家を出る時は特に何か用事
があるような事は言っていなかった筈だが。                    
「ひょっとして……計画がバレたか?」                      
 ユウの目的を知る者はレンドともう一人の友人だけで、他の友人知人はもとより親にも
話してはいなかった。                              
「いや、そういった素振りは無かったと思うぞ」                  
 頼まれた時のことを思い出しながら自分で思った印象を伝えるレンド。       
「あれこれ詮索しても埒があかないか……。んじゃちょっと帰ってみるわ」      
 そう言って剣を鞘に収めると、木の根元に置いてあったバッグからタオルと水筒を取り
出し、適当に汗を拭いながら水筒の中身をグビグビと飲み干す。           
 一息ついてからバッグにそれらを突っ込んでさっさと背負う。           
「さて、俺もこんな所に用は無いんで一緒に行こう」                
 帰り支度が出来たと見てレンドが声をかける。                  
「おし、行こう」                                
 そうして二人は森を後にするのであった。                    

                                 NEXT Story_1