第16話『生ぬる〜い』
「もう、終わりにしよう」
「どうして、慎一さん!」
静かだが決意のこもった慎一の言葉に、袖を掴んでヒステリックに女が叫ぶ。
「ごめん、順子。君への愛はもう僕の中には無いんだ。これ以上、馴れ合いのようなぬるい関係を続けてちゃ、お互いのためにならない。だから……」
慎一は順子の肩にそっと手を置き、やさしく諭すように告げた。
「僕のことは忘れてくれ!! さよなら!」
そう言って慎一は、順子の手を振りほどくと部屋を飛び出して行った。
ってなコトがあったりしたが、おおむねこの男には関係ないようだ。大将である。
吹雪き舞う山を歩き続けた末、ようやくタロット山荘を見つけた彼であった。
そして今、チケットでとった部屋でくつろごうと、缶コーヒーを買っていた。好きだから、と言うよりは新しいのが出ていたから買ったのだ。二階の部屋に行く途中、それを開け一口飲んだ。
「うわっ、ぬるっ! わしゃ『あったか〜い』を買ったんや、ちゅーねん。なのにこれじゃ『なまぬる〜い』やないかい!!」
缶コーヒー相手に一人でツッコむ大将。「ツッコミ禁断症状」の予防である。
「ま、えーわ。所詮、缶コーヒー。とやかく言う気もない」
ってなコトが起きてはいたが、とりあえず順子には関係なかった。
「慎一さんがいないぐらいなら、死んだ方がマシよ! いえ、それじゃ手ぬるいわ…………一緒にあの世に行きましょう、慎一さん」
順子は果物ナイフを手に取ると、いましがた慎一が出て行ったドアを開け、廊下に出た。
そこに慎一の姿はなかった、しかし廊下の一方は上に行く階段。もう一方は少し行くと突き当たって右に曲がっていた。おそらく慎一は曲がって行ったのだろう。慎一を追うため順子が走る。
ってなエライことになっていたが、やはり大将には関係なかった。
……いや、そうでもない。この腹に刺さってるナイフはなんだ?
「わ、私、私なんてことを……」
順子が、出会い頭にナイフを刺してしまったのだ。
「ぐ、ぐふっ。な、なんでやねん」
苦しそうに大将がうずくまる。手から缶コーヒーが落ちた。
「な、なんで刺されなあかんねん。こ、こんな所で、つ、ついてへん…………でも、切れてな〜い」
突然、すっと立ち上がり親指を立ててみせる大将。その行動に呆然とする順子。
「だめですよ、おぜうさん。こんな物騒なモノ持ちながら走っちゃ」
「だ、大丈夫なんですか? 傷は?」
「はっはっは、当然ありませんよ。驚きましたか、なんせ僕は手品師ですから。じゃ」
笑いながら大将は去って行く。その後ろ姿を見ながら、順子には疑問が残った。
じゃあ、このナイフと手に着いている真っ赤な液体はなんだろう。そして、彼のお腹の辺りから流れ出ている同じ様な赤いモノはなんだろう。と……
次回予告:急いで学校に行く途中、曲がり角で出会い頭に衝突。
ときめく胸、これって恋のよ・か・ん。
次回『えっ? それってB級ちゃう?』にファイオー、ファイオー、ファイオー。
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