其ノ一・『奇跡!? 湿地の島に眠る黄金孔雀』


 山脈に囲まれた島が見える。水平線から覗く山頂から灯台の光が送られてきた。船体は、その光へ向かって海を疾る。
 『ビト』と書かれたその船は、ベンズ国本土とジティー島を結ぶ唯一の交通手段であり、交信手段である。その数は、日に二本と少ないが、ジティー島では僅かながら金が採れるため、ベンズ国にとっては重要なパイプラインと云える。
「ホンダ君、島が見えてきたよ」
 肩のあたりまで伸びた黒髪を風になびかせながら、可愛らしい少女が、隣で眠っていた少年を揺さぶった。少年の方は、ホンダという名前らしい。少し長めの(やはり黒い)髪ごと頭を掻きながら、大儀そうに一つ欠伸をした。窓からの風は、やや冷たく感じる。
「ニーサ……俺は低血圧だって、忘れたのか……?」
「なーに言ってんのよう! 昼間っから寝てばかりじゃないの! だいたい、『島が見えたら起こせ』って自分で言ったクセにっ!!」
「……忘れた」
 施す手無し、とニーサが立ち上がると、デッキの方から声がした。
「寝かせとけ。ついでに持ち帰ってもらおう」
 冗談にしてはキツい口調で、金髪の男がドアを開け、船室に入ってきた。腰の鞘には豪華な宝飾が施してある。
「トウタ君……」
「トウタ、てめェ何が言いてーんだっ!?」
「チームワークを乱す奴なら、おらぬ方がいい」
「いつ、俺がそんなモン乱したってんだよ!?」
 低血圧は、嘘のようである。
「頼んだ事を忘れるなど、猿の大将も勤まらん」
「そんな大袈裟な……」
 ニーサもこの二人の仲が悪いのは知っているが、いつまでも進歩しない両者の態度には、ほとほと呆れ返っていた。しかしそれと同時に、究極の『水と油』とも云える二人がいつまでも別れることなく一緒に旅を続けている事に疑問を持っていた。
「トウタ、表ェ出ろ!」
「フン、斬りきざんで海に撒いてやる」
 もうここまで来たら、勝手にケンカさせておいて、二人とも原因を忘れた頃に止めるしかない。ニーサは二人が出て行ったのを見て、溜め息を吐いた。デッキの方で激しい金属音が鳴り響いている。
「朝まで寝よ」
 する事がなくなったニーサは、床に就いた。
 そして、夜が更ける。

 ジティー島は季節感に乏しい。前述の通り、島全体を山脈で囲まれている為、海面を走ってくる湿った風が、山の斜面を昇り、雲を作る。よって、割と低い所に雲ができることになる。そのために、雲、つまり水蒸気は気体でいられなくなってしまい、大雨を降らせる(所謂スコールというやつだ)。もう理解ってもらえただろう。そう、ジティー島は、それ全体が一つの大きな湿地帯なのである。
「なるほどね」
 こらこら、登場人物がナレーションを読むんじゃない。
 そんな訳で、ジティー島に着いた三人は、早速島の唯一の町、ジティーへと向かった。そんなに大きな島ではないので、町の方もそう大きくはない。若干の金が埋まっているとはいえ、それは国の所有物ゆえ、掘ることはできない。出は何故、彼らはこんな所へやってきたのだろうか。
 その理由は、この島にまつわる或る『伝説』にある。
「これが、ジティー島の地図だ」
 宿のロビーで、作戦会議を始める三人。
「この島のどこかに、伝説の『黄金の孔雀』が眠っているハズだ」
「ふうん……『雨の島に眠りし黄金の孔雀目覚めし時、紅の龍降り立ち、古蘇えりたる』って、そういうコトなのね」
「その『紅の龍』が『龍皇』だと……?」
 トウタがホンダの方を見る。
「間違いない。今度こそ、俺たちの願いが叶うんだ!」
 どういう事か、説明せねばなるまい。
 彼等は、所謂『トレジャーハンター』と呼ばれる者たちなのだ。古い遺跡などを探索し、そこに眠る宝などを手に入れるのが仕事である。
 ある日、彼等は一つの『伝説』を見つけた。
『森羅万象を司る龍王を目覚めさせし者、望みたる願い、叶うであろう』――――という一文である。
「で、これからどうするか……だ」
「これによると、北に洞窟らしいモノがあるな」
「今は通行止めになってるようだけど……」
 ニーサはもう一度、地図を見た。
「……やっぱり……その洞窟って、例の金山よ。これじゃあ簡単には入れないわよ」
 そこで、トウタが腕を組んだ。
「そこにあるなら、すでに発見ってるハズだ」
「でも、他に目立つ所は無いぜ。見つからない理由があるんだろうよ。何しろ、大昔の伝説だからな。一つ二つ仕掛けてあったっておかしくない」
 ホンダがにやっと笑う。自信を含んだ笑いだ。
「久し振りに、ホネのある仕事にぶつかったぜ」

「気をつけてね」
「お前一人で大丈夫か? ヤバくなったら逃げてこいよ」
「フン、貴様とは違う」
 トウタは最後に憎まれ口を叩いて、二人と別れた。
 今回の作戦は先ず、一人が金鉱に乗り込み、様子をうかがうことから始めることになった。そのスパイ役とも云えるキャストを買って出たのが、トウタである。
 鉱夫たちのユニフォームを着て、北の鉱山へ向かう。基本的に道なりなので、まず迷うことは無い。彼の場合も、三十分程度で着くことができた。
 中に入るのも、簡単なボディチェックだけで、すんなりと入れてしまったので、トウタは少し拍子抜けした。
(この様子じゃあ、やっぱり奴等はまだ孔雀を見つけてないようだな……。ホンダの言った通り、何か仕掛けでもあるのか?)
 鉱山の地下奥深くまで下りてゆく。その間も、右や左、天井や床をていねいに睨む。しかし、めぼしい光景はない。
 そして遂に最下層までやってきた。
(ここにも……何もなさそうだな……。あるのは、金だけか……)
 トウタは、押してきたトロッコに金を積んで汗を拭った。そして天井を見上げた。そこで彼の姿勢は止まった。
(こいつは……ひょっとして……)
 そこで彼は後頭部に衝撃を受け、倒れた。その刹那、彼は確かに声を聞いた。
「このネズミめ……おい、コイツを外へ放り出せ!!」

 ジティーの町のバーに、二人は居た。
「うん、黄金孔雀の話なら、聞いたことあるよ」
 バニー姿のウェイトレスが笑顔で答えた。ホンダはもう一度聞き直した。
「ホント?」
「うん。おばあちゃんに、昔教えてもらったわ。この島の金は黄金の孔雀さまが産んでくださるって」
「――金を産む孔雀……か」
 ニーサが訊く。
「北の金鉱の金も、その孔雀が産んでるの?」
「おばあちゃんが言うには、北の金鉱にその孔雀がいるってコトだから、そうじゃないかしら。ただの言い伝えかもね」
 二人は顔を見合わせ、微笑んだ。
「やっぱりな」
「そろそろトウタ君が帰ってくる頃だから、何かまた分かるかもしれないね」
 ところが、いつまで待ってもトウタは来ない。当然である。彼はその頃、鉱山の外で気絶していたのだから。
「うう……」
 頭をおさえてトウタが立ち上がる。辺りは、もう暗い。
「ここは……どこだ?」
 周囲を見まわすが、どうも釈然としない。
「俺は……ん? 俺は……俺は何をしていたんだ……? いや、その前に俺は誰だ? まいったな……何もわからん」
 冷静だ。
「仕方ない、この辺りをウロウロすることにしよう」

「仕方ない、その辺りをウロウロしてるんだろ。行こう」
 ホンダはニーサに言った。
「うん……でも、何があったのかしら……」
 それは上を読んでくれれば分かる。
 さて、町を出た二人は、鉱山へ向かってはみたものの……。
「こりゃ入れないな」
 入口の所に兵士の姿があり、手には鉱夫のリストを持っている。鉱山に入ってゆく人間は一人一人、徹底的にチェックをして、リストと照らし合わせているようだ。その理由は……言わずもがな、である。
「これじゃあトウタも入れなかっただろうなぁ」
「ホンダ君、入って見つかったのかもしれないよ。だから、あんな厳重なチェックが入ってる……なんて……ねぇ……」
 声がフェードアウトしている。
「トウタに限ってそんな事は…………考えられるな」
 ニーサが巨大な木づち(どこに隠してたのか)でホンダを殴った。
「縁起でもないコト言わないでよぅ!」
「なにしやがる!! てめぇが先に言ったんやなかとですか!?」
 語尾に少々ダメージが見られる。
「そんなコト、そんなコトないわ……トウタ君……うっ……ひっく……」
「バカ泣くなよ。さすがに死んじゃあいないだろ」
「だぁっでぇぇぇ〜〜〜〜」
 涙と鼻水でグシャグシャになっている。ホンダは少し距離をおいて、ニーサをなだめた。
「わーったよ、俺にまかせとけ。ちょっくら見てくるから。お前、そのへんにいろ。恐かったら、町に帰っててもいいぞ」
 鼻をすすって、ニーサはまた涙ぐんだ。
「いやぁ〜〜っ一人じゃざびじぃ〜〜っ……」
「どないやねん!!」
「わだじもいぐぅ〜〜っ」
「泣くなっっ!!」

 ぐご〜ごご〜ぐお〜すやすや……すぴ〜
「睡眠薬入りの煙幕だ。洞窟の中じゃ、煙で攻めるのが一番効くからな」
「へぇ……でも、私たちはどうするの?」
「これを着けておけば大丈夫」
 と言って、ニーサに緑色のマフラーを手渡した。若葉のよい香りがする。解毒効果のある植物のエキスに漬けた毛糸で編んだという(ややこしい)解毒マフラーである(そのまんまやないかい!)。
 鼻と口をマフラーで覆いながら、二人は鉱内を奥へ奥へと進んでいった。途中、何人もの鉱夫たちが横たわっていたが、やはり煙が効いているようで、起きてくる気配は全くない。
「最下層だ」
 そこはホールのようになっていて、下には金の塊が幾つも落ちている。
「金て、壁とかから掘り出したりするんじゃないの? こんなふうにコロコロ転がっているモノじゃないでしょ?」
 そういえば、妙である。今までは、通路のためだけに掘られたように細く狭い穴であったのに、ここだけは広くなっている。それに、辺りで倒れている者たちの中で、採掘の為に必要なハズの、つるはしやスコップを手にしている者が皆無だ。
「ここの金は……掘り出された物じゃあないって事か……」
 そのとき、
 ヒューーーーーーー
「ん?」
 ホンダが音に気付いて上を向いた。
 ガゴンッ!!
「ぎゃッ!」
「ホンダ君!」
「いッてェ〜……何だよ、一体……? ……ん?」
 天井に、何か見つけたようだ。
「あの穴……?」
 そこには、頭二つ分くらいの穴があった。
「ホンダ君、今降ってきたの、金塊よ……ここにある金はあの穴から落ちてきたものなのよ!」
「じゃあ、あの穴のむこうに、黄金の孔雀が……??」
 トントン拍子に話が進む。
「よし、上にあがってみよう」

「う〜ん……また戻ってきてしまったな……」
 トウタは、鉱山を見上げて呟いた。
「しかし、何か様子が変だな。ちょっと行ってみるか」
 煙の方はすでに失せていたが、兵士や鉱夫たちはまだ眠ったままだ。トウタは再び(というのを彼は忘れているが)鉱山へ足を踏み入れた。

 ロープで天井の穴まで上ると、そこには闇があった。
「ニーサ、火だ」
 ホンダが小声で言ったのに対し、ニーサは実行で答える。チッチッと数回音が鳴り、やがて松明ができあがった。その光は、二人に驚くべき光景を映しだした。
「ギィッ!?」
「人間が何故ここにッ!?」
 そこには、二匹の亜人間らしきものがいた。
「ガーゴイル!!」
 ニーサが叫ぶ。それは、古の悪魔の名であった。
「見られたからには、生かして帰す訳には生かして……」
「ザニー、戻ってるギャッ!」
「わ、わかってるギャ、マヂ! ほ、ほんのボケだギャ! ……ええっと、とにかく、殺すギャッ!」
 どうやら頭の方は非力なようだ。
「あ……黄金の孔雀……!!」
 そういえば、二匹のガーゴイルの後ろに、なにやら鎖で封ぜられている孔雀がいる。いや、孔雀というより――――
「そーか、コイツが……でも、孔雀ってこんなに小さかったっけ? それにこの形……」 「コケーー!!」
 二人は、目が点になった。
「何を言っとるのだギャ! これは、金の涙を流すニワトリだギャ!」
「コケコッコー!!」
「こいつを苛めて、金の涙を流させていたのだギャ。『悪魔の力』をたっぷりとため込んで……」
 ガーゴイル『ザニーとマヂ』はニヤリと笑った。
「伝説が、どこかで狂っちまってたみたいだな……。これじゃあ『紅の龍』だって怪しいぜ」
 ニワトリを睨めつけて、ホンダが言った。今回のヤマは九分九厘ハズレであろうことを彼は悟った。
「そろそろコイツも用済みだギャ! まだ金は出るが、もう十分『悪魔の力』は人間界にゆきわたったハズだからな……だギャ」
 金色のニワトリに向けて、ザニーがヤリを突きたてた。
「このニワトリの命が惜しかったら、手を上げて、降参するギャ!!」
 人質作戦とは、なかなか古風である。しかし、ホンダは全く動じない。ニーサの方は、あわてふためいている様子だが……。
「何をしているギャ! 早くしないと、コイツの命は……」
「勝手にしろ。そんなカチクに用は無ェ」
「へ――――――?!!」
 今度は二匹の方の目が点になる。
「どーやら、おカド違いだったみたいだ。来てソンしたぜ」
「こ、こいつ……。仕方ないギャ、とりあえず、このニワトリは始末するギャ! やるギャ、マヂ!」
 マヂがヤリを振り下ろそうとした刹那――
「待って! その子に罪は無いハズよっ!」
 ニーサであった。
(バカ……! 敵に弱みを見せやがって……!!)
「そうかそうか、やはりコイツが惜しくなったか」
 ザニーが満足そうに笑う。『作戦成功』に酔っているようだ。
「人間という生き物の欲の深さには、本当に恐れ入るギャ……。こんなキラキラして気分の悪い物に、何故こんなに執着するのギャ……?」
「ねぇ、お願いホンダ君。あのニワトリさんを見殺しにはできない」
「そんな事言ったって、今降参したら俺たちの方が殺されちまう!」
 小声で諭す。しかし、ニーサも退かない。
「だって……やっぱり……私……。お願い……」
「うっ……」
 人間の本能として『うるうる瞳』と、面と向かっての『美少女の“お願い”』には弱い、というものがある(本当か?)。今の彼が、いい例だ。
「なーにラブコメしとるギャーッ!! とっとと来るギャ」
 もてないのであろう。その気持ちは解る。
「ザニー、あいつらから来ないのなら、こっちから行けばいいギャ。ニワトリは俺が見てるギャ」
「それはグッドアイデアだギャ! ……お前たち、さあ降参しろギャ」
 大袈裟な褒め言葉を残し、ザニーはゆっくりと二人の方へ歩み寄ってゆく。ヤリを突いて構え、目は二人を捕らえている。
「ん……?」
 チラッと下を見たホンダは、ロープを上がってくる人影を見つけた。
(トウタ……!)
 トウタの腰の鞘が揺れている。そこでホンダは、ガーゴイルの言葉を思い出した。
『……こんなキラキラして気分の悪い物に、何故こんなに執着するのギャ?』
「トウタ君!」
 ニーサがようやく気付いた。
「誰だ? お前たちは?」
「頭をやられたみたいだな、トウタ」
 下も見ずに、ホンダが言った。勿論、ガーゴイルたちに気付かれないように……。
「治してやるから、ちょっとその剣借してみろ」
「記憶が戻るなら、喜んで貸させてもらおう」
 トウタは、剣を“鞘ごと”穴の中へ放り込んだ。
「よし、これで……」
「おい、早く記憶を戻してくれ」
 トウタが叫ぶ。ホンダは下に落ちている金塊の中で手ごろな大きさのものを手に取り、言った。
「下を見ろ!」
「下を?」
 その瞬間、トウタの頭上に金塊が命中し、彼はロープの途中から真っさかさまに落ちていった。……合掌。
「トウタ君!! ホンダ君、なんてことを……!?」
「ニーサ……! 火を消せ!」
「――えっ?」
「いいから、早く! いちいち聞き返すな!!」
 言われるままに、ニーサは松明を床に擦りつけて、火を消した。すると辺りは闇である。当然だ。
「むっ!? 見えなくなったギャ!!」
「ザニー、自分で火を吐くのだギャ!」
「そうか、よしっ!」
 ボウッと床に一塊の火が落ち、光が闇に染み込むように広がってゆく。
 その瞬間、目の前が、まばゆい光を放ちながらキラキラ輝きだした。
「なっ、なんだギャッ! ぐうッ!?」
 咄嗟の事で、目を塞いだのだが、それがザニーの命を短くした。
「ギャッッ!!!」
 剣が一閃し、ザニーは断末魔のおたけびを上げ、真っ二つになった。再び火は消え、闇が訪れた。
「ザニー! ちくしょう、人間め……よくも……!!」
 そう言うと、マヂも火を吐き、光を生んだ。しかし――
「ギャアッ!!」
 ザニーを襲ったのと同じ輝きがマヂを包む。そのコンマ数秒後、彼の体もまた床に伏せた。
 再び松明をつけたニーサが、奥の方から歩いて来る人影を見つけて叫んだ。
「ホンダ君!」
「ほらよ、黄金のニワトリだ。ったく、コイツのせいでとんだ目に遭ったぜ」
「どうやって、ガーゴイルを……?」
 そこでニヤリと笑い、ホンダはトウタの剣の『鞘』を見せた。いくつもの宝石で飾られた、トウタ自慢の鞘である。
「奴らの構えを見たとき、普通にやったんじゃ勝てないってわかった。だから、一瞬でも奴らの動きを止める必要があったのさ」
「それを、その鞘で……?」
「ああ。ガーゴイルが金を見て『こんなキラキラして気分の悪い……』とか言ってたろ?それなら、そういうものに弱いんじゃないかって思ったんだよ」
 ホンダは鞘を松明に照らしてキラキラと光らせてみせた。
「そっかぁー……さすがホンダ君ね、頼りになるよ」
「まぁな。それより、長居は無用だぜ。ここに、もう用は無ェ」
 そのとき、ニーサがホンダの腕を掴んで寄り添ってきた。
「まだ……もう少し……ここにいて……」
「ニーサ……」
 ラブラブ街道まっしぐらになる直前、なにやら洞窟内が揺れだした。実に絶妙なタイミングである。
「もーっ! どーしてこんな時に!?」
「そんな事言ってる場合かっ! 早く来い!脱出するぞ!」
 途中で倒れている鉱夫やトウタを引きずり、ニワトリを抱いたニーサを背負いながら、ホンダは全速力で鉱山を出た。まさに、火事場の馬鹿力である。
 やがて、火山が噴火した。あちこちでマグマが飛び散る。ニーサがはっとして、ホンダに耳打ちした。
「『紅の龍』って、コレの事じゃ……??」
「………………………………終わった……」

 次の日、ニワトリを持ち帰った三人は、島の英雄となっていた。
「ニワトリさん、元気でね。かわいがってもらうのよぅっ!」
「いいのですか? こんな宝を……」
「宝じゃねぇよ、生き物だ。それに、俺たちはそんなモンに興味は無ェ。でも、ムリヤリ泣かしたりするなよ」
 島の代表はニワトリを抱えたまま、頷く。そして、隣に控えていた者が、腕輪のようなものを差し出した。
「あのあと、噴火と共に飛んできたものです。古の宝の一部でしょう……どうか、お持ち下さい」
 ニーサは、その腕輪を手に取った。すると、なにやら不思議な感覚が体を走る。無意識のうちに、彼女はそれを身につけていた。
(これは……)
 何か確信めいたモノが、彼女の中にあった。
 やがて、雨が降り出した。それは、長い間眠りを続けた『湿地の島の伝説』の終結を唄うようにも思えた……。

「鉱山まで行って、一番奥の部屋で倒れたトコまでは覚えているんだがなぁ〜〜……」
 トウタは記憶を無くした頃のコトを全く覚えていなかった。
「ま、いいじゃんか。今回、お前は大活躍だったんだから」
「そうね。トウタ君のおかげで、ガーゴイルも倒せたし『黄金の孔雀』さんも助かったんだもんね」
「『黄金の孔雀』も『紅の龍』も、トウタのおかげで見られたようなモンだからな」
「そうそう、ベンズ国で採った金が、もうあらかた回収し終えたのも、トウタ君のおかげ」
 釈然としないトウタ。
「俺のおかげの割には、何も覚えがない」
 と言って、首をひねる。
「ところで、『黄金の孔雀』と『紅の龍』は、どんな奴だったんだ? さぞかし、気高い生き物であったのだろうな」
 その言葉に、二人は顔を見合わせ大笑いした。

―終―