寅之助行方不明事件

朝６時頃庭のフェンスの破けたところから脱走した。
気づいたのは７時すぎ。
すぐに近所を走り回って探すが見つからない。
９時になったので、一旦家に戻り、松戸、市川、船橋、柏、三郷の行政機関全てと東葛動物愛護センターと、犬の訓練所、近隣のペットショップや犬カフェ、動物病院などに連絡をした。

寅之助は首輪はつけておらず、いつもチェーンチョーカーをつけて散歩していた。
だから、鑑札がついてない。
「鑑札がついてないんじゃ厳しいね」
と機関の人に言われてしまった。
登録してあっても、鑑札を本人がつけてなければ厳しいんだそうだ。
見つかっても、本人確認ができないから下手したら処分されてしまうそう。
いなくなるような子じゃないと思っていた自分を責めた。
何があるかわからないんだから、ちゃんと鑑札はつけておかなきゃいけなかったのに。
彼は自分で名前をいえないんだから、わたしがちゃんとしてあげなきゃいけなかったのに。

毎日探した。
でも見つからない。
噛まれた報告も見かけた報告もないらしいし、かなり広範囲探したけどひかれた犬もいなかった。
殺処分される犬が保管されている施設も見に行った。
数日後には処分される子達が１０数頭いた。
そこに寅はいなかったけれど、何だかやるせない気持ちになった。

ああ不安だ。
寅 帰って来ない。

お腹空いてるんじゃないか。
寒いんじゃないか。
怖い思いしてるんじゃないか。

どうか生きていて欲しい…。
そして、誰かを傷つけていませんように…。

天国のチャーにもお願いした。

いなくなって４日経った。
保護されてるといいけど、役所関係から訓練所・ペットショップなど確認してまわったけど神隠しにあった様に情報ゼロ。
引続き探しているけどもう探し尽くした。
もし生きててくれるならお腹空いてないか怪我してないか心配。
パニくって何かを傷つけてないか心配。
遠くまで行って帰れなくなったとしか考えられん。
基本的に自力で帰って来れる犬だ。

あいつはマヌケだけどバカじゃない。

５日経つ。
いなくなった犬は１週間以内に見つからなければ希望はないといわれている。
早く見つけなければ。

午前11時頃、連絡しておいた訓練所から昨夜似た犬を見かけたと電話があった！

すぐに確認に向かった。
しかし別人でした… がくーん。

夕方４時。
連絡しておいた柏保健所から秋田犬を保護してると電話が！

特徴聞いたら寅そっくり！
野田にある会社で保護されているそうだ。
急いでその会社に電話をする。

「秋田に似てるんですよ。でも小さめなの。」
「首の後ろに白い毛が生えてます。」
「眉間に傷があります。」

絶対に寅だ！

急いで向かう準備をする。
本人でありますように！

だけど野田て！40kmは離れてるよ〜！

車で走ること１時間半。
こんなに遠いの？と思いながら、ほんとに寅だろうか？こんな遠い距離を？と思いながらひたすら運転した。

やっと着いて確認すると、実に、本人でした！

小さな印刷会社さんで保護されていたのですが、とても犬好き方々だったようで、きれいにシャンプーされ、ブラッシングされ、毛布と犬用ミルクにドッグフードまで与えてくれ、ガムも与えてくれていました。

本当に、この時ほど人の優しさに感謝したことはありませんでした。

それまで、ぼーっと寝そべっていたのが、「寅さん！」と私が入って声をかけたら、飛び起きて股の間に顔をうずめ、ぴすぴす言ってました。
全く心配かけやがって。
車が大嫌いで乗りもしなかったのに、助手席のドアを開けた瞬間匂いを嗅いだと思ったら、飛び乗りました。

彼は、泥だらけのびしょぬれで、その会社の建物と隣の建物の間で震えていたんだそうです。
彼がいなくなってから４日ずっと雨が降っていたから。
10月も終わりの冷たい雨。
どんなに心細く辛かったことでしょう。

我が家から保護された会社までは、異常な程の交通量の国道６号と国道16号を越え、柏インターも越え、、、想像を絶する危険な道のりです。
普通に、近道をして走って、車で１時間15分（混んでなくて）、距離にして40ｋｍ程離れたところ、想像を絶する距離です。

彼の５日間の冒険はどんな冒険だったのでしょう？

帰ってきたその日は体裁悪そうにしていましたが、翌日にはいつもの寅に戻っていました。

あれから、彼はドッグランなどに行って放しても、わたしが確認できるところまでしか行かなくなりました。
１分に一度くらいのペースで何度もわたしたちの姿を振り返って確認します。
今も元気です。
一緒に暮らす慎之介（ゴールデン）の子守を頑張ってくれています。
秋田犬なのに、とてもとても控えめでやさしい子になりました。
飼い主の私は、チェーンチョーカーを彼らの首に常にかけておくようにしました。
チェーンチョーカーに鑑札をしっかりつけています。