吉宗のこと
(2003年10月31日)
10月30日の夜9時。
僕は妻と二人、羽田から関西空港行きの飛行機に乗りました。
和歌山市にあの子猫を貰い受けるために。

27日の月曜日には、和歌山市の保健所から電話があり、
和歌山城の天守閣付近で保護された子猫は確かに確認されている、と伝えられました。
その瞬間熱いものがこみ上げてきました。
やはりとても嬉しかったのだと思います。
僕が見たあの子猫であることを何度も確認し、
餌と水を与えることをお願いして、1日も早く迎えに行ってあげたいと思いました。
しかしここ数ヶ月多忙で休みも満足に取れていない僕らの日程調整は難航しました。
でも、もしかしたら来週には生きていないかもしれない。
そんな気持ちに急き立てられ、30日夜から和歌山に向かったのです。
落ち着かない一夜を経て、僕たちはあの子猫に出会いました。
妻は初めて、そして僕は二度目。
しゃがれ声の雉虎の子猫。
僕が和歌山城で遭ったあの猫に間違いないことは直観できました。

東京から持参したキャリーの扉を開けると、
鳴いていたその子猫は迷いなく中に入りました。意外なほど素直に。
後で話すと、妻はその様子がとても嬉しかったようです。
その足で獣医さんに向かい、健康状態をチェックしていただきました。
笑い話にもなりませんが、僕はそのときまで性別すら分からなかった。
彼(雄でした)はやはり衰弱が酷く、かなりの脱水症状を示していました。
しかし彼にはこれからバスと飛行機、クルマでの移動が待っています。
栄養剤と抗生剤の注射をしていただいているうちに、リムジンバスの時間が近づいてきました。
獣医の先生も看護婦さんもとても親切で、事情を話すと「縁があったんですね」と
笑って話してくれました。そして診察料は要りません、とまで言ってくれたのです。
二重三重にお礼を申し上げて、僕たちは帰途に着きました。

そして31日午後18時。
もうひとりの家族とともに、僕たちは自宅に帰りついたのです。
まだまだ健康とは言えませんし、
人様の前に出せないような、行儀が悪くて小汚い奴ですが、新しい家族です。
後日、改めて紹介させてください。
彼の名前は、吉宗(よしむね)と言います。
紀州和歌山城から江戸にやって来たから。

半年前、僕たちは愛猫のマリンを失いました。
そしてこの同じ場所では二度と猫を飼うまいと決めていました。
でも、何故か、吉宗とのこんな出会いがありました。
同じ雉虎の子猫。
マリンと同じように可愛がってあげたいと思っています。
今のところ、彼がそれを望んでいるかは分かりませんが。(笑)