円形脱毛症からの生還
円形脱毛症になったサラリーマンが生き地獄から生還してくるまで記録です。
当コーナでは、皆様からのハゲ増しをお待ちしております。
denjin@lares.dti.ne.jp
までお送り下さいませ。
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第一話:「お父さん、ハゲてる」
第二話:この医者は凄い!!
第三話:医者再び
第四話:ハゲは人生感を変える
第五話:ハゲは経済的である
第六話:頭の次は胃である
第七話:一流の人
第八話:十年一昔
最終話:決断
■第一話:「お父さん、ハゲてる」
- その一言は突然に…
- 98年8月1日。
- 風呂上りに、ボケ〜としていると、突然妻の悲鳴に近い声が…。
-
- 「お父さん、ハゲてる!!」
-
- 私は、突然の事で何の事だか、さっぱりわからなかったので、ゆっくりと頭の中で妻の言葉を繰り返しました。
-
- 「お・父・さ・ん、ハ・ゲ・て・る・!・!」
-
- 「ハ・ゲ・て・る!!」
-
- 「ハ、ハゲ?」
-
- うそー!!
- 私は慌てて鏡の前に立ちました。
- そして、妻が指差す部分を鏡で確認すると、確かにハゲが…。
-
- 絶望
-
- この二文字が私の脳裏に浮かびました。
- そして、力のない声で妻に指示したのです。
- デジカメを持って来いと…。
-
-
-
- 少し時間が経つと気分も少し落着き、「円形脱毛症なんて、気の持ち方だから直ぐに治るさ」という考えが頭の中で徐々に広がり始めました。
-
- しかし、それは甘かった。とてもスイートだったのです。
- 日に日に抜け毛の数は増える一方。風呂で頭を洗うと、最初の濯ぎでまず百本。シャンプーを付けてゴシゴシ。右手に百本、左手に百本。
- 最後の濯ぎで、また百本。
-
- 抜けた毛を観察すると、完全に毛根がありません。
- 「気の持ち方」どころか、ドンドン気持ちは沈んでいきます。
-
- 「医者、医者に行かねば…」
-
- そんな気持ちが私の頭の中に広がります。
- 前職の後輩であるH瀬君(彼は若ハゲ)に相談すると、行くべき医者皮膚科だと教えてくれました。そして、とても有益な情報も…。
- それは、患部に注射をすると一週間ぐらいで元に戻るというものでした。
- 更に私を勇気付けたのは、それとほぼ同じ情報を、T嶋さんやN崎さん等多くの人から聞いた事です。
- 私は、遂に医者に行く事を決意したのでした。
-
-
-
- ※第一話を完結するにあたり。
- 実は私が円形脱毛症になる数ヶ月前に、会社の同僚であるI川課長も円形脱毛症になっていました。
- 「大変やな」とは思いつつ、心のどこかで「こんなんなったら、むっちゃカッコ悪いなぁ」と思っていたに違いありません。
- その報いなのでは…。
-
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-
- 今回の教訓「他人の不幸を決して笑う事なかれ」
■第二話:この医者は凄い!!
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- ハゲが見つかってから、約1ヶ月。私は近所の皮膚科に行きました。とても人あたりが良く感じのいい人でした。
-
- 医者:「円形脱毛症という事ですね」
- 電人:「はい」
- 医者:「何か悩みでも?」
- 電人:「いや、特には…」
- 医者:「仕事は大変ですか?」
- 電人:「はい」
- 医者:「じゃ、それが原因ですね」
-
- おい、本当か?本当にそれが原因なのか?
- そりゃ、仕事は大変だけど、すごくいい感じで仕事をしているんだぞ。
- そんな私の心の叫びを知ってか知らずか、医者は私の患部の診察を始めました。そして、私に症状の説明をしてくれました。
-
- 医者:「電人ブンボウガさん(勿論、本名を呼ばれます)、かなり重症です」
- 電人:「『重症』ですか?」
- 医者:「ええ。まず、ハゲが大きい。次に沢山あります。以上の事から重症と断定できます」
-
- おっさん、なめとんかぃ?そんなもん、ウチの娘かてわかるぞ。
- 等とは、決して口にせず、医者の目を盗んでは、中指を立てていました。
- 医者は、そんな事は気にもせずに、一冊の本を開き写真を見せながら、いずれこの写真の様になると説明をしてくれます。
-
- その写真の凄い事と言ったら…。この医者は私が中指を立ててたのを知っていて、わざとビビらせよう(脅かそう)としているのではないかと思われる写真でした。
- ここで皆さんにお見せできないのが非常に残念です。円形脱毛症というのが、こんなに酷い事になるとは…。
- もし、貴方の身の回りに円形脱毛症の人がいたならば、優しくしてあげて下さい。そんな気持ちになれる様な写真でした。
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- 結局その日は、ビビらされたのと(実に消極的な)赤外線治療を受けただけでした。
-
- 電人:「先生。注射とかで、ヒョイっと治らないんでしょうか?」
- 医者:「電人ブンボウガさんの場合、これからまだまだ抜けます。
- 生えるよりも速いスピードで抜けて行くので、やるだけ無駄です。抜けなくなってからですね、注射は…」
-
- そうなんです。抜けるのが止まった後で、基礎代謝を促進する薬を頭皮に直接注射するらしいのですが、折角生えても他が抜けるので、全く意味がないそうです。
- ひょっとしたら、円形脱毛症ではなく、ドーナツ型脱毛症になるかも知れないよと、身の毛もよだつ腐れギャグを背中で聞きながら私は医者を後にしました。
-
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- ※第二話を完結するにあたり
- 人に聞いたのですが、毛髪というのは頭皮の細胞のカスからできているらしいのです。ですから、基礎代謝の速い人は毛も早くのびるそうです。
- そう考えると、精力旺盛な人が基礎代謝が速いと仮定するとスケベは毛がのびるのが早いという説は、案外正しいのかも知れません。
-
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- 今回の教訓「医者は選べ」
■第三話:医者再び
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- 前回医者に行ってから2週間程のインターバルをおき、再び医者に行きました。
- 既にその時点で私の頭は、普通にしていてもハゲがわかる程まで進行しておりました。
-
- 医者:「順調に進行してますね」
-
- いわすぞ、こらぁ!!なんて絶対に口にしませんが、頭の中でプチプチと血管が切れていくのがよくわかります。
- 結局、この日で医者なんかアテにできないという結論に達しました。
- 医者は一応頭をみて、前回よりかなり増えてますねと言うだけで、治療らしい事は何もしません。
- 何でこんないい加減な医者が存在しているのか?(と思っていたんですが、冷静に考えると何もする事ってないんですよね)
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- その日、私は夕方から友人の結婚式2次会に参加する予定だったので、神戸に出かける事にしました。
- 円形脱毛症になってから、散髪に行ってなかったのでボサボサ。途中で阪急岡本駅の近所にあるギンバリという散髪屋に寄る事にしました。
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- それまで、私は自分のハゲの数を大体10個程度だと思っていたのですが、散髪屋さんに「もっとありますよ」と教えられ一つの決心をしました。
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- いや、驚きました。こんなにあるなんて…。この後、三人がかりで頭を剃ってもらいました。
- 「今まで、ハゲたら剃るって言うてた人は、ぎょうさんおったけど、ホンマに剃ったん電人さんが始めてやわ」と訳のわからない賞賛を
- 頂きながら、頭はツルツルになっていくのでした。
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- 散髪屋さんに「似合うかどうかと聞かれれば似合う。いいか悪いかを聞かれれば悪い」と正直な意見を頂き、私は散髪屋さんを後にしました。
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- 一旦、事務所に寄りそこから皆で2次会に行くつもりだったので、予定通り事務所へ。
- 事務所に入った刹那、皆の顔に緊張が走りました。そして、戸惑っていました。
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- 「どないしたんやろ?」
- 「何考えてるんやろ?」
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- きっとそんな事を考えているのだろうと予想していたのですが、答えは違いました。
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- 「誰かと思った」
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- 以外とそんなものなのかも知れません。ただ、この日結婚した友人には申し訳なく思っております。よりによって、こんな頭で行ったので
- すから…。
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- 第三話を完結するにあたり
- スキンヘッドにしたおかげで、風呂の時間は長くなりましたが、朝はとても楽になりました。
- ハゲを隠す為に悪戦苦闘していた5分を短縮できるのですから…。
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- 今回の教訓「眉毛は残すべし」
■第四話:ハゲは人生感を変える
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- いわゆる「スキンヘッド」になった私は、月曜日の朝一番に社長に呼ばれました。
- 大体の話しの内容は「お前の髪型(?)は普通ではない」でした。
- ちなみに、別に頭がハゲていようが、髪が長かろうがSEがその技術を発揮するのに一切関係ありません。
- しかし、奇抜な髪型、服装は社会的評価には大きく関係する事があるので、奇抜を好む人は十分覚悟して下さい。
-
- スキンヘッドになるまでは、いわゆる「ハゲ」の方と「ハゲ」について会話した事がありませんでした。
- 何となくタブーの様な気がして、髪に関する話題を自然と避けていた様に思えます。
- しかし、スキンヘッドになった瞬間から「解禁」状態。しかも、先方(ハゲの方)から話題を提供してくれます。
-
- 私の師匠的存在の一人であらせられるK山部長さんがそうでした。
- 「人より早く雨に気付くやろ?」「その頭でもシャンプーするのか?」等、今までは絶対に口にできないなかった
- 事を語り合う事ができました。
-
- 私をよく知っている人は「似合う」とか「スッキリした」と言ってくれるのですが、私を知らない人は必ず私を誤解
- しました。その代表が娘の通う保育園の父兄の方々です。
-
- どうも、私の職業が怪しいという噂が流れた様で、妻から「保育所には顔を出すな」と言われました。
- 娘には「人を見かけで判断してはいけない」などと説教しているわりには、髪型で判断する様です。
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- タイトルは「人生感を変える」などと大仰なものですが、下らない話しが続き申し訳ないのですが、もう少しのお付き合い
- をお願いします。
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- 普段、皆さんは就寝する時、枕をご利用になるでしょうか?私は、いつも枕を使用します。さて、この枕なのですが、
- 髪があった時は、冬でも普通に使えたのですが、スキンヘッドにした途端、「冷たい」と感じる様になりました。
- 頭の地肌というのはもの凄く敏感で、手で触った感覚と頭で触れた感覚では全く違います。
- 他にも、ちょっと頭にあっただけなのに、すごく「痛く」感じたりする事があります。
- くれぐれもハゲの頭を叩くなどという暴挙には出ないで下さい。本当に痛いのですから…。
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- 頭を剃ると何となく悪人に見えるのですが、見ようによっては「僧侶」に見えなくない事もありません。
- 中には、「僧侶」と間違えた方もいらっしゃる様で…。
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- ある夜、突然金縛りにあいました。金縛りはよくなるので、あまり気にならないのですが、その日の金縛りは
- いつもと違い、顔に髪が当たりくすぐったかったのです。手が動かないので、払いのける事もできずに、イライラし
- ながら再び眠りに就いた事を憶えています。
- 朝、目が覚めて鏡を見て、自分がスキンヘッドだった事を思い出した途端に、あれは誰の髪の毛だったんだろうと
- 不思議に思った事もありました。
- 私は基本的にビビリ(根性なし、恐がり、肝玉が小さい等の意)なので、こういう類の経験は嫌いなのですが…。
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- 話しはコロコロ変わるのですが、あるお客様に行った時、モヒカンの青年がいました。彼は私を変なものでも見る様な
- 目で見ていました。恐らくお互いに「変な頭しやがって…」と思っていたに違いありません。
-
- そろそろ締めを…。
- 髪の毛がありハゲが見えないかと気にしていた時より、スキンヘッドにしてからは精神的に遥かに楽になりました。
- そりゃ、警察に職務質問されたり、電車の中で塾帰りの小学生に「ハゲや。見事なハゲや」と指をさされたり、夜道で
- 女性の方に悲鳴を挙げられたりしましたが、気持ちは楽でした。
- もし、皆様の中に円形脱毛症でお悩みの方がいらっしゃいましたら、環境が許すのであれば、一度試されてはどうでしょか?
- 環境が許すのであればね。(実は剃ったおかげで、ハゲの治りが早くなったのでは?という意見もあるので…)
-
- ※第四話を完結するにあたり
- 今回は支離滅裂で、大変申し訳なく思っております。
- 何しろ、睡眠不足が続いているものでして…。<言い訳以外の何物でもありません。
-
-
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- 今回の教訓「スキンヘッドは常識の外である」
■第五話:ハゲは経済的である
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- スキンヘッドになってから、しばらくの間は、会う人会う人に頭の事を言われたのですが、1ヶ月もする
- と、皆慣れたのでしょうか、あまり頭の件については騒がなくなりました。
- (この時期頭の件を話題にするのは、社長だけでした)
-
- さて、今回はスキンヘッドがどれだけ経済的であったかを振り返りたいと思います。
- まず第一に散髪代がかからない。
- これは、非常に大きいです。実際に私は、98年10月から99年10月まで散髪をしていません。
- (ギンバリの皆さん、ご無沙汰しておりました)
- 1回に散髪料金(パーマ代は除きます)が私は4,000円だったので、12ヶ月で48,000円も経
- 費を削減した事になります。
-
- 次に整髪料。私は、ムースとかジェルの類を使用していたのですが、これも不要。
- また、ドライヤーを使用しなくなったので、これにかかる電気代も不要。さらにシャンプーをしないので
- シャンプー代も要りません。髪の毛の為に、こんなに無駄なお金を使っていたのです。
-
- では、代りにどんな費用が発生したか?
- 普通の人はあまり発生しないと思います。なぜなら、髭を剃るついでに頭を剃るので、わざわざ髭剃りを
- 新たに購入する必要はありません。ただ刃の寿命がやや短くなりますので、購入サイクルが少し早くなる
- 程度です。また、洗髪の様に何度も濯ぐ必要もありませんので、お湯の使用量も俄然少なくなります。
-
- 但し、私の場合はそうもいきませんでした。
- 何故なら、親譲りの悪人顔だったからです。くれぐれも誤解の無い様にお願いしますが、私は元来、小心
- 者ですので、思い切った行動にでるタイプではありません。しかし、流れている血や遺伝子に問題がある
- のか、部品は「悪人」シリーズなのです。
- ・細く吊り上った目。しかも一重瞼。さらに白目勝ち。
- ・普通にしていても、M字の口。笑ってもV字にはなりません。
- ・日焼けなどしていないのに、小麦色の肌。頭を剃った瞬間から頭が小麦色。
- ・たいして運動もしていないのに、でかい体。特に、仲間から「手のひらエイリアン」と呼ばれた手は、
- 人の顔を鷲掴みにできるほどでかい。
-
- これでは、職業が悪人と思われても仕方ありません。実際に、職業を聞かれて「コンピュータのソフト開
- 発をしている会社に勤めている」と言ってもなかなか信用してもらえませんでした。
-
- そこで、コンタクトレンズをやめて、眼鏡をかける事にしました(レンズで眼球を傷付けたという理由も
- ありますが…)。すると、どうでしょう。今まで悪人の顔だったのが、眼鏡をかけた途端に「生臭坊主」
- に変わったではありませんか。
-
- というわけで、私の出費は現在も使用している眼鏡だけです。これも1年間の散髪代で殆どが賄えます。
- 私の様に顔にハンディ(?)がない人は眼鏡を買う必要はないと思いますので、非常に経済的であります。
-
- しかし、冬は帽子をかぶる事をお勧めします。ただでさえ、耳がちぎれそうなくらい寒いのに、むき出し
- の頭では、耳どころか、頭ごとちぎれそうな感じです。
-
- ※第五話を完結するにあたり
- この時期、妻に毛糸の帽子を編む様にお願いしたのですが、どうも私の頭を守るよりゲームを攻略する方
- が重要だった様で、帽子が出来上がったのは、すっかり毛糸の季節が終わった頃でした。
-
-
-
- 今回の教訓「金が欲しけりゃ、毛を剃れ」
■第六話:頭の次は胃である
-
- 私が円形脱毛症になってからしばらくは、「ハゲ」の事だけが気になっていましたが、ある日鳩尾あたりに
- 「しこり」がある事に気付きました。
-
- なぜ、しこりがある事に気付いたかと申しますと、胃が痛くなってきたので、手を当てたら手応えがあった
- のです。
- その手応えは、過去に経験したことのないものでした。
-
- 「もしや、癌では…」
-
- そんな不安が私を襲いました。(結果的にはただの考えすぎ)
- 普段は医者には殆ど行かない私なのですが、流石にハゲが出来てからというもの、すっかり小心者になって
- おりましたので、すぐに医者に行く事にしました。
-
- 医者に行くとすごく簡単にしこりの正体がわかりました。
-
- 剣尖状軟骨
-
- 誰にでもあるそうです。但し、普段は奥の方にあるので、多くの人がその存在には気付かないそうです。
-
- 「後から押されている可能性があるので、一度カメラを飲んでみましょう」
-
- 医者は簡単にカメラを飲む事を提案し、さっさと日程まで決めてしまいます。
- この医者は何と手際のいい事でしょう。
-
- さて、問題の胃カメラを飲む日。
- 早速、看護婦がやってきて、私にカップを一つ手渡しました。
-
- 「喉を痺れさせるゼリーですから、喉で20分間とめておいて下さい」
-
- できるわけないやん。
- しかし、あまりに当たり前の様に言うので、きっとみんなは出来るんだろう。みんなに出来るのであれば
- きっと私も出来るに違い無い。そう考え、チャレンジする事に…。
-
- やはり出来ませんでした。喉まで達する事なく口の中だけが痺れてしまいました。
- つまり、肝心の喉は正常な感覚が残ったままだったという事です。
- その後、麻酔を注射されます。
- この麻酔が曲者なんです。実は、私は基礎麻酔と呼ばれる麻酔は効いた試しがありません。
- 中学生時代、盲腸の手術を受けた時も、手術台に自分で上ったくらい麻酔の効きが遅いのです。
-
- 「麻酔が効いてきたら、寝ている間に終了しますんで安心して下さい」
-
- 大嘘です。
- 結局、私はパッチリとした目でカメラ室へ。
- 医者は、じゃあ始めますよと一言前置きをし、私の口にカメラを挿入していきます。
-
- 「ぐぇぇぇぇぇぇぇぇぇ…」
-
- 吐く、吐く、絶対に吐く。と思っているのに、容赦なくカメラは私の中に入って行きます。
- 何でみんなこんな事を耐えれるんだろう?みんなが耐えているんだから、私も耐えなければ…。
-
- 「ホンマにみんな、こんな事耐えたんやろか?」
-
- そんな事を考えながら、私は画面を涙目で見つめていました。
-
- 苦しむ私の事など、全く気にもしないで、映し出された画面を見ながら医者は説明を行います。
-
-
←これが食道。
-
- 「ここが食道です。…今、胃に入りました。胃の出口の事を幽門部といいます。
- 表層性胃炎になってますが、大した事はありませんね」
-
-
←これが幽門部、どれが胃炎かわかりませんよね。
-
- 「ここが、十二指腸です。あー、奇麗なもんだ」
-
-
←これが十二指腸。何か変な写真だと言っても通じそう。
-
- 「じゃぁ、ちょっとカメラを反転させますね」(クィッ)
- (人殺しぃ〜)
-
-
←噴門部。黒いのがカメラのケーブルです。
-
- 「胃の入り口、噴門部です」
- 「ふぇんふぇい、ほのはわはに?」(先生、その泡何?)
- 「これですか?胃酸です。薬で抑えていますが、胃はこの泡だらけなんです。
- じゃ、カメラを抜きますね」
-
- ハッキリ言って拷問です。
- 私は、ぜぃぜぃしながら、医者に申し出ました。
- 「先生、その写真もらえるんですか?」
- 「ええ、いいですよ。しかし、電人ブンボウガさんはなかなかの豪傑ですな。
- 他の人で、画面なんか見てる人なんかいませんよ。大体苦しんではるから…」
-
- 苦しみもがいてもいいのであれば、最初にそう言ってくれ。
- 一世一代のやせ我慢だったのに…。
-
- 診断の結果、異常無しと言う事で、私はようやく開放されました。
-
- ※第六話を完結するにあたり
- この日は、私の妻の誕生日でしたので、プレゼントのゲームを購入して家に帰りました。
- まったく、胃は覗かれた上にゲームまで買わなければならないとは…。
-
-
-
- 今回の教訓「ストレスは胃にも効く」
■第七話:一流の人
-
- 一流の人とは、普通の会話ですら一流です。
- 当時私は、ある独立系のソフト会社(コンサルと言った方がよいかも知れませんが…)のお手伝い
- をさせて頂いておりました。
-
- そちらの社長さんは、私ごとき三流SEの顔を見ても「よろしく頼むぞ」と必ず声をかけて頂ける
- とても気配り上手な方です。
-
- その会社で作業をさせて頂いておりましたある日の事です。
- 「電人、お前に是非見せたいものがある」と一枚の広告を私に手渡されました。
- そこには大きな字で「完全増毛!!」と書かれていました。
-
- 「これで、お前のハゲも治ったも同然や。けどな、一つだけ副作用があるらしい」
- 社長さんは、さあ、早く副作用は何か聞けとばかりに私を見つめていらっしゃいました。
-
- 「何ですか?その副作用って?」(飛んで火に入る夏の虫状態)
- 「不能になるらしい」
- 「えー、それはツライですね」(お約束)
- 「そこでだ。これが役に立つ」
-
- 社長さんは、更にもう一枚、広告を私に手渡されました。
- 「パワー全開!!」
- 俗に言う滋養強壮剤。または精力剤の広告でした。
- まあ、予想通りでした。これで、私は社長さんにツッコム事ができます。
-
- 「順番を間違えてはいかんぞ。ハゲを治してから、こっちだ。」
- 「しかし、社長。これで、ハゲたままで、不能になったらどうしましょう?」(さあ、どうだ)
- 「おー、そうだな。お前なかなか面白いな」
-
- 社長さんは、そう言いながら退散するかの様に見えました。
- しかし、一流はここから凄い。
-
- 「そうなるとだな、自暴自棄になり酒に溺れ、精神も不安定になるので、この精神安定剤が役に立
- つ。精神が安定し始めると、今度は食べる量が増える。食べる量が増えると体重も増える。そうす
- ると、このダイエット食が役に立つ。……」
-
- 決壊したダムから流れる水の如く、私の目の前に現れる広告の数々。
- まさかここまで用意周到とは…。
-
- 一流の人はこの様に、例え遊びであっても事前準備を怠りません。
- やはり一流は凄い。
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- ※第七話を完結するにあたり
- 社長さん。「うちのF田部長にイジメられたから、ハゲたのか?」と心配されてられましたが、
- 決してそんな事はありません。
-
-
-
- 今回の教訓「一流に死角無し」
■第八話:十年一昔
-
- 「十年一昔」とはよく言ったものです。
- 人間、十年も経つとこうまで変わるものなのか?
-
- 私がまだ社会に出て2年目の頃に、お世話になったお客様が2000年対応の為に、コンピュータ
- を入替える事になりました。(毛先が球な歯ブラシを製造している会社です)
- そこで、当時のシステムに関わったと言う事で、私も約10年振りにお邪魔する事になりました。
-
- まあ、そこで話題になる事と言えば、私の頭。
- その時は、既にスキンヘッドを止め、頭はバンカー状態。目立つハゲは、右側頭部のハート型のハ
- ゲだけになっていましたが…。(おかげで妻には「ハート様」と呼ばれていました)
-
- お客様:「変わりましたね」
- 私:「ええ、すっかり肥えて、ハゲました」
- お客様:「カツラとかはしないんですか?」
- 私:「一時的な事ですからね。カツラって高いでしょ?無駄なお金はありませんから…」
- お客様:「うちの植毛機で植毛しましょうか?痛いですけど…」
- 私:「殺す気ですか?」
-
- そんな馬鹿な話をして、一度は仕事の話へ。
- しかし、どうしても10年振りという事もあって、ついつい話しは10年前へ飛んでしまいます。
- 10年前の関係者の近況等や、今回新しく加わった人の話し等々。
- この業界は、わりと出入りが激しく、私も10年前と現在では会社が違います。
- あの人はどうだとか、この人はどうだったとか…。
-
- お客様:「電人さんも、10年前はもっと『シュッ』としてたのにねぇ」
-
-
←10年前の電人
-
- 私:「うーん、あの時が一番スマートでしたね」
- お客様:「若かったしね」
- 私:「若かったって…。あの時私の歳を30手前って思ってたじゃないですか」
- お客様:「ははは、20代前半には見えへんかったよ」
- 私:「まだ、21やったんですよ」
- お客様:「苦労したんやね」
- 私:「今もしています」
-
- 関西では、仕事中でも漫才みたいな会話になる事があります。
- 勿論、こんな事になるのは一部だけの事で、大半のSEはまじめに仕事してますよ。
- (このホームページが社長に見つからない事を心より祈っています)
-
- ※第八話を完結するにあたり
- 私の歯ブラシは、10年前にここの仕事をして以来「毛先が球」です。
- ちなみに虫歯はありません。
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- 今回の教訓「中年太りは男の勲章」
■最終話:決断
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- いよいよ、最終話です。(ネタが尽きただけなのかも…)
- 私自身としては、完全に復活するまで、スキンヘッドで過すつもりでした。
- 殆どの人は、その意見に賛成だったのですが(立場上、何も言わない人もいましたが)、ただ一人だ
- け反対し続け、私にスキンヘッドをやめるように強く意見した人がいます。
-
- それは、社長。
- 書いて字の如く、会社の長です。
- 私の会社には、私より偉い人は沢山います(って言っても30人前後の会社だから…)。
- しかし、この人より偉い人は会社にはいない。
-
- 定期的に「そろそろ、やめたらどうだ?」という感じでの話し合いがありました。
- そりゃ、話し合いと言ってもエキサイトした事もありますけど…。
- 私も社長も気が短い方でして…。
- ※もし社長がこのページを見たら「俺は短気じゃない」とおっしゃると思いますが、
- 客観的な意見として申します。短気です。
-
- ここで、ディベートほどではありませんが意見を戦わせました。
- 当然、私は「スキンヘッドをやめない」側、社長は「スキンヘッドをやめる」側です。
- 社長は、まず私がスキンヘッドである事で会社が被る不利益を説明してきます。
- この意見は非常に正しい。
-
- 私は、スキンヘッドである事の妥当性を訴えます。
- 正直に言うと「ハゲがあるとカッコ悪い。舐められたくない」が私の本心で、あの時に述べた意見
- は、それを正当化しようとする為の言い訳なので、説得力がある訳がない。
-
- 私達SEは、よく「技術者」と呼ばれます。つまり、技術で商売をする者です。
- 髪型や服装は、SEたる技術を発揮するのに、一切関係ありません。
- それは、恐らく誰もが認めるでしょう。社長もそれは認めています。
-
- そして、SEの殆どの人は自分のSEとしての力量を評価されたいと思っているはずです。
- 「あの人は仕事ができるから一流のSEだ」と…。
- 「あの人は素敵な髪型だから一流のSEだ」と評価する人もいないと思いますが、そんな評価を受
- けたいと思っている人もいないでしょう。
-
- 私もそうです。やはり力量を評価して欲しい。(大した力量も無いくせに…)
- あの人は素敵な髪型だから一流のSEだ」と評価する人はいないのですが、困った事に
- 「アイツは変な髪型だから、三流のSE(人間)」だと評価する人は沢山います。
-
- 社長はその辺を突いてきました(恐らく、程度の低い私にレベルを合わせたのでしょう)。
- 「そんなどうでもいい事で評価されても面白くない」と…。
-
- 別にこの意見に感銘したわけではありませんが、ある事に気付かせて頂きました。
- それは、自分が評価してほしい部分だけを評価しろと言うのは、随分高飛車な態度であると言う事
- です。国語が得意で算数が苦手な子供が、「国語だけを採点しろ。算数は採点されたくない」とダ
- ダをこねている様なものです。
-
- これに気付いてしまっては、もうダメです。
- 何も言っても「嘘」になってしまいます。
- 言い訳までは、自分を許せたのですが、「嘘」はいけません。(言い訳を許すのも変ですが)
- 何しろ、子供に「嘘をつくな」と言ってる手前、私が嘘を言っては…。
-
- その日から私は、頭を剃る事をヤメました。
- すると、どうでしょう。あれだけあったハゲが、ハート型のハゲを残すのみとなっていたのです。
- おかげで、妻には「ハート様」だの「ハート型脱毛症」だのとバカにされました。
- ハゲを隠す為に、鍔無しの帽子をかぶっていたら、「ゴブリンみたい」とも…。
- 自分の亭主を大事に思う気持ちはないのだろうか?
-
- それはさておき…。
- 今では、ほぼ完治している状態です。ハート部分の毛が他の部分より2〜3センチ短いだけです。
- 私のスキンヘッド時代を知っている人は、「あー、もうすっかりやな」と言います。
- 私のスキンヘッド時代を知らない人は、「あれ、パンチやめたん?」と言います。
-
- パンチになった時…。
- その時こそが、本当に円形脱毛症から生還した時です。
-
-
-
- 今回の教訓「パンチは毛によろしくない」