『神道集』の神々

第四十四 鏡宮事

人皇二十一代安康天皇の御代、奥州浅香郡の山里から一人の男が年貢を納めに上京し、四條の町の店先で鏡を見つけた。 その山里では誰も鏡を見た事が無かったので、商人の「これは鏡といって、様々な財宝を湧き出す宝物です」という言葉を信じ、大金を出して購入した。
山里に帰った男がこの鏡を覗くと、財宝ではなく五十四~五歳の男の姿が見えるだけである。 男の妻がこの鏡を覗くと五十歳前後の女の姿が見えたので、「この家には私がいるのに、他の女を連れて来た」と泣き出した。 三人の息子の嫁たちもこの鏡を見て、「別の嫁を連れて来た」と泣き出した。
そこに一人の比丘尼が来て、「これは鏡といって万物の姿を写す物です。あなたたちが見たのは自分の姿です。鏡は人間は自分が老いていく姿を写して、後世を願うようにする宝なのです」と語った。
男はこれを聞いて持仏堂を建立し、その鏡を本尊に懸けた。
やがて男は仏道修行して立派な往生を遂げ、夫婦ともに浅香郡鎮守の鏡宮として顕れた。

鏡宮

奥州浅香郡(安積郡)は現在の福島県郡山市に相当するが、鏡宮に該当する神社は現存しない。

本説話は『鏡男絵巻』[LINK]や狂言『鏡男』[LINK]などでも知られるが、夫婦が神と成る件は見られない。