99.3.14
山の夕暮れ

山の夕暮れは早い。四方を山に囲まれた土地では日没にはまだかなり時間があるのに、陽が傾いて山の陰に隠れるとたちまちあたりは暗くなり空の青さだけが残る。
山歩きはほとんど泊まりがけが多い。いつものように笠取山から降りてきて高橋部落はさざんか村の廃屋の近くでキャンプをする。 途中、西の方に沈む夕陽に照らされながら暗くならないうちに足早に降りて来るのだが暗闇が迫って来る時の寂しさはなんとも言えない。
子供の頃、友だちと遊んでいて気がついたら皆帰ってしまっていて、残っていたのは自分ひとりだと気付いた時の事が脳裏をよぎる。そしていつもここで想像するのは戦国時代、いくさに破れて峠を越えて行こうとする落武者のことである。
さっきまで気が張り詰めて歩いていたのに陽がかくれて暗闇に包まれたとたんに気力が萎えて急に傷の痛みが全身を襲い、寒さと悪感に包まれる。自分はここで終わりだろうか?と感じた瞬間に意識が遠退いてゆく。
山に住む人達にとって、一日のうちのこの刻は生まれた時からあたりまえのように過ごしてきたのだろうか?山に住む人達が感じる寂しさとはどんなものだろうか?

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