2018.10.27
楽曲エッセイ:Souvenirs/Dan Forgelberg どんな屈強の男でも涙する

 1974年にリリースされたダン・フォーゲルバーグの2ndアルバム、"Souvenirs" の中のタイトル曲である。
デビューした1972年頃は全く視野に無かった彼を初めて聴いたのは80年代初頭、渋谷のタワーレコードでこのジャケットを手に取ったら裏にイーグルスのメンバーの名前が見えたのが切っ掛けだった。
米国のシンガーソングライターであることは聞いていたが、サポートアーチストの名前からどんな作風かおおよその予想はしていた。まず期待通りだったのだがとても惹かれたのがこの1曲であった。癒される1品である。
 歌詞の中の、"The strongest man cries." なる一節に琴線が揺さぶられた次第である。
それは一人で山歩きをしていて、峠を越えて視界が開けたときに見えた光景が涙を誘った経験からである。
ダンもそういう経験をしていたのかもしれない。
中ジャケの彼の手になるイラストも小屋の窓から望むそんな山の景色である。
 歌詞から伺えるのは、訳あって妻と離れて暮らしている時に彼女の事を思いやる、というシチュエーションかもしれない。この歌詞は妻から送られて来た詩がそのまま綴られているのか、あるいは彼の妻への思いが綴られているのか定まらないところがいい。リフレインから後に出て来る "you 貴方" が彼から見た妻なのか、妻から見た彼なのかどちらにもとれる。 自分は妻にしてみたのだが...
但し、この曲が書かれたのは独身時代とのこと。

 彼は1951年8月13日、イリノイ州の生まれで、2007年12月16日に前立腺癌で亡くなっている。享年56歳。
別名、”ひとりCSN&Y”、”ひとりイーグルス” と呼ばれているように、多重録音で演奏からボーカルハーモニーまでこなしてしまう。
自分にとって今や大切な1品である。
Souvenirsを有り難う。

Souvenirs

私が家を空けていた頃のある朝、彼女から送られてきた詩がある
それはモンタレーのどこかで見つけたという木の葉の裏に記されていた

遥か昔、子供の頃に住んで居た家の鍵がある
私が引っ越すので取り壊されたビルの鍵はもう用無しだ

谷を見下ろせば煙が立ち昇ってゆく
風に乗って行って貴方の眼にもとまるだろう
遠い昔を思い出せば、どんな屈強の男でも涙する

朝陽が貴方の敷居に迫りゆく
夜明けの亡霊が忍び寄るごとく
それは貴方の哀しみには眼もくれない
そして貴方は沈黙を守る
思い出の品に囲まれて

written by Dan Forgelberg
from "Souvenirs"


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