2019.4.20
楽曲エッセイ:Poco/Paul Cotton 鉄道3部作
Railroad Days
Standing In The Fire
Every Time I Hear That Train

 今回は前回の楽曲エッセイで取り上げたPocoのリードギタリスト、ポール・コットン作の鉄道3部作である。
Pocoにはメンバーのリッチー・フューレイ、ラスティ・ヤング、ティモシー・シュミットと共に4作目のアルバムから参加したポールが自作曲を提供しているのだが、ポールはほぼ半数の曲を担っている。今回取り上げる3曲はいずれも鉄道を題材にしたもので、もしかしたらポールは鉄道ファンかもしれない。鉄道趣味は世界共通らしいが、クルマ社会の北米では蒸気機関車に対するノスタルジーが強いようである。それがこの3曲にも現れている。
 ポールの作詞は語数が少なく、意味より感性、音の響きに重きを置いているようだが、この3曲のシチュエーションは長いPocoの歴史の中で青年、中年、壮年期と変化している事を感じさせる。アラバマ出身のポールはやはり南部への思いが強いようで、どこかR&Bの香りが漂う。また、この3曲もブルーカラーの視点で描かれているように思う。リードギターもカントリーの軽快なチキン・ピッキンではなく、サザン・ロック風味でビブラートを深く掛けた重機関車を思わせるリックはポール印と呼びたくなる。

"Railroad Days" 1971年リリースの4作目、“From The Inside*1" に収録。

もう日曜気分の土曜なのに
これじゃ仕事なんか無理だぜ
線路は崩れているし
カマ(機関車)は破裂するし
新しい機関士を探してこなきゃ

これじゃ歩幅を倍にしなきゃ無理だぜ

よう(機関助手)、調子はどうだい?
俺の身になって助けてくれよ
俺の気持ちわかるだろ。
お前だって仕事どころじゃないだろ。

線路は崩れているし
カマ(機関車)は破裂するし
新しい線路を敷き直さなきゃ
いやもう(手)遅れだ。

車輪だけ抱えて途方に暮れるかい?
俺は一からやり直しだ
これじゃ家に帰れないぜ

written by Paul Cotton
from "From The Inside"


"Standing In The Fire" 1984年リリースの18作目、“Inamorata*2" に収録。
 このジャケットには蒸気機関車の正面が描かれており、ベッド上の女性に対する男性をシンボライズしているのかもしれない。Inamorataはイタリア語で恋人、情婦という意味だが、1969年のデビューから70年代に掛けてのPocoならまず使わないタイトルであろう。

もう一度機関車(火室)の中さ
俺は労働者
いつも一か八か
今日は折れてやろうか
望みがあるなら最初の一歩から
もう一度機関車(火室)の中さ
俺は労働者

暫く機関車から離れていた事もある
毎日工場のラインで働いていた
うまい話はいくつも聞いたが
いつも決まって稼ぎにはならん
望みがあるなら最初の一歩から

来る日も来る日も遅刻はしなかったぜ
ロボットに仕事を奪われるまではな

人生の苦難からは逃げられない
暫くは足踏み状態だったが
工場の音から遠く離れた俺の聖地に向う方に賭けたんだ。

もう一度機関車(火室)の中さ
俺は労働者
いつも一か八か
今日は折れてやろうか
もう一度機関車(火室)の中さ

written by Paul Cotton
from "Inamorata"


"Every Time I Hear That Train" 2002年リリースの20作目、“Running Horse*3" に収録。

僕らはこの道を数え切れないくらい通った
郡境を何度も越えた
いまよりもましな場所を探して
守れる誓いは何度も立てた
これまで稼いだ道のりは忘れることは出来ない
なんて遠いところまで来てしまったんだろう
授業で学んだ事の裏には橋が掛っている(別の見方がある)
ひとりぽっちの夕暮れはもうたくさんだ
汚れた雨の日々はもうたくさんだ
泣き叫ぶ夜はもうたくさんだ
まだ違う道がある事を信じて
僅かに残された時間がある事を
闇夜に汽笛を聴いたなら
汽車の音を聴く度に
ハリケーンのように心の中を通り過ぎて行く
まだ残された疑問にも答えはありそうだ
汽車の音を聴く度に

山から湾(海)まで赤いタイルが敷き詰められ
君にしがみつき、息も付けない
いつかこの土地の人となり、棲み付く事を思った
捨て去ったすべてを今日は取り戻せるかもしれない
君と愛し合った場所と共に
砂の上の8月の暑い夜
それが始まりだった
僅かに残された時間
闇夜に汽笛を聴いたなら

written by Paul Cotton
from "Running Horse"

*1
*2
*3

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