2003.6.8
お腹が痛くなる音楽

 以前、武満徹の「弦楽の為のレクイエム」のCDを聴いていたときのことである。一緒に聴いていた相方が言った。
「この曲、お腹が痛くなって来る!」 実はわたしも同じ思いを持っていたのである。
ただ、わたしの場合は子供の頃、夜中にお腹が痛くなって眼が醒めて、しばらく和らいでくるのだが、また少しづつ痛くなって来てピークを迎え、また和らいで来る。そういうことが何度か繰り返されて、最後に我慢が出来なくなって親を起こすのであった。 この曲の進行過程が、そのときの様子そっくりだと思っていたのである。けして本当にお腹が痛くなるのではない。 この曲を聴いていると子供の頃の思い出がよみがえって来るのがいいなと思っていた次第である。
そういうことを説明したのだが、相方は「本当にお腹が痛い」と言う。神経に障るらしい。音楽というものは時に無慈悲だ。
この曲は武満徹が結核を患っていた時に作曲されたものだと聞く。 やはり体調は作品に反映されたのであろうか?
武満徹の自著によると、ストラビンスキーはこの曲について「深海の底のような音楽」「厳しい音楽」という感想を述べたそうであるが、立場上そのような表現をとったとも考えられる。ストラビンスキーは自分の家ではまた違った感想を述べていたのではないだろうか?
なにはともあれ、それ以来、相方がいっしょに居る時には「弦楽の為のレクイエム」は聴けなくなってしまった。

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