渓谷



2004.8.14
鳩の巣渓谷

 6年ほど前、奥多摩周辺で自分のCDを置いてもらえる喫茶店やギャラリーを探して鳩の巣を尋ねた。*
鳩の巣はJR青梅線で終点の奥多摩駅(旧氷川駅)よりふたつ手前に位置し、都心からも交通の便が良いことから日帰り山行に人気がある。 山歩きはここ20年くらいは多摩川水源である笠取山周辺がほとんどであったが、いつもは通過点に過ぎなかった鳩の巣も自分の足で歩いてみると、これがとても素晴らしいところであることを再発見した次第である。
水源は人家は皆無であり、それはそれでまた良いのだが、鳩の巣周辺のいわゆる里山の良さはやはり、人の生活の温もりである。険しい渓谷なので人は急な斜面にへばりつくように生活している。
その中でも自分の一番のお気に入りは、駅前から渓谷に少し下って雲仙橋と呼ばれる車がすれ違えないような細い橋を渡る時である。時刻は黄昏れ時に限る。橋の真中付近から上流を望むと、深く険しい山ひだが幾重にも重なってその彼方に陽は沈み、それは荘厳であり、懐かしくもあり、思わず合掌したい衝動にかられる。 渓谷のその彼方がまるで御先祖様の居るところへ通じているように感じられるのである。
橋と言うのはそういう特別な舞台装置としての役割があるような気がする。これが大自然のまっただ中で、人の気配が全く無い所だったらそういう気持ちにはならないであろう。
橋を題材にした映画があった。"マジゾン郡の橋"で主人公の遺言に従って、子供達が橋の上からその遺灰を撒くラストシーンは印象的であった。

*:"コーヒーとギャラリー 山鳩"は駅に程近く、山歩きの帰りにお勧めです。
*:"ギャラリー ぽっぽ"は手工芸品と眼下に渓谷を眺めながらのコーヒーが格別です。

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