2006.5.14
ドレミファ電車

 ドレミファ電車と言えば、東京圏に住んでいて京浜急行に乗ったことがある方なら「ああ、あれか」と思われる人は少なく無いと思われる。 わたしもたまに京急に乗る機会があるのだが、5〜6年前に初めて乗った。
電車が動き出す2〜3秒の間に、「ドレミファソラシドレ〜」という音階のような音がするのである。
15年くらい前からだろうか?電車が動き出すときにヒ〜〜というかなり高い周波数の音が出始めた。 当時の新聞の記事で読んだのだが、「最新の省エネ電車はモーターが直流から交流になり、交流電気の周波数を制御することでモーターの力を制御する。」とのことだったので、その周波数のノイズだなと推測していた。その音はかなりうるさく、旧式の電車ではそんな音は出ていなかったので、省エネといってもうるさくなっては台なしだと思っていた次第である。
ところが、この京急の「ドレミファソラシドレ〜」を初めて聞いた時には思わず笑ってしまった。 早速、家へ帰って相方に「今日はドレミファ電車に乗ったんだよ。発車するときにドレミファソラシドレ〜って言うんだよ」と自慢してしまった。 「どうしてドレミファなの?」という相方の質問に、「自転車の変速と同じだよ、動き出す時は1段目から漕ぎ出して、スピードが上がるにつれてギヤをシフトアップしてゆくだろ、ギヤチェンジのレバーがピアノの鍵盤になったと思いたまえ!」 相方曰く「なんだかよくわかんないけど乗ってみたい!」という次第であった。 因に、我が家の周辺は急坂が多いので相方のママチャリは7段変速である。

 さて、最近このドレミファ電車が登場したいきさつを知った。 この電車はシーメンスというドイツの電気メーカーの部品を使っているそうで、ドイツ人の技術者も周波数の高いこのノイズをなんとかしたいと思っていたところ、 電車がスムーズに発進して加速するようにギヤチェンジならぬ周波数を段階的に上げていったら音階のようになったそうである。ピアノでよく使われる平均律とぴったり同じではないが「ファ、ソ、ラ♭、シ、ド、レ♭、ミ、ファ、ソ〜」に近似しているそうである。
ノイズも音階にしてしまうとおもしろい。でも毎日聞かされる沿線住民はいつまでもニコニコはしていないだろう。さすがにドイツ人技術者もお遊びで済まさなかったようである。2004年に登場した最新型の京急はドレミファはもう鳴らない。ノイズ自体を耳障りにならない周波数にすることでわざわざ音階にしなくとも済むようになったそうである。

 蒸気機関車やチンチン電車は懐かしい音の記憶の殿堂入りをして久しい。さて、この京急のドレミファ電車の音にノスタルジーを感じる日は来るのだろうか?
相方が「今、ドレミファ電車に乗れたよ!」とメールをくれた。

参考文献:
阿出川 剛司 「鉄道車両インバータの音質」自動車技術 vol.60, No.4,2006

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