2006.12.7
超高周波音の世界

 アナログレコードに替わってCDが登場してから24年が過ぎた。 CDのサンプリング周波数は44.1KHzであるが、これは人間が聞こえる周波数の上限がおおよそ20KHzであるところから決まったものだが、20KHzを優に超える高周波の音が含まれている音楽があることも20年ほど前から判ってきた。 それに呼応してサンプリング周波数96KHzを売り物にしたDVDオーディオが登場したことは記憶に新しい。 ただ、「やっぱり96KHzの音はいいねえ」と思えるかどうかは、「ビフィズス菌が入っている○○を飲んでいるからおなかの調子がいいねえ」と同じ世界らしい。
ところで、やはりここ20年ほどの間の研究で、耳に聴こえない20KHz以上の高周波音が含まれていると脳のα波の出方が顕著になるという知見が得られたそうである。 α波は座禅をしていたり、恍惚状態で発生することが知られており、この現象を上手に使って人間が心地よい環境をつくり出す研究も行われているそうだ。
ただ、超高周波の音が人間の身体にはビタミンのような働きをするのか、有害な面もあるのかは、まだ充分解明されていないらしい。 超音波を聞き分けるバットマンや超音波で会話するサイボーグはSFのネタとしては面白いが、拷問で超音波を浴びせられて気が狂ってしまったスパイなどはちょっと怖い。
音の世界における超高周波の功罪は良く判っていないのに対して、光の世界の超高周波の功罪はある程度明らかである。 目に見えない紫外線は殺菌効果があるが、紫外線の多い直射日光を長時間浴びると目の炎症を起こすし、皮膚癌になりやすいと言われている。 目に見えない赤外線は逆に超低周波だが、暗闇の中を透視したり、ストーブから発する赤外線は暖かい。 しかし度が過ぎると低温やけどを起こしたり、気分を悪くさせる例があるそうである。
音の世界に戻るが、地下鉄の真上に住んでいた人が身体の不調を訴えて調べたら、耳には聴こえない超低周波の騒音が出ていたという例もあるそうである。 音も光も同じ波動だが、度を越した周波数は使い方次第で毒にも薬にもなるのだろう。
超高周波音の世界がだんだん判ってくるのも興味深いが、一方、音楽の世界では判ってしまわないほうが良かったなんてこともある。 悩ましいところである。

参考文献:
大橋力 「インドネシアの打楽器オーケストラ“ガムラン”」 日本音響学会誌54巻9号
東倉洋一 大橋力 小泉宣夫 誌上座談会「超高周波音が拓く音の新世界を探る」 日本音響学会誌62巻12号

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