99.2.8
カエルの歌

1月25日から2月5日まで南米はベネズエラへ行く機会があった。北緯5度付近の赤道に近いVALENCIAという街に滞在した。年間を通して20℃から30℃の気温で、今は乾季とのことである。昼間は陽射しが強く30℃を越えているが湿度が低いらしく夜になると20℃程度で少し肌寒いほどである。
さっそく日本で耳にするような虫の音が聴こえるか耳を澄ますと、多少音色が違うが(虫にも訛りがあるか?)日本でちょうど夏場に聴こえるような連続的にジーという虫の音が聞こえてきた。そして現地の訪問先の人にいつもやっている質問をしてみた。「今聴こえる虫の音をどう感じますか?」
彼は「Ruido」だと言った。「Ruido」とはスペイン語で「ノイズ」のことだそうだ。日本に於いて「日本人以外は虫の音がノイズにしか聴こえない?」という乱暴な言い回しを耳にするのに疑問を持って、外国に行く度にこの質問をするのだが、北米の人達に質問した限りでは今まで日本人と同じような、音としてある情景を思い浮かべられるような好意的な良い印象を持っている解答を得ていたので、彼の解答には多少がっかりしてしまった。
「なぜですかね?」と聴いてみると、「日本のような季節の移り変わりがあれば、虫の音を聴けばその季節を連想することができるけど、年中耳にしているとねえ。」という返事だった。なるほど、そうか。
その代わり面白い話を聞かせてもらった。現地のジーという虫の音の中に日本では聴こえないヒー、ヒーという奇麗な音色が時々混じっているのだが、この音は何ですか?と聞くと
「Rana・・・カエルですよ」とのこと。「じゃあ、このカエルの鳴き声はいかがですか?」と聞くと「Sonal」だと言う。「Sonal」とは「Ruido」がノイズを意味するのに対して良い意味での「サウンド」のことだそうで、この答えに少し嬉しくなった。更に彼は「Canto de Ranas」と付け加えてくれた。「カエルの歌声」だそうである。
なかなかベネズエラ人もやるではないですか。カエルの声が季節的な音かどうかを確かめることができず仕舞いだったのは残念だった。
日本の四季が私たちの音文化に影響を及ぼしていることは確かだと思う。が四季に恵まれていないベネズエラでも自然の音に対してこうした多様な反応をしているということを知ることができたのは収穫だった。

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